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分岐・相良仁
追跡
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「そうだよね、瑠璃ちゃんのお願いは何でも叶うはずだ」
真さんは相変わらず目を細めて言う。
「誰が叶えてくれるの?」
「え、それはっ、みんなですっ」
「みんなって?」
「ま、」
石宮さんは照れたように俯いた。
「真さん、とか……」
「そうだね、僕ももちろんだ。じゃあこの」
真さんはわざと私をぐいっと、自分の前に押し出す。
「この悪い女の子は、誰にお願いして罪を償わせるつもりだった?」
「あ、えとそれは」
石宮さんは目線をウロウロさせた。
「ま、真さんでも、秘密っていうか……」
「そうなの?」
にこり、と真さんは微笑む。
「いいよ、無理やり聞き出そうとは思わないから……行こう」
「え」
私たちは真さんを見つめる。石宮さんもぽかん、としている。
「大丈夫、ね、瑠璃?」
「え」
「この子のことは僕に任せて、ね?」
「あ、はいっ」
きらきらとした瞳で、石宮さんは真さんを見上げた。
「悪役令嬢設楽華の断罪、お任せしますっ」
「……悪役令嬢、ね」
真さんは冷たく笑った。
社会科準備室を出て、私たちは仁の車に向かう。
「えっと、鍋島さんのお兄さん。何仕込んだの?」
車に乗り込んで、開口一番、仁はそう言った。私が助手席で、真さんと黒田くんは後部座席。
「んー? 企業秘密です?」
真さんが答えると、仁は肩をすくめる。
「GPS的な?」
「あっは、ばればれ。せんせーすごーい……って、先生だよね?」
会話の流れ的にそっかな、って思ったんだけど、と真さんは首を傾げた。
「まぁ……先生ですけど。鍋島さんと、その子らの担任です」
「ふーん?ほんとに先生なのかな」
「……どういう意味?」
「べっつにぃ?」
真さんはスマホを取り出した。
「あの子、すぐ動くと思う?」
「いくらなんでも放課後じゃないか? ……って、」
目と鼻の先を、石宮さんが駆けていく。こちらには全く気づく素振りもない。
「……頭悪いのかな」
真さんがイラついた口調で言った。
「僕は頭の悪い女の子は嫌いだよ」
(怖ッ!)
私も普通に嫌われてそうだなぁ……いや、別に全然いいんですけど。
しばらく無言でスマホを見つめる真さんと、それを横から覗き込む黒田くん。
「移動速度が上がったね」
「バスっすかね」
「多分、ね」
しばらくして、真さんは皮肉げに口をゆがめた。
「ビンゴだ」
私たちにスマホをかざす。
「例の"教団"の施設、だよ」
真さんは軽やかな手つきでスマホをスライドさせて、電話をかけ始めた。優雅に足を組む。
「あ、もしもしやっぴー? 千晶のことなんだけど、石宮瑠璃って子と接触があったみたいなんだよね。それで、お話してた宗教ね、あそこの施設にその子入ってますんでー。今。そーそー。じゃあ手配よろしくねやっぴー」
一方的にそう話してから通話を切り「ダメだ役に立たない」と吐き捨てた。
「いまのは……?」
私は、つい聞いてしまった。
「今のはね、ここの管轄の警察署のシャチョーさん。警察庁から来てる、お偉いさん。出世したい人だから、かなり慎重だよ、もっと物証ないと動かないと思う」
「そ、ですか」
私はつい黙り込む。真さんは眉をひそめたまま、話を続ける。
「つまり、即座に動いて、ってのは期待薄」
「まぁ状況証拠しかないからね」
牽強付会は否めないよ、と仁は先生っぽく言う。それから仁はほんの少し眉をしかめた後に、自分のスマホを軽くいじった。それから、車を発車させる。
「みんなはね」
先生モードの話し方。
「車で待ってて。僕だけで見てくるから」
「ええっ先生、そんな、千晶に気でもあるんですかぁ?」
真さんがフザケた口調で言う。明らかにイラついていた。
「ヒーローみたいに千晶を救出して、惚れてもらうつもり!?」
「そんな訳がないでしょう……」
仁は遠い目をした。少しめんどくさそう。
「こういうのは大人に任せておきなさい」
「やだね」
真さんは口を尖らせる。
「目の前にいるだろうってのに」
「いるとは限らないでしょ?」
「蓋然性は高いデショ」
真さんはフン、と鼻をならした。
「千晶はあの宗教と女子中学生失踪の関係性を疑ってた。千晶は石宮瑠璃とトラブルになってた。石宮瑠璃はあの宗教と繋がりがある。トリプル役満じゃん!」
「ごめん麻雀分かんない」
「僕も知らないですけど~」
真さんは「あー」と髪の毛をかき回した。
「もー、ほんと千晶に傷一つでも付けててみろ、全員正常な精神状態でいられると思うなよ」
「……とにかく待ってて」
仁は少し、低く言う。
「絶対だよ」
"教団"の施設近くの路肩に仁は車を停めた。
「ぜーったいに動かないこと。鍵もあけないで」
「やーでーすー」
真さんはさっさと車から降りた。
「あ、こら、おい」
「僕は僕でやりますんで、先生は先生でどうぞー?」
「そんなわけにも、ってこらオイ!」
先生たちは騒ぎながら施設へ歩いていく。
(だ、大丈夫なのかな)
私は車窓越しにそれをながめた。そして、施設に目を向ける。
(千晶ちゃん)
そこにいるの?
無事なの?
(やっぱり、じっと待ってるなんて無理)
私も行こう、そう決めてドアを開けようとした手を、黒田くんが止めた。
「設楽」
「黒田くん、でも」
もう目の前にいるかもなのに。
「……鍋島を助けたい気持ちはわかる」
「なら!」
「けど、同じくらい、設楽が危ない目に遭って欲しくないとも思ってる」
「……黒田くん」
「ここで待とう、設楽。じきに警察も動くはずだ」
「真さんは動かないって」
私はもう一度、その建物にめをやった。高い塀越しに見える、その無機質な白い建物。横には教会。
「急がなきゃ、もし、千晶ちゃん、が」
ぽろり、と涙がこぼれた。黒田くんはほんの少し、眉間のシワを深くした。
真さんは相変わらず目を細めて言う。
「誰が叶えてくれるの?」
「え、それはっ、みんなですっ」
「みんなって?」
「ま、」
石宮さんは照れたように俯いた。
「真さん、とか……」
「そうだね、僕ももちろんだ。じゃあこの」
真さんはわざと私をぐいっと、自分の前に押し出す。
「この悪い女の子は、誰にお願いして罪を償わせるつもりだった?」
「あ、えとそれは」
石宮さんは目線をウロウロさせた。
「ま、真さんでも、秘密っていうか……」
「そうなの?」
にこり、と真さんは微笑む。
「いいよ、無理やり聞き出そうとは思わないから……行こう」
「え」
私たちは真さんを見つめる。石宮さんもぽかん、としている。
「大丈夫、ね、瑠璃?」
「え」
「この子のことは僕に任せて、ね?」
「あ、はいっ」
きらきらとした瞳で、石宮さんは真さんを見上げた。
「悪役令嬢設楽華の断罪、お任せしますっ」
「……悪役令嬢、ね」
真さんは冷たく笑った。
社会科準備室を出て、私たちは仁の車に向かう。
「えっと、鍋島さんのお兄さん。何仕込んだの?」
車に乗り込んで、開口一番、仁はそう言った。私が助手席で、真さんと黒田くんは後部座席。
「んー? 企業秘密です?」
真さんが答えると、仁は肩をすくめる。
「GPS的な?」
「あっは、ばればれ。せんせーすごーい……って、先生だよね?」
会話の流れ的にそっかな、って思ったんだけど、と真さんは首を傾げた。
「まぁ……先生ですけど。鍋島さんと、その子らの担任です」
「ふーん?ほんとに先生なのかな」
「……どういう意味?」
「べっつにぃ?」
真さんはスマホを取り出した。
「あの子、すぐ動くと思う?」
「いくらなんでも放課後じゃないか? ……って、」
目と鼻の先を、石宮さんが駆けていく。こちらには全く気づく素振りもない。
「……頭悪いのかな」
真さんがイラついた口調で言った。
「僕は頭の悪い女の子は嫌いだよ」
(怖ッ!)
私も普通に嫌われてそうだなぁ……いや、別に全然いいんですけど。
しばらく無言でスマホを見つめる真さんと、それを横から覗き込む黒田くん。
「移動速度が上がったね」
「バスっすかね」
「多分、ね」
しばらくして、真さんは皮肉げに口をゆがめた。
「ビンゴだ」
私たちにスマホをかざす。
「例の"教団"の施設、だよ」
真さんは軽やかな手つきでスマホをスライドさせて、電話をかけ始めた。優雅に足を組む。
「あ、もしもしやっぴー? 千晶のことなんだけど、石宮瑠璃って子と接触があったみたいなんだよね。それで、お話してた宗教ね、あそこの施設にその子入ってますんでー。今。そーそー。じゃあ手配よろしくねやっぴー」
一方的にそう話してから通話を切り「ダメだ役に立たない」と吐き捨てた。
「いまのは……?」
私は、つい聞いてしまった。
「今のはね、ここの管轄の警察署のシャチョーさん。警察庁から来てる、お偉いさん。出世したい人だから、かなり慎重だよ、もっと物証ないと動かないと思う」
「そ、ですか」
私はつい黙り込む。真さんは眉をひそめたまま、話を続ける。
「つまり、即座に動いて、ってのは期待薄」
「まぁ状況証拠しかないからね」
牽強付会は否めないよ、と仁は先生っぽく言う。それから仁はほんの少し眉をしかめた後に、自分のスマホを軽くいじった。それから、車を発車させる。
「みんなはね」
先生モードの話し方。
「車で待ってて。僕だけで見てくるから」
「ええっ先生、そんな、千晶に気でもあるんですかぁ?」
真さんがフザケた口調で言う。明らかにイラついていた。
「ヒーローみたいに千晶を救出して、惚れてもらうつもり!?」
「そんな訳がないでしょう……」
仁は遠い目をした。少しめんどくさそう。
「こういうのは大人に任せておきなさい」
「やだね」
真さんは口を尖らせる。
「目の前にいるだろうってのに」
「いるとは限らないでしょ?」
「蓋然性は高いデショ」
真さんはフン、と鼻をならした。
「千晶はあの宗教と女子中学生失踪の関係性を疑ってた。千晶は石宮瑠璃とトラブルになってた。石宮瑠璃はあの宗教と繋がりがある。トリプル役満じゃん!」
「ごめん麻雀分かんない」
「僕も知らないですけど~」
真さんは「あー」と髪の毛をかき回した。
「もー、ほんと千晶に傷一つでも付けててみろ、全員正常な精神状態でいられると思うなよ」
「……とにかく待ってて」
仁は少し、低く言う。
「絶対だよ」
"教団"の施設近くの路肩に仁は車を停めた。
「ぜーったいに動かないこと。鍵もあけないで」
「やーでーすー」
真さんはさっさと車から降りた。
「あ、こら、おい」
「僕は僕でやりますんで、先生は先生でどうぞー?」
「そんなわけにも、ってこらオイ!」
先生たちは騒ぎながら施設へ歩いていく。
(だ、大丈夫なのかな)
私は車窓越しにそれをながめた。そして、施設に目を向ける。
(千晶ちゃん)
そこにいるの?
無事なの?
(やっぱり、じっと待ってるなんて無理)
私も行こう、そう決めてドアを開けようとした手を、黒田くんが止めた。
「設楽」
「黒田くん、でも」
もう目の前にいるかもなのに。
「……鍋島を助けたい気持ちはわかる」
「なら!」
「けど、同じくらい、設楽が危ない目に遭って欲しくないとも思ってる」
「……黒田くん」
「ここで待とう、設楽。じきに警察も動くはずだ」
「真さんは動かないって」
私はもう一度、その建物にめをやった。高い塀越しに見える、その無機質な白い建物。横には教会。
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