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分岐・鍋島真

神様にお願い

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 学校へ行って、まずは相良先生のところへ行く。

「あれ、先生寝不足?」
「ま、色々ありまして……」

 私を探るように見た先生は「鍋島さんのこと?」と直截に聞いてきた。

「はい。何か知りませんか」
「……申し訳ないけど。警察が分かってる以上のことはも分からない」
「はい……」

 私は俯く。……昨日、てか今朝方までの真さんの様子を思い返す。

(あんなに憔悴して、)

 2、3時間だと思うけれど(私も爆睡してしまったので、正確なところは分からないけれど)寝させられて良かった、と思う。

「何か分かったら教えてもらえますか?」
「約束します。だから……ひとりで探す、なんてことはしないように」

 頷いて職員室を出た。

ではダメなんだもんね)

 ひとりじゃなきゃいいんだ。
 真さんと合流して捜索を続けようと決める。
 千晶ちゃんが心配なのはもちろん、真さんも1人にしてはおけないと思う。

(でも、その前に)

 数日前に転校してきた女の子、石宮瑠璃さんのところへ向かう。

(この子は、千晶ちゃんいわく、だけれど……千晶ちゃんが悪役令嬢な"ゲーム"のヒロイン)

 しかも、どうやら前世の記憶があるみたいで、転校初日からやたらと、私と千晶ちゃんに変に構ってきていたのだ。

(……とはいえ、関係ないとは思う)

 さすがに、誘拐(拉致?)に関わってなんかはいない、とは思うんだけれど。
 そんなことを考えて廊下を歩いていると、目的の人物が自分からこちらに向かってきていた。

「あ、」

 石宮さん、と話しかけようとして、彼女の勝ち誇ったような笑みに気圧される。

「……石宮さん?」
「ほら!」

 石宮さんは裏返ったような声で、開口一番そう叫んだ。

「ほら、ほら、ほら、ほら! 天罰が下った!」
「……え?」

 その「可愛らしい」と表現してもいいだろうかんばせに、狂気じみた笑顔を貼り付けて、彼女は私に詰め寄ってくる。

「言ったでしょう!? 瑠璃! 言ったでしょ!? あなたたち、悪役令嬢には天罰が下るんだって、あは、あははははは!」

 私は心が凍りつくような感覚に襲われながら、しかし急速に確信を深めていたーー千晶ちゃんの失踪、この子、何か知ってる!

「い、石宮さん、千晶ちゃんのこと、何か知ってるの」
「あは、瑠璃は何もしらなぁい。神さまだけが知ってるんじゃない」

 くふくふくふ、と石宮さんは笑う。楽しくて仕方ない、というように。

「お願い! 教えて!」

 私は石宮さんに縋りつくように嘆願する。

「千晶ちゃん、今どこにいるの!?」
「知らない、知らない、知らない」

 石宮さんは歌うように紡ぐ。

「瑠璃は何も知らない、
「神様……?」

 石宮さんは、どん、と私を押した。よろり、とよろめいて、私は廊下に立ちすくむ。

「あなたたちは悪者! 瑠璃はヒロイン! だから神様は瑠璃のお願いを聞いてくれるの」

 瑠璃は微笑む。ほんのり笑くぼが浮かぶその愛らしい頬は、しっとりと上気して、しかし開きかけたような瞳孔とそれは酷くアンバランスで、ーー私は動けなくなった。恐怖で。

「あは、あははははは! 次はあなただよ、設楽華! あははははは!」

 歌うように、踊るように、瑠璃は歩き去っていく。私は震えながら、制服のポケットからスマホを取り出して、人目につかないところで電話をかける。

『華』

 最初のコールで真さんが出た。私はすう、と息を吐いて、吸って、それから何とか口を開く。

「真さん、例の転校生、多分ビンゴです」
『……おーけー。ところで華』
「はい」
『何かされたね?』

 私は一瞬息を飲んだ。言ってしまおうかと思う。怖かったと。

(でも、千晶ちゃんのことで手一杯だろうに)

 大丈夫だ。私は、オトナなんだから。

「いえ?」
『……そ。また連絡する。ふつうに学校にいて』
「え、やです。私も探したい」
『君にまで何かあったら、僕は本当に生きる意味がなくなっちゃう』

 細い声だった。

『お願い』
「聞けません」

 きっぱりと言う。じっとなんかしてられない。

「さもなければ、ほんとにひとりで探しますよ」
『……迎えにいく』

 真さんから言質をとったので、昇降口の下駄箱の前で(外には出るなと厳命されたから)体操座りになって待った。
 授業はとっくに始まっている。時折、校庭から体育の授業の声が聞こえてきた。

「華」

 しばらくして、真さんが到着する。制服姿なのは、服装を考える余裕がなかったからだろう。

「どう探しますか? その転校生、石宮さんっていうんですけど」
「考えあるから、とりあえず職員室まで案内してくれる?」

 にこり、と優雅に真さんは笑った。

(あ)

 眠ったのが良かったのか、なんなのか、少し余裕が戻ってきているみたいだ。
 職員室には相良先生がいて、真さんを認めると、少し面白くなさそうな目で真さんを見た。

「?」
「華はさ」

 真さんは、なぜかわざとのように私の髪をさらりと撫でて微笑んだ。

「廊下で待っててね」
「なんでですか?」
「ふふふ」

 真さんは目を細める。

「あの新幹線での、ヨダレ寝顔写真を全世界に公開されたくないんなら、大人しく廊下で待機。分かったね?」
「ぐっ」

 こんの、クソガキ!
 こちとら、いちおう乙女(?)なんだぞ!

「わ、わかりましたよ」

 ちょっと元気になったらやっぱり可愛気がないんだからさ、なんて思うけど、でもその可愛げのなさに、なぜか酷く安堵を覚えた。
 しばらくして「ああほんと可愛げのないクソガキだな!」という私と全く同意見を呟きながら、相良先生が真さんと出てきた。

(え、どうしたの!?)

 相良先生は渋面に渋面を重ねました、みたいな顔をしている。

「ふふ、先生、僕だって伊達に鍋島の長男やってないんですよ」
「あーもー絶対約束守ってよね!?」

 相良先生はぷんすか怒りながら「設楽さんも付いてきて!」と歩き出す。
 ……あのう、一体何が起こっているのでしょう?
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