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【高校編】分岐・黒田健

まさかの再会

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 今日の分のノルマが終わると、もうとっぷりと日が暮れていた。エントランス前まで、先生が車を回してくれる。私たちの班、4人で乗り込む。一番後輩なので、助手席に座った。一応、年功序列的な……? 先輩たち、全然厳しくないけど。

「学校戻らなきゃなの?」
「いえ、現地解散で」
「じゃあ直接家まで送るよ」

 車の中で、きゃあと歓声が上がった。

「センセーって、独身?」

 相良先生はなかなかカッコイイので、先輩たちも少しテンションが上がっていた。

「そですね、独身です」
「彼女いないの」
「彼女になってほしい人はいるけど」
「え、誰々!?」

 あの先生かな、この先生かな、とみんな推理しだすけど、相良先生は笑った。

「僕、この学校赴任したばっかですよ。もっと前からの付き合いです、大学からの」
「へぇー、告らないんですか」
「なかなかね~」

 先生は寂しそうな顔をした。
 家に近い順に送って行って、最後は私。
 2人きりで、なんとなく気まずい。

(?)

 相良先生、なにかを言いよどんでいるような。

「あのさ」
「? なんですか」

 いつもより、少し砕けた言い方。

「覚えてなかったらいいんだけど……いや、イヤなんだけど」
「はぁ」

 相良先生は、ひとつの名前を口にした。

「知ってる?」
「えと、」

 私はどう答えたらいいのか迷う。知ってる名前。でもそれは、前世、かつて死ぬ前に友達だった人の名前。

「それから、」

 と相良先生は続けた。

("私"の名前!)

 前世での名前。この世界では、アキラくんしか知らないはずの。
 私は何度も瞬きした。確信が広がっていく。

(嘘でしょ)

 涙が浮かんだ。

「う、そ」
「久しぶりだな、って大体毎日会ってたんだけど」

 私はぽろぽろと涙が止まらない。会えるなんて思ってなかった。前世での友達に!

「あんま泣くなよー」

 俺が泣かせちゃったみたいじゃん、と彼は言う。

「なぁ、昔の名前で呼んでいい?」
「えっと、それはどうだろう」

 私は考える。私は、かつての私と同一?

(違う、かな)

「……今の私、設楽華だから」
「りょーかい。華」

 にやり、と彼は笑う。

「ええと、相良くん」
「仁でいいよ、下の名前、じーん」
「えっそんな名前だっけ」
「覚えとけよ、それくらい」

 何年担任してると思ってんだ、と仁は言う。

「いつ気づいたの?」
「えーと……最近」
「ふーん」

 どの辺でバレたんだろ、とも思うし、気づいてもらえて良かった、とも思う。

「でもすごい偶然だねー?」

 嬉しくてテンションが上がる私に、仁は曖昧に笑った。

「?」
「ま、そのうちな」

 そう言われて、ふふ、と笑う。

「なんだよ」
「黒田くん、そのうちって昔からよく言ってたの、そのうちな、って」
「……相変わらず仲良しで結構なことで」
「うふふふ」
「ちぇ」

 仁は苦笑して「まぁ、お前が幸せならそれでなによりだよ」と言ってくれた。
 帰宅して、黒田くんにメールを送る。ほどなく返信が来て、例の事件についての報道が意外に少なかったことを知る。

【設楽の家のこともあって配慮されたんじゃないか】

 というのが、黒田くんの意見で、私は確かにそれはあると思った。

【新聞報道は思ったより少ない】
【週刊誌とか当たった方がいいかもしんねー】

 五年前の週刊誌なんて、どこにあるんだろう。黒田くんは、東京の図書館まで行ってみる、と言っていた。

【私も行く】

 そう返信すると、電話がかかってきた。

『無理すんな』
「でも、私」

 被せるように言う。

「知りたいんだよ。毎日夢に見るの」
『……夢』
「あの夢が、本当に起きたことなのか」
『それ知って、余計に眠れなくなるとかねーのか』
「それは、分からないけど」

 私は言い淀んだ。

「でも……そろそろ、逃げ続けてる訳にはいかない気がする」

 華の記憶と、きちんと向き合わなくては。
 恐怖と悲しみで、頭の奥深くに眠ってしまった"華の記憶"。それが少しずつ漏れ出してきているのだ。それはきっと「もう耐えられる」と脳が判断したから、だ。思い出しても大丈夫だと。

(でも、私は私でいられるのかな)

 記憶が戻った時、私は別人になってやしないかな。

「ねぇ、黒田くん」
『なんだ』
「私、性格変わっても好きでいてくれる?」
『どうした、急に』
「詳しくは会って話すね、けど」

 私は怖い。自分が変わってしまうことが。

(記憶が戻ったら、私、"ゲームの設楽華"になっちゃうのかな)

 ……そんなことはないと思う。両方の記憶がある千晶ちゃんは、ゲームの千晶とは性格が違う、と思う。ゲームの千晶みたいに、真さんのことを好きになってもいない。

(それでも怖い)

 何が怖いって、黒田くんに嫌われてしまったらどうしよう、と思う。

『何が不安なんか知らねーけど、好きだよ』
「……うん」
『ちゃんとずっと死ぬまで好きだよ』
「……うん」
『死んでも好きだよ。……泣くなよバカ』
「うん」

 電話越しの優しい声に、私は小さく頷いた。きっと大丈夫だ。

(私はひとりじゃないもの)
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