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【高校編】分岐・鹿王院樹
逃走
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嘘嘘嘘嘘どんな顔していいのかわからない!
(え? だって、え?)
好き? 好きなの? 樹くんが、私を?
大混乱だ。走りながら、私は一人で叫びだしそうになった。
冬の冷たい空気がのどと肺に張り付くみたいに、うまく息ができない。
なんとか中庭の噴水までたどり着いて、私はそこのベンチに腰かけて息を整えた。
「ふう」
「華」
撒いたはずの樹くんが走って中庭まで来て、私は慌てて渡り廊下から校舎へ上がった。靴は脱ぎ散らす、構ってなんからんない、緊急事態だしどんな顔していいかわかんないし!
「待て、華、話が」
「ごめん今無理っ」
叫んで階段を一段飛ばしで駆け上がる。うう、頑張って私の心臓……って大げさか。
テキトーに逃げ込んだ校舎は教室棟で、私は背後を見て誰もいないのを確認して適当な教室に逃げ込んだ。今日は日曜だから、当然誰もいない。
ふう、と息をついてしゃがみこむ。混乱する頭の中をなんとかまとめようとしたら、がらりと扉が開いた。
「うえ」
「華」
樹くんだ。なんで分かったんだろう。
疑問が顔に出ていたらしく、「いや、隠れて動向を覗っていた」と少し申し訳なさそうに言われた。
(うう、とっくに追いつかれていたのね)
行動、超読まれてましたか……。
「華」
樹くんが目の前にしゃがみこむ。真剣な目。真摯な表情。
(どうしよう、顔赤い)
私は体操座りで顔を膝に埋めた。
「華、顔を上げてくれないか」
優しい声。私は埋めたまま、首をふる。いやいやする子供みたいに。
「華……済まない」
樹くんはそう言って、私をぎゅうっと抱きしめた。
「……好きだ」
「ど、ういう意味で」
「ひととして。女性として。すべての意味で」
「いつから」
「最初からだ、華。会った瞬間から。あの日、赤い振袖を着て桜の下で笑っている華を見た、あの日から」
「う、うそ」
私は顔を上げた。
「そんなこと、一言も」
「言った」
「うそ、いつ」
樹くんは少し眉を寄せてから「確か沖縄で」と答える。
「うそ」
「将来も大切にしたい、と」
「そ、そんなの」
私は多分酷い顔をしている。でもどんな表情かは自分でもわからない。だって、今私、自分がどんな感情なのか良くわかっていないんだもの!
「それと、華が熱を出したとき」
「いつの?」
「中学の時か。あの時、華が甘えてきてくれたから」
「は、甘え、えっ!?」
私は思いだし赤面する。
「あれ、私、夢だと思ってた」
「夢なものか。はっきり言ったぞ、俺は。愛していると」
思わず上げた視線と、樹くんのそれがぶつかる。
熱い目。うそ、気づかなかった、というよりは……気づかないようにしてた。
(だって)
もし、私の勘違いだったら。
もし、樹くんがほかの子に恋をしたら。その時私は、身が引けなくなると思って。
きっとゲームの華みたいに、その子にたくさん嫌がらせをしてしまうんじゃないか、って……。
「悲しい思いをさせた、のか、俺は」
樹くんはそっと私を抱きしめていた手を離す。そして、その手を私の頬にあてた。
「華」
「うん」
「俺は」
はあ、と樹くんはうなだれて、それから私のおでこに自分のおでこをコツン、と当てた。
「俺は本当にダメな男だなあ!」
「そんな、ことは」
「しかし華も鈍すぎるだろう」
樹くんは至近距離から私の目を見て離さない。
「俺が好きでもないひとと手を繋いだり、頬にキスするような男だと思っていたのか」
「や、だって、小学生のころからだったから……慣習的なものかと」
「それは最初から華が好きだったからに決まっているだろう」
「う、」
おでこを離したかと思うと、そこに唇が降ってくる。
「まったく、……しかし、それだけか?」
「え?」
「それでけで、俺の気持ちは気づいてもらえなかったのか……いやまあ、はっきり言葉にして伝えなかった俺が一番悪いのだが」
「だから、樹くんは悪くないんだって……あ」
私はぽかんと樹くんを見上げた。
(う、わ、やられた)
思い出す、黒猫の瞳。
「真さん」
「ん?」
「だまされた……」
樹くんの眉間がきつく寄せられた。
「あの人に何をされた」
「うん、あのね」
私は何とか、真さんが電話で聞かせてくれた「その時は地獄です」的な発言のことについて話す。
「華、それは違う。それは、華に好きな人が、という仮定の話であって」
「うん、わかってる、……ごめん」
私はうなだれた。
「私、樹くんより真さんを信じてたわけじゃない、んだけど。そんなつもりは、なかったんだけど」
結果的にそういうことになっている、ような。
「華」
それでも、樹くんは優しい声だった。
「華は悪くないだろう。華は……好きだと言ってくれた」
「う、ん」
沖縄で。あの時限り、だけれど。
「それなのに俺は……てっきり、勝手に伝わっていると思って。華に甘えていたんだな」
もう一度、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「言葉にしなくては、伝わらないこともあるのに」
そう言って、樹くんは私の耳元で囁くように言った。
「華、好きだ。愛している。大事だ。何よりも」
「い、つきくん」
「華は」
樹くんは甘えるように言った。
「まだ、俺のことを好きでいてくれているのか」
「当たり前だよ」
私は、そっと腕を樹くんの背中にまわす。
「大好き。ずうっと一緒にいて」
ヒロインちゃんになんか、目をそらさないでね。
「あのね、ごめんね」
樹くんは樹くんなりに、気持ちを伝えてくれていたのにね。
私が意固地になって、誤解して、勝手に悲観して、諦めていたんだ。
諦められるはずなんか、なかったのに。
「だから、」
華は悪くない、と言おうとしてくれたのだろうその唇に、私はそっと口づけた。
(もう、我慢しなくていいんだよね?)
唇を離して、目をあける。
樹くんの瞳が揺れて、そこに確かな熱があるのが感じられて――私は少しだけ、息をのんだ。
(え? だって、え?)
好き? 好きなの? 樹くんが、私を?
大混乱だ。走りながら、私は一人で叫びだしそうになった。
冬の冷たい空気がのどと肺に張り付くみたいに、うまく息ができない。
なんとか中庭の噴水までたどり着いて、私はそこのベンチに腰かけて息を整えた。
「ふう」
「華」
撒いたはずの樹くんが走って中庭まで来て、私は慌てて渡り廊下から校舎へ上がった。靴は脱ぎ散らす、構ってなんからんない、緊急事態だしどんな顔していいかわかんないし!
「待て、華、話が」
「ごめん今無理っ」
叫んで階段を一段飛ばしで駆け上がる。うう、頑張って私の心臓……って大げさか。
テキトーに逃げ込んだ校舎は教室棟で、私は背後を見て誰もいないのを確認して適当な教室に逃げ込んだ。今日は日曜だから、当然誰もいない。
ふう、と息をついてしゃがみこむ。混乱する頭の中をなんとかまとめようとしたら、がらりと扉が開いた。
「うえ」
「華」
樹くんだ。なんで分かったんだろう。
疑問が顔に出ていたらしく、「いや、隠れて動向を覗っていた」と少し申し訳なさそうに言われた。
(うう、とっくに追いつかれていたのね)
行動、超読まれてましたか……。
「華」
樹くんが目の前にしゃがみこむ。真剣な目。真摯な表情。
(どうしよう、顔赤い)
私は体操座りで顔を膝に埋めた。
「華、顔を上げてくれないか」
優しい声。私は埋めたまま、首をふる。いやいやする子供みたいに。
「華……済まない」
樹くんはそう言って、私をぎゅうっと抱きしめた。
「……好きだ」
「ど、ういう意味で」
「ひととして。女性として。すべての意味で」
「いつから」
「最初からだ、華。会った瞬間から。あの日、赤い振袖を着て桜の下で笑っている華を見た、あの日から」
「う、うそ」
私は顔を上げた。
「そんなこと、一言も」
「言った」
「うそ、いつ」
樹くんは少し眉を寄せてから「確か沖縄で」と答える。
「うそ」
「将来も大切にしたい、と」
「そ、そんなの」
私は多分酷い顔をしている。でもどんな表情かは自分でもわからない。だって、今私、自分がどんな感情なのか良くわかっていないんだもの!
「それと、華が熱を出したとき」
「いつの?」
「中学の時か。あの時、華が甘えてきてくれたから」
「は、甘え、えっ!?」
私は思いだし赤面する。
「あれ、私、夢だと思ってた」
「夢なものか。はっきり言ったぞ、俺は。愛していると」
思わず上げた視線と、樹くんのそれがぶつかる。
熱い目。うそ、気づかなかった、というよりは……気づかないようにしてた。
(だって)
もし、私の勘違いだったら。
もし、樹くんがほかの子に恋をしたら。その時私は、身が引けなくなると思って。
きっとゲームの華みたいに、その子にたくさん嫌がらせをしてしまうんじゃないか、って……。
「悲しい思いをさせた、のか、俺は」
樹くんはそっと私を抱きしめていた手を離す。そして、その手を私の頬にあてた。
「華」
「うん」
「俺は」
はあ、と樹くんはうなだれて、それから私のおでこに自分のおでこをコツン、と当てた。
「俺は本当にダメな男だなあ!」
「そんな、ことは」
「しかし華も鈍すぎるだろう」
樹くんは至近距離から私の目を見て離さない。
「俺が好きでもないひとと手を繋いだり、頬にキスするような男だと思っていたのか」
「や、だって、小学生のころからだったから……慣習的なものかと」
「それは最初から華が好きだったからに決まっているだろう」
「う、」
おでこを離したかと思うと、そこに唇が降ってくる。
「まったく、……しかし、それだけか?」
「え?」
「それでけで、俺の気持ちは気づいてもらえなかったのか……いやまあ、はっきり言葉にして伝えなかった俺が一番悪いのだが」
「だから、樹くんは悪くないんだって……あ」
私はぽかんと樹くんを見上げた。
(う、わ、やられた)
思い出す、黒猫の瞳。
「真さん」
「ん?」
「だまされた……」
樹くんの眉間がきつく寄せられた。
「あの人に何をされた」
「うん、あのね」
私は何とか、真さんが電話で聞かせてくれた「その時は地獄です」的な発言のことについて話す。
「華、それは違う。それは、華に好きな人が、という仮定の話であって」
「うん、わかってる、……ごめん」
私はうなだれた。
「私、樹くんより真さんを信じてたわけじゃない、んだけど。そんなつもりは、なかったんだけど」
結果的にそういうことになっている、ような。
「華」
それでも、樹くんは優しい声だった。
「華は悪くないだろう。華は……好きだと言ってくれた」
「う、ん」
沖縄で。あの時限り、だけれど。
「それなのに俺は……てっきり、勝手に伝わっていると思って。華に甘えていたんだな」
もう一度、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「言葉にしなくては、伝わらないこともあるのに」
そう言って、樹くんは私の耳元で囁くように言った。
「華、好きだ。愛している。大事だ。何よりも」
「い、つきくん」
「華は」
樹くんは甘えるように言った。
「まだ、俺のことを好きでいてくれているのか」
「当たり前だよ」
私は、そっと腕を樹くんの背中にまわす。
「大好き。ずうっと一緒にいて」
ヒロインちゃんになんか、目をそらさないでね。
「あのね、ごめんね」
樹くんは樹くんなりに、気持ちを伝えてくれていたのにね。
私が意固地になって、誤解して、勝手に悲観して、諦めていたんだ。
諦められるはずなんか、なかったのに。
「だから、」
華は悪くない、と言おうとしてくれたのだろうその唇に、私はそっと口づけた。
(もう、我慢しなくていいんだよね?)
唇を離して、目をあける。
樹くんの瞳が揺れて、そこに確かな熱があるのが感じられて――私は少しだけ、息をのんだ。
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