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分岐・鍋島真

白百合(side真)

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 うちの高校は大学の付属高校で、まぁそのままその大学に進学できる。よほど成績が悪いとか、素行が悪いとかじゃない限り。
 それでその大学なんだけど、僕は法学部を希望している。
 で、そこの司法試験合格率が日本最高学府の法科大学院よりいいんだ、って大学側はアピールしてるけど、なんてことはない。
 偏差値70オーバーの国立大へ行った優秀な彼らは、わざわざ司法試験なんか受けない。彼らが目指すのは国家公務員総合職キャリア……官僚であって、裁判官でも検察官でも弁護士でもないのだ。
 そんなわけで、僕は少し迷ってる。このまま付属に進学するのか、別の大学を受けるのか。そのほうが官僚になるには有利じゃない?

 って話を華にしてるけど少しめんどくさそうな顔で「受かった方にしたらどうですか?」なんて言われる。
 目線は明後日の方向。ワオ、ホントに興味ないんだ、真くん傷ついちゃう。
 まぁ中学二年生からしたら高校三年生の話なんか、遠い先の話に感じちゃうのかもしれないなぁ。

「冷たいね華、未来のダーリンが官僚になるか検事になるか迷ってるのに」
「なにがダーリンですか、知りませんよもう」

 そう言いつつも席を立たない華チャン、まぁ正確には立てない華。

(お外が暗いもんね)

 ここは華のお気に入り、のカフェらしい。千晶とここで会ってたりするし。
 今日、華をみかけたのはホントに偶然だった。たまたま、偶然、たまさか、予備校の夏期講習の帰りに通りかかったカフェの窓ガラスの向こうで最近のオモチャ、じゃなくてええっとなんだっけ観察対象……? なんか違うけどまぁいいや、その設楽華サンが物憂げにボケーっとしていたから、僕は「わあ妹の友達がなんか暇そうだしボーっとしててブサイクになってて可哀想だからこれは一肌脱いであげようほんとしょうがないよね」と思って声をかけたのだった。

「キャリアで警察庁に入って公職選挙法違反でうちのお父様パクるのと、司法試験受けて検察庁に入って特別背任でうちのお父様引っ張るのと、どっちがいいかなぁ」
「いやなんでそんなお父様狙いなんですか……」
「社会正義の実現のため?」
「嘘くさいですよ」
「何を言うんだ華、僕はね、嘘と坊主の頭はったことがないんだ」
「……ホントですかねぇ」
「ほんとほんと」

 胡散臭そうな顔をされる。

「ところで何でここにいるの?」

 今更だけど聞いてみた。華ちゃんは「う」って顔をして、アイスミルクティーをストローでかき回した。からんからんと氷が鳴る。

「敦子さんまだ仕事で、圭くんいまサマースクール行ってて……私はさっきまで塾で、鍵を忘れました」

 ゆえに締め出されています、と華は小さく言った。

「敦子さんに早く帰ってもらうのも申し訳ないし」
「お手伝いさんとかいないの」
「帰省中なんです」
「なるほどねぇ」

 タイミングが悪かったわけだ。僕にとっては良かったのか悪かったのか、だけど。

「圭クンのサマースクールって、ウチの?」
「はい」

 青百合は1、2年生の希望者はサマースクールとして夏休み、カナダでの研修に参加できる。

「あの子語学研修いる?」
「いえ、あの辺の美術館巡るみたいで、部活のお友達に誘われたみたいです」
「なるほどね」

 僕は頷いた。

「あの子の絵は、すごいもんねぇ」
「で、ですよねっ」

 華の食いつきがすごい。

「これとかっ」

 華が見せてくれたのはお子様スマホ。写真は撮れるけどかなり機能は制限されているーーネットとかはできないはずだ。敦子さんの方針かな?

「へぇ」

 僕は写真、もといその絵に感心した。実物みないと何とも言えないけど、綺麗な絵だと思う。海と夕陽の絵だ。海に溶け行く夕陽って感じ。

「色使いが綺麗だね」
「でしょう? なんて言うんですかもー、紫? 赤? あ、こっちも」

 スライドして写真をどんどんみせてくれる。そのうちの一枚に、僕は興味を惹かれてスマホを華からそっととりあげた。

「あ、それは」

 ちょっと恥ずかしそうにする華。

「これ華モデルになったのー?」
「はい」

 にこりと笑う華。
 絵の中の華は、赤い服に青いストールを巻いている。手には白百合の花。

「宗教画だね」
「?」

 不思議そうな華にスマホを返した。聖母マリアを絵に描く時の「お約束」、赤い服に青いマント、"雄しべのない"白百合。

「でもその百合は雄しべがあるね」
「? 普通あるでしょう」
「まぁね」

 圭クンは何を思ってこの絵を描いたのかな? 華は自分がマリアに模されてることにも気づいてなさそう。わざわざ教えたりはしないけど。

「じゃあ華は」

 僕は話を戻す。

「敦子サンが帰宅するまでここにいるつもりだったの?」
「はい」
「ふーん。暇じゃない?」
「夏休みの宿題あるんで……」

 華はカバンからテキストを取り出した。勉強するから帰れって意味かな? あは。帰らない。

「ずぅっとオベンキョしてるつもりだったの!? ふーん真面目ちゃん」
「真面目が一番ですよ」

 やたらと実感がこもった様子で華は言う。

「人間、コツコツ真面目が一番幸せになれるんです」
「ほーん?」

 僕はテキストを手にとって、勝手にパラパラとめくった。理科だ。うわ、懐かし。

「ふうんこの辺苦手?」
「う」

 むう、と口を結ぶ華に、僕もカバンから一枚の紙切れを取り出して見せてあげる。

「僕も予備校帰りだったんだよね」
「はぁ」
「そしてこれが全国模試の結果」

 渡されたそれに、華ちゃんは目を見開いた。

「……きゅう」

 別に華が変な鳴き声を出したわけじゃない。僕が今回総合で全国9位だっただけだ。

「きゅう!?」
「きゅーきゅー煩いよアザラシかって」
「あ、あざらし!?」

 華は変な顔をして、僕は微笑んだ。いいこと考えちゃった。僕は割と賢いから、すぐにいいことを考えつくんだ。
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