上 下
633 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

本当に怖いよヒロインちゃん

しおりを挟む
「な、ななななんでここにいるの設楽華っ!?」

 青花が叫ぶ。うう、耳にキンキンするよう……。

「わ、分かった! 樹くんの拒絶も無視して無理矢理押しかけてるのねっ! 少しは人の気持ちも顧みたらどうなのっ」

 びしり! と指を差された。人を指差しちゃいけないんだよう。
 私は少し気弱になってる。いや、相手がヒロインだから、とか、私が悪役令嬢だから、とか、運命がどうとかではなくて、ですね。

(単純っ、に! この子、怖いよ!)

 なんで樹くんの家知ってるの?
 なに堂々と「イベントがまだだから」とか言えるの? なんでヒトんちの玄関先で喚き倒せるの?

「……あのう、樹くんいないから」

 出直して、も変だよね。もう来て欲しくない。

「二度とうちの敷居を跨がないでください」

 ぽろっと本音が出てしまった。

「……は?」

 たっぷりと間をためて、それから青花はそう言った。

「ウチ? ウチってなに」
「あー、そのー」

 一緒に暮らしてる、ってバラすのはどうなんだろ。余計逆上する……?
 しどろもどろになっていると、背後から少し低い声が聞こえた。

「ねぇ玄関先できゃんきゃん煩いんだけど」
「け、圭くんっ。なんでここに!?」

 青花がキャアと叫んだ。

「ていうか! だ、だよね、この人ウルサイよね!?」

 だからヒトを指差すなというに。
 私は鼻先まで突きつけられた、青花の人差し指から顔をそらした。

「煩いのはそっち。ていうか、ぼく、キミにいつファーストネームで呼んでいいなんて言った?」
「ほえ?」

 ぽかん、とする青花。

「ていうか、ほんと、こないだから何。ほんと誰」
「え? えーと、ほら、わたし」

 青花は少し慌てたように言う。

「圭くんが、お父さん亡くされて、ただでさえ心の傷が癒えてないのに、そこに塩を塗り込むように意地悪をしてくる設楽華を」
「は?」

 圭くんは青花を見下ろした。

「誰が? 誰に?」
「だ、だから設楽華が、圭くんに」
「ねえあんまり煩わせないで。ぼくを名前で呼ぶのやめて。ていうか、ぼくに関わらないで」
「だ、だって、ほら!」

 青花はハッと気がついたように言う。

「お父さんの描かれた白鳥の絵! こ、この人に盗られたじゃない」
「白鳥? これのこと?」

 圭くんの指差す先には、例の白鳥の絵。静子さんが気に入って、お客様がいらっしゃるときなんかは家のどこかに飾られることが多いのだ。今日はたまたま、ここに飾ってあった。

「……あり?」
「ねえ、わかったら帰って」
「いや、えっと? てか、なんで圭くんはここに?」

 圭くんは大きく息を吸った。あれだけファーストネームで呼ぶなと言って、まだ通じないせいかもしれない。
 怒りと呆れと諦めがないまぜになったような、大きなため息をついた。

「ここは、ぼくとハナとイツキの家」
「ふええ?」

 青花が大きな目をぱちくりとさせてそう言ったとき、運転手の佐賀さんが玄関に入ってきた。

「桜澤さま。ご自宅にお送りするよう、樹さまからご指示を賜っております」
「い、樹くんから!? はい、はぁい。ほんとに心配性なんだから~」

 すっかりご機嫌な青花は、佐賀さんに連れられて玄関を出て行く。
 私は、がくりと膝をついた。

「……なんだったの」
「大丈夫、ハナ? また変なのに絡まれてるの?」
「うー、ごめんね、圭くん。巻き込んで」
「いや、それはいいんだけど……イツキに連絡した? チアキ」

 廊下をすうっと、千晶ちゃんが曲がってきた。

「ごめんね、直接顔を出すと返って迷惑かなぁって。あの子逆上して」
「う、うん、ありがと」

 上がり框にへたり込んだまま、千晶ちゃんを見上げる。

「はい」
「?」

 唐突にスマホを渡された。

「樹くん」
「え!?」

 画面は通話中。

「も、もしもし!?」
『華』

 樹くんの声だー。
 私はへにゃりとしてしまう。

『大丈夫か』
「うん、圭くん来てくれて。樹くんもありがと」

 圭くんと千晶ちゃんの会話的に、千晶ちゃんが樹くんに連絡して、樹くんが佐賀さんに青花を回収するよう指示を出したってとこだろうと思う。

『それはいいんだが……何もされてないな?』
「? うん」
『今、あいつの身辺調査をさせている』
「身辺調査!?」
『何か裏があると読んでいるんだが』

 私は苦笑いした。多分、あの子にはそんなのなさそうだよ……。

「あ、てか、いま時間大丈夫!?」

 時差があるから。えーと、イギリスはいまサマータイムかな?

『心配するな、もう朝の7時だ』
「朝ごはん食べるところ?」
『概ね、そんな感じだ』

 電話の向こうから、樹くんを呼ぶ声がする。

「あ、樹くん、呼ばれてる」
『うむ、行かねば……華』
「なあに?」
『愛してる』
「ひゃあ!」
『なんだその返事は。……では、またな。圭と鍋島によろしく』

 忍笑いするように笑って、それから少し楽しそうに言う樹くん。それから通話は切れた。

「もー」
「随分らぶらぶですことね?」
「ち、千晶ちゃん」

 千晶ちゃんにスマホを返しながら私は少し慌てる。き、聴こえてなかったよねぇ? ほっぺた赤くなってないかなぁ、もうう。

「てかハナ、あの子ほんとに知らないんだよね?」
「うん……」

 ゲーム的には、知ってるけど。

「ぼくのことも頼ってよねハナ」

 圭くんは笑った。思わずきゅんと来るような、可愛らしい微笑み。私の横で千晶ちゃんが悶絶している。

(そーだ、千晶ちゃん元々圭くん推しなんだった)

 もちろん、ゲームの話なんだけど。

「ハナは少しボケーっとしすぎてるから、なんか変な奴に目をつけられるんだよ」
「ぼ、ボケーっとはしてない」

 必死で否定したけれど、圭くんにも千晶ちゃんにも「何言ってんの」って顔をされた……え、ウソ。私、シッカリしてるつもりだったんですけど……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも、私男性恐怖症なんですけど…。

三木猫
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公の美鈴。どうせ転生するなら悪役令嬢とかライバルに転生したかったのにっ!!男性が怖い私に乙女ゲームの世界、しかもヒロインってどう言う事よっ!? テンプレ設定から始まる美鈴のヒロイン人生。どうなることやら…? ※本編ストーリー、他キャラルート共に全て完結致しました。  本作を読むにあたり、まず本編をお読みの上で小話をお読み下さい。小話はあくまで日常話なので読まずとも支障はありません。お暇な時にどうぞ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...