上 下
596 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

"ワガママ"な許婚の噂(side???)

しおりを挟む
 12組において、特にエスカレーター組じゃなくてスポーツ推薦で高校から入ってきたオレたちにとって、鹿王院樹は特に目を惹く存在だった。
 まぁ単に見た目が整っているとか、背が高い、とかもあるけど(とは言え、もっとデカイやつもクラスにいる)入学式で美少女お姫様抱っこしてたりその子が許婚だったり、そもそもが超お坊ちゃんだったりと、まぁとにかく話題性に事欠かないヤツだったのだ。

 女子からの目線も熱かった。

「えー、かっこいい」
「同じクラスラッキーだね」

 同時に鹿王院に「決まった相手」がいるのが不満みたいではあった。
 鹿王院のいないところで、決まって女子たちはヒソヒソとそんな話をしていた。

「許婚とかってさぁ、オヤとかに勝手に決められちゃうの?」
「かわいそー」
「恋愛とかできないじゃんね」

 ひそひそ、と噂話。
 まぁたしかに、とオレも最初は思った。
 美少女許婚は羨ましいけど、あれだけイケメンだったらもっと遊びたいとか色々あんじゃないの、と。
 それに、こんな噂もあった。

「あの子、かなりワガママだって」
「あ、鹿王院君本人が言ってって噂聞いた」
「それそれ、あいつはワガママだからみたいに言ってたんだって」
「やっぱりねー、目つきとかキツそうだし」
「性格きつそう」
「わかるー」
「鹿王院くんカワイソー」

 勝手な憶測が尾ひれをつけていってるよな、なんてオレは側から見る分には思ってた。
 まぁそんな女子からの熱視線に気づいているのかいないのか、当の鹿王院は日々を淡々とこなしていた。
 ある授業でグループ学習になった時、オレはなんとなく、同じ班になった鹿王院に話しかけた。

「許婚、可愛いよな」

 鹿王院はほんの少し、眉を寄せた。それから「そうだな」と答えた。

「ハナは可愛い」
「ハナちゃんて言うのか」

 無言で鹿王院はオレを見た。その目がなんとなく不機嫌そうで、オレは首をかしげる。

「ええと……あ」

 オレ鈍いな。
 苦笑いして手を振る。

「鹿王院、世間話、世間話。これ。お前の許婚に何かしようとか思ってないから」

 鹿王院は少し驚いたような顔で、それから眉を下げて「すまん」と笑った。

「自分でも気にしすぎなのは了解しているのだが」
「まぁあれだけ可愛かったらな~」

 話しながらオレは思う。なぁんだ、「恋愛できない」とかないじゃんな。コイツあの子に恋してるんだから。

「なにハナちゃん?」

 鹿王院は紙に「設楽華」と書いてくれた。

「華ちゃんか、名は体を表すってやつだな」
「そうだろう」

 少し自慢げな鹿王院。なんだ、意外に可愛いやつだな。

「あ、でもワガママとか噂聞いたけど」
「そうなのか? まぁワガママだろうか、そんなことを言うこともあるが」
「へぇ」

 当たる噂話もあるもんだな、とオレは思った。ワガママなのか。まぁあれだけ美人なら何でも許せるか。でもちょっと興味あるなぁ。

「例えば?」
「そうだな」

 ふむ、と鹿王院は考えるそぶりをした。というか、結構喋るなこいつ。無愛想なヤツかと勝手に思っていたけど。

「俺が気に入って良く着ているジャージがあるんだが」
「ジャージ?」

 うむ、と鹿王院は頷いた。

「3月に選抜に選ばれて、合宿に参加していたのだが」
「あー、そういやお前って代表にも呼ばれてるんだよな」

 すげえな、と言うと苦笑された。

「ジュニアオリンピックの金メダリストに言われたくはないな」
「お、知っててくれてた?」

 マイナー競技だから、知られてないかと思ってたけど。

「クラスの人間がどの競技をしているかくらいは把握している。特殊なクラスだしな」
「まぁな」

 さっきからこちらをチラチラ見ている女子達だって(華ちゃんを性格悪いに違いない、って噂をしてた子たち)陸上にフィギュアスケートにバレーボール、それぞれ有力な選手ばかりだ。

「まぁそれで、俺は一週間くらい家を空けたんだ」
「てか、その言い方ってさ……一緒に住んでるって噂、まじ?」
「それは本当だ。華の保護者は今アメリカにいて」
「あー」

 そういうことか、とオレは思った。ド庶民だから良く分からないけど、いずれ結婚するならもう一緒に暮らしちゃえってこと? あー、羨ましいな、それ。好きな子といつも一緒にいられるなんて。
 オレの表情をどう思ったのか、鹿王院はまた苦笑いした。

「俺たちはキスもまだだぞ」
「は?」

 オレはぽかんと見つめた。うっそ至近距離に好きな子いて?

「手を出したのがバレたら華は多分アメリカに連れて行かれる」
「うっそ、キツイなそれ」
「生殺しだ。しかも華は分かってるのか分かってないのか、……あれは分かってないな、平気で部屋に来る。風呂上がりとかに」
「うーわ」
「くっついて来られると可愛いのだが、……色々と困る。だが少し距離を取ろうとしたりすると怒ったり拗ねたりするからな、うむ、その辺はワガママだ」

 淡々と言うけど、うん、ただのノロケですね。まぁ大変そうだけど、高校生男子としては。

「つか、ジャージはどうなったんだ」

 脱線してた。

「ああ、それでな。合宿前日にそのジャージを持っていくなと言い出して」
「?」

 オレは首を傾げた。ジャージ?

「とにかく置いていけの一点張りで、まぁ仕方なく置いていったのだが」

 鹿王院の口元がほんの少し、緩んだ。俺の許婚はメチャクチャ可愛いんだって自慢したくてしょうがない感じ。

「帰宅して祖母から聞いたところによると、家にいる間ずっと華が着ていたらしい」
「へぇ?」

 オレは笑った。

「華ちゃん、鹿王院いなくて寂しかったんだな」

 鹿王院がいつも着ているジャージで寂しさを紛らわせていたんだろう。ぶかぶかだったろうに。

「本人はバレてないと思っているらしいんだがな」

 ワガママだろう? と鹿王院は笑って立ち上がった。

「そろそろこれを提出してこよう」

 課題のプリントだ。すっかり忘れていた。

「あ、すまん」
「構わん」

 鹿王院はプリント片手に、さっさと教卓に向かっていった。

(つか、ワガママって)

 単なるノロケじゃないですか。
 ご馳走さまです。
 甘いケーキを食べさせられたような気持ちでふと女子達を見ると、少ししょげていた。まぁさすがにアレ聞いちゃったらね、チャンスないの分かるよね、なんて考えてたら後ろから肩を叩かれた。

「?」
「ノロケ聞きおつかれ。あいつ華ちゃんの話ずうっとしてるからな」

 苦笑してるのは、鹿王院と確か幼稚園から同じとかいう男子だ。サッカー部。

「え、そうなの」
「小学校の頃からだぞ。ずっとだぞ」

 そして笑う。

「オレ以外にノロケ聞き要員が出来て嬉しいわ、よろしくな」
「え、うそ」

 なんだか良く分からない要員にされてしまった。

「まぁいっか、オレもノロケ返せば」
「え、お前彼女いんの!?」
「他校だけど」
「裏切り者!」

 いないなんて一言も言ってないのに、裏切り者にされてしまった。
 正直、青百合なんて馴染めるかなとか不安だったけど、まぁ少なくともクラスメイトは鹿王院始め、案外取っ付きやすそうな感じだし、高校生活、ちょっと楽しみになってきたな、なんて思ってオレは笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

転生令嬢は覆面ズをゆく

唄宮 和泉
ファンタジー
女子高生である九条皐月は、トラックにはねられて意識を失っい、気づけば伯爵令嬢に転成していた。なんだかんだとその世界でフェーリエとして生きていく覚悟を決めた皐月。十六歳になったある日、冒険者デビューを果たしたフェーリエは謎の剣士ユースに出会う。ひょんな事からその剣士とパーティーを組むことになり、周りに決められたパーティー名は『覆面ズ』。やや名前に不満はあるものの、フェーリエはユースとともに冒険を開始した。 世界が見たいフェーリエと、目的があって冒険者をするユース。そんな覆面ズの話。 ※不定期更新 書けたらその都度投稿します

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん
ファンタジー
 王都から離れた辺境の村で生まれ育った、マオ。15歳になった子供達は適正職業の鑑定をすることが義務付けられている。 村の教会で鑑定をしたら、料理人•宿屋の主人•魔王とあった。…魔王!?  しかも前世を思い出したら、異世界転生していた。 転生1回目は失敗したので、次はのんびり平凡に暮らし、お金を貯めて美味しい料理を出す宿屋のオヤジになると決意した、マオのちょっとおかしな物語。 ※世界は滅ぼしません ☆第17回ファンタジー小説大賞 参加中 ☆2024/9/16  HOT男性向け 1位 ファンタジー 2位  ありがとう御座います。        

婚約破棄がお望みならどうぞ。

和泉 凪紗
恋愛
 公爵令嬢のエステラは産まれた時から王太子の婚約者。貴族令嬢の義務として婚約と結婚を受け入れてはいるが、婚約者に対して特別な想いはない。  エステラの婚約者であるレオンには最近お気に入りの女生徒がいるらしい。エステラは結婚するまではご自由に、と思い放置していた。そんなある日、レオンは婚約破棄と学園の追放をエステラに命じる。  婚約破棄がお望みならどうぞ。わたくしは大歓迎です。

処理中です...