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【高校編】分岐・相良仁

期待(side仁)

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「いいトシしてピアスですかぁ」
「だめなの? そんな法律あったっけ」
「え、もしかして華様があけたから? だから自分も開けたんですかぁ」

 ウワ~、なんて言ってくれちゃう小西を俺は少し睨んだ。てか、なぜまた俺の部屋にいる。
 梅雨に入る直前のことだ。日本の湿気にはなかなか慣れない、そんな日のこと。
 帰宅したらまた小西がいた。

「引越しまでしたのに……!」
「甘いですね」

 うふふ、と小西は笑って足を組み替えた。座っているのは俺のソファで、いや別にいいんだけどさ。いや良くない。

「もー、帰ってください送るから」
「今回も変なものはありませんでした。華様アルバムとか」
「……ないよ」

 スマホのアルバムは華だらけだけど……いや、自分でも引くけど。

「相良さんってスマホのバックアップ取ってないんですか」

 やっぱパソコン経由で見ようとしてたか、小西め……。甘い。

「さー、特に写真とかも撮らないからね」

 必要ないかな、なんてうそぶいてみせる。小西は少し悔しそうにした。
 そう言う会話があって、しばらく経ってのことだった。
 小西が華の護衛についていて、俺は休暇で家の掃除をしていた。
 唐突になるスマホ。小西からの着信。

「はいはい?」
『相良さん、アリソン・フレミングが華様に接触しました』

 なにそれ。一瞬言葉を失った。

(余計なこと言ってねーだろな)

「どこ?」

 小西が答えたのは、北鎌倉の線路沿いのカフェレストラン。

「2人きりは阻止して。なんかヨケーなことするかも」
『分かりました』

 ぷつり、と電話が切れて、俺もすぐに家を飛び出た。
 そこからはもうてんやわんやだった。アリソンに苦情をいれて帰宅させて、小西にフォローまかせて(あんまいると小西に怪しまれるから)カフェを離れた。
 まぁここまではいい。問題は翌日だった。

「……なに」
「いや、どうしたのかなーって」

 華さん超不機嫌モード。
 第二社会科準備室。放課後、俺がのんびりコーヒーを飲んでいるとやってきて、不機嫌顔でコーヒーを要求された。
 華の前にコーヒーカップを置く。
 華は「ありがとう」と小さく言った。無言。
 仕方なく、俺は窓の外を眺めた。雨だ。いつまで降り続くのか……。
 華に視線を戻すと、……泣いていた。静かに。

「え!?」
「ごめん」

 華は立ち上がる。

「なんでもない、ごめん。今日帰る」
「いやいやいやいや、なに!?」

 俺は華の腕をつかんだ。

「え、なんかあったのか」
「ないよ」
「あるだろバカ、なに、俺何かした?」
「……した」
「なに? 教えて」

 華の両腕を軽く掴んだまま、俺はしゃがみこんで華を見上げた。
 華も泣きじゃくったまま座り込む。綺麗な目から、溢れて止まらない涙。

「……」

 俺は黙ったまま、華を抱え上げて、扉の鍵を閉めた。それから本棚の間に移動する。ここからなら、扉の窓からも姿が見えない。
 床に下ろそうとすると、力が抜けたみたいにぐにゃぐにゃして立てそうにないから、俺が座り込んで膝に華を乗せた。

「なぁ、教えて? 何したの俺」

 うわぁって思う。小西あたりが聞いたら「ウワー!」って言ってドン引きしそうな甘い声。

「……仲間はずれにした」
「は?」
「昨日、あんな早口の英語で話されたら何言ってるか分からない」

 いや、まぁ、分からないようにそうしたんだけど。

「私に知られたくないことでもあるの?」
「それは」
「アリソン先生とはどんな関係なの? 小西先生は?」

 華は少し息を整えながら言う。

「なんで英語が話せるの? どうしてボディーガードなんて仕事してるの?」

 華は俯いた。

「私、仁のことなにも知らない……」
「……ごめん」
「あんまり聞いたら嫌われるかと思って、聞けなかった」
「嫌いになるわけ、」

 俺は華を抱きしめる。ぎゅうぎゅうに。

「そんなわけないじゃん」
「……うん」

 華が小さく頷く。俺は続ける。まずは言いやすいところから。

「英語話せるのはね、俺がイギリス人だから」
「うっそ」

 華が睨み上げてきた。

「マジ。父親が日英ハーフで母親日本人だから、見た目完璧日本人だけど」
「えぇ……」

 華はまじまじと俺を見る。

「えー、圭くんみたいに目の色が違うとかもないじゃん」
「うんまぁ、うん」
「詐欺だ」
「なにがだよ」

 頭を軽く小突く。

「でね、小西は俺と同じだよ。お前のボディーガード」
「えっウソぉ」
「そうじゃなきゃ小学校から高校までずーっといるなんて変だろが」
「あ」

 華は瞬きした。

「保健室の先生って、ちょっと特殊だしそんなもんかと」
「そんなわけあるか」

 相変わらず人をあんまり疑わないなぁこいつは。

「それで、えーとアリソン・フレミングはなぁ、」
「うん」
「父親の部下」
「お父さんの?」
「そー」

 うーん、と俺は首を傾げた。

「学生の時に喧嘩して縁切ったつもりだったんだけど、なんか知らねーけど国に帰ってこいって」
「え」

 華は俺を見つめた。

「帰っちゃうの」
「帰らねーよ」

 ぽんぽん、と頭を撫でた。

「帰らない」

 ずうっとここにいる。
 頭にそっと口付けた。華は抵抗しない。……期待しちゃうよな。

「なんでわざわざ部下の人が?」
「さあ、直接言っても帰ってこなさそうだと思ってるんじゃねーの」

 めんどくさいオッサンだからなぁ、と俺はひとりごちた。
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