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分岐・山ノ内瑛

突入

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「いやいや、だって気になるやん」
「だからって」

 家の近くまで探しに来ちゃうなんて。
 私は助手席から振り向いて、車に乗り込んだアキラくんを見つめる。アキラくんは肩をすくめた。

「手伝わせてーや」
「……アキラくん」
「いや2人とも、探すっつっても、ほんと車から見るだけだからね!」

 仁が思いっきり眉をひそめて言った。

「そういうのは警察に任せてたらいいの!」

 ブツブツ言う仁の運転で、ぐるぐると千晶ちゃんの家近辺を周ってもらう。

「何かヒントないかなぁ」
「こういうのはさ、闇雲に探したってムダなんだって」
「……なんかセンセ、キャラちゃうくない?」

 アキラくんが面白そうに言う。

「そっちのが俺好きや」
「君に好かれてもねぇ……」
「あれ?」

 私はぱちり、と目を瞬いた。歩道を歩いている二人組。1人は私と同じセーラー服、もう1人は青百合の白いブレザー。

「……石宮瑠璃と、真さん?」
「こないだのアホ女?」
「じ……、先生、止めて!」
「はいよ」

 仁は路肩にSUV車を停める。様子を伺うと、ふたりはサクサクと歩いてどこかへ向かっている。

「アホ女と、……あの人形みたいなイケメンは誰なん」
「行方不明になってる、千晶ちゃんのお兄さん……後、つけよう」
「せやな」

 アキラくんは即座に頷いてくれた。

「ちょ、なに勝手に。危ないかもでしょ?」
「明らかに怪しいじゃん!」
「俺は反対」
「やだ」

 むう、という顔をして仁を睨む。どうしたって行かなきゃだ。
 仁は根負けしたように「……分かったよ」と呟いた。

「ただし、どこか建物に入ったらその時点で撤収。警察に行く」
「……りょーかい」

 妥協点だろう、と私は頷いた。
 後をつけるのはそんなに難しくなかった。一瞬で真さんにはバレてたけど(振り向いて笑顔)石宮さんは何か興奮して笑顔ではしゃいでいるだけで、こちらを気にするそぶりもない。

「る、瑠璃、びっくりしました。ま、真さんが」

 そう言って、声を震わせた。

「瑠璃を見つけてくれるなんてっ」
「ふふ、当たり前だろう?」

 にこやかな真さん。

(樹くんから聞いてきたの?)

 そうなんだろうけど、でもそれにしても行動が早い……。
 それだけ千晶ちゃんが心配なんだろうな、と思う。

「で、ですよねっ。や、やっぱり、る、瑠璃は神様に選ばれてるんだっ」
「うんうん、瑠璃ちゃんは選ばれてるよね」

 うさんくさい笑顔。

(ま、真さん)

 私はかえってビックリしている。
 人を騙すのが得意な真さんなのに、何だかウサンクサイ感じになっちゃってるのは、さてはこの子の相手めんどくさくなってきてますね……。気持ちは分かるけど。
 でも、本気モードの真さんなら、胡散臭い感じなんか絶対出さない。まぁ、それだけこの子には気付かれない自信があるんだろうと思う。
 明らかに適当な返答だしワザとらしい笑顔だしなのに、当の石宮さんは軽くいなされていることにも全く気がついていない。

「き、教祖様も、真さんを気に入ってくださいますっ」
「だろうねぇ気に入ってくれるだろうねぇ」
「はいっ!」

 満面の笑みで真さんを見上げる石宮さん。

「あいつほんまアホなんかな」

 ぽそり、とアキラくんが呆れたように言った。

「完全に1人で喋っとるやないか。相手の反応なんかガン無視や」
「う、た、たしかに……」
「なんちゅーか、自分の解答ありきの会話やな。あいつ友達おるんかなぁ」
「……今のところはいなさそうだけど」

 クラスでもひとりだ。転校して日が浅い、というのもあるんだけれど。
 もっとも、特に気にするそぶりもないので、別にそれでいいならそれでいい。
 1人のほうが気楽、というスタンスなのかもだし。
 それに、前世の記憶があるなら中身がそれなりの年齢な可能性だってある。あまり中学生と親しくしたくない、のかもしれないし。

(それはないか……)

 あの言動ではなぁ。中学生、下手をすると小学生だったり、する……?

(大人ではないよね)

 うんうん、と1人で納得していると、やがてふたりは「その建物」に入って行った。
 最近ワイドショーお騒がせな、変な新興宗教の施設。門扉越しにそれを眺める。4階建の白い建物と、その横に石造りの教会。

「さー、撤収」

 仁が「もういいだろ?」って顔をして言った。

「う、わ、分かった」

 私は唇を噛んで頷いた。明らかに怪しいのに!
 アキラくんは何かを考えるように、無言で建物を眺めていた。
 その時だった。門が開き、男の人が出てくる。びくり、と身構えるけど、その人は笑顔だった。

「鍋島様からお言付けをいただきまして」

 真さんかな?
 私は首をかしげる。仁はまだ緊張してピリっとしているみたいだった。

「一緒に話を聞こう、だそうです」
「話を?」
「ええ。鍋島様は、今日は我々の教義について知りたい、とわざわざいらしてくださったのです」
「行きます」

 私は即答した。入れるチャンスあるなら、そうすべきだ!

「おい華っ」

 仁が焦ったように言う。

「お前、自分がなに言ってるのか」
「分かってる」

 私はぐっと仁をにらんだ。

「お願い」
「……分かったよ」

 仁が折れた時、アキラくんはぽそりと言った。

「大丈夫やで華、もうだいたい千晶サンおるとこ予想ついたわ」

 ぽそりとアキラくんが笑った。

「なんとか抜け出せたらええねんけど」
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