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【高校編】分岐・黒田健
桜
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桜が咲いている。ソメイヨシノだと思うけど自信はない。ちらちらと風が吹くたびに宙を舞う、それを私は黒田くんと並んで眺めていた。
「きれいだねぇ」
黒田くんは何も言わずに、私を見て少しだけ笑った。
出会った頃よりずっと伸びた背、低くなった声、広くなった背中、大きくなった、繋いでいるこの手。
(私は何か変わったかな?)
大して変わっていない、気がする。明日から高校生だけど、小学生の頃と比べて大して背も伸びてないし。
「どうした?」
「んーん、私、小学生の頃から大して成長してないなぁって」
「そうか?」
黒田くんは私をじっとみる。
「う、あんま見ないでなんか恥ずかしい」
「なんだそれ」
黒田くんは楽しそうに笑った。
「成長はしてるだろ、なにかしら」
「そうかなぁ」
私は口を尖らせた。
「背もそんな伸びてないし」
「そこかよ」
黒田くんは吹き出して「牛乳でも飲めばどーだ」と大して役に立たないアドバイスをしてきた。
「カルシウムだろ」
「そんな単純な問題じゃないよきっと」
高校の卒業までには155センチは超えたいなぁなんて思う。
私たちはお互い違う学校の制服を着ていた。私が黒田くんの新しい、明日から着る制服を見たがったら「じゃあ設楽も来てこいよ」と言われたのだ。
黒田くんは詰襟。でも真っ黒じゃなくて、黒に近い灰色だ。似合ってるけど、ちょっと見慣れない。
私はブルーグレーのブレザー。やっぱりまだ、着られてる感じがして面映ゆい。
入学式前日のデート。明日以降は、きっとなかなか会えなくなる。だって学校違うんだもん。
「お互い第一希望通ったね」
「設楽、頑張ってたもんな」
黒田くんは笑った。希望通りの、横浜の私立の男子校。部活のどれもが強豪で有名らしい。
私は都内の女子校。進学率が高くて、私の「脱・破滅行きゲームシナリオ作戦」をとるには最適と思われた学校だ。ちょっと遠いけど、奨学金制度なんかも充実してて(そもそも学校が違うからヒロインちゃんと接点無いハズだけど)万が一"ゲーム"のシナリオ通り勘当されたとしても、成績さえ残していれば卒業まではなんとかこじつけられるんではないでしょうか……!? っていう目論見がある。ヒロインちゃんと学校違う以上、退学はないだろうし……ないよね?
色々考えてみてるけどやっぱり寂しいのは寂しい、というのが顔に出ていたのだろうか、黒田くんはぽん、と私の頭を撫でた。
「休み合ったら遊ぼうな」
「うん」
私は黒田くんを見上げる。
「行きたいとこ考えとけよ」
「どこでもいいなぁ」
私は少し甘えた。そんな気持ちだったから。ぎゅう、と黒田くんの腕にしがみついて見上げる。
「黒田くんと一緒なら、どこでも」
「……照れるからやめろ」
そういうの、と言いながら黒田くんは大して表情を変えずに私の頬を片手でむにりと掴んだ。
「いちいち可愛いんだお前は」
「あは、私のこと可愛いっていうの世界で黒田くんだけだよ」
「そうだったらいーんだけどよ」
黒田くんは少し呆れたように言った。
「卒業したら」
「ん?」
なにを? と私は首を傾げた。中学校は先月卒業したばかりだ。
「高校だよ」
「気が早くない?」
まだ入学式も終わってないのに、と不思議に思う。
「俺警察官になる、予定なんだけど」
「うん」
知ってる。警察官か消防士か自衛官、って言ってて、やっぱり警官になりたいって思ったみたいだった。お父さんの影響もあるのかな。
「設楽どうすんの」
「んー? とりあえず大学かなぁ」
そして堅実な職に就くのです。
「そんとき22か」
「だね、順調にいけば」
「まぁ俺もその頃にはそこそこ金も貯まってんだろ、多分」
「?」
「結婚しようぜ」
「んんっ!?」
私は少し驚いて黒田くんを見上げた。
「しねぇの」
「すっ、する!」
私はちょっと勢いづいて答えてしまった。恥ずかしい……。
「まぁちゃんとしたプロポーズはそん時するよ。大した指輪も買えねぇとは思うけど」
黒田くんは少し眉を下げた。
「設楽は気にしてねぇの分かってるけど、……設楽はお嬢様なのに俺なんかと付き合ってていーのかって思うことあるんだ」
「なにそれ」
初耳だ。そんなこと気にしてたの!?
「んな顔すんなよ」
「だ、だってっ」
「大丈夫だ」
黒田くんは、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「離す気はさらさらねぇから心配すんな」
「ほんと?」
「マジだよ」
「ならいいけど」
私はぎゅ、と手をつなぎ直した。
「他のやつと結婚したらしねぇで済んだ苦労とかもされるかもしんねーけど」
「うん」
「俺、お前以外考えらんねぇし、……あー、すまん言い訳だわ」
「?」
「俺、不安なんだ」
ぎゅ、と抱きしめられる。
「黒田くん?」
「設楽は魅力的だから」
「み、魅力的?」
なんの話、という私の質問、それには答えずに、黒田くんは少し背をかがめて、こつんとおでこを合わせてきた。
「……、約束が欲しいんだと思う。俺は」
「約束?」
「おう。設楽が俺のものだって安心感が欲しい」
情けねぇよな、とおでこを離しながら黒田くんが笑うから、私は黒田くんの頬を両手で包み込む。
「私も同じ気持ちだよ」
ゆっくりと微笑むと、黒田くんは少し驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「や、今やっと気付いて」
「何を?」
私は手を離す。黒田くんはまっすぐ立って、私に向かってこう言った。
「俺、設楽のこと愛してるんだと思うわ」
私は目を見開いた。あ、あいしてる!?
初めて言われたその単語に、私はアワアワと目をキョロキョロさせた。
(ぜ、前世でも言われたことなかったです)
いやまぁ、前世ではテキトーな「好き」しか言われたことなかったんですけど。
「あーやっと気付いた。俺、少しタイムラグあんだよな、気持ちに気づくの」
「そうなの?」
「そう」
黒田くんは私の手をまた握って、歩き出した。
なんだか無言が続くけど、全然きにならない。心地よい無言。桜はふわふわと舞い降りていて、空は青くて、繋いだ手は暖かい。
目線をあげると、黒田くんと目が合う。微笑むと、黒田くんも頬を緩めてくれるから、私も唐突にすとんと納得してしまう。
愛ってきっとこういう形。
「きれいだねぇ」
黒田くんは何も言わずに、私を見て少しだけ笑った。
出会った頃よりずっと伸びた背、低くなった声、広くなった背中、大きくなった、繋いでいるこの手。
(私は何か変わったかな?)
大して変わっていない、気がする。明日から高校生だけど、小学生の頃と比べて大して背も伸びてないし。
「どうした?」
「んーん、私、小学生の頃から大して成長してないなぁって」
「そうか?」
黒田くんは私をじっとみる。
「う、あんま見ないでなんか恥ずかしい」
「なんだそれ」
黒田くんは楽しそうに笑った。
「成長はしてるだろ、なにかしら」
「そうかなぁ」
私は口を尖らせた。
「背もそんな伸びてないし」
「そこかよ」
黒田くんは吹き出して「牛乳でも飲めばどーだ」と大して役に立たないアドバイスをしてきた。
「カルシウムだろ」
「そんな単純な問題じゃないよきっと」
高校の卒業までには155センチは超えたいなぁなんて思う。
私たちはお互い違う学校の制服を着ていた。私が黒田くんの新しい、明日から着る制服を見たがったら「じゃあ設楽も来てこいよ」と言われたのだ。
黒田くんは詰襟。でも真っ黒じゃなくて、黒に近い灰色だ。似合ってるけど、ちょっと見慣れない。
私はブルーグレーのブレザー。やっぱりまだ、着られてる感じがして面映ゆい。
入学式前日のデート。明日以降は、きっとなかなか会えなくなる。だって学校違うんだもん。
「お互い第一希望通ったね」
「設楽、頑張ってたもんな」
黒田くんは笑った。希望通りの、横浜の私立の男子校。部活のどれもが強豪で有名らしい。
私は都内の女子校。進学率が高くて、私の「脱・破滅行きゲームシナリオ作戦」をとるには最適と思われた学校だ。ちょっと遠いけど、奨学金制度なんかも充実してて(そもそも学校が違うからヒロインちゃんと接点無いハズだけど)万が一"ゲーム"のシナリオ通り勘当されたとしても、成績さえ残していれば卒業まではなんとかこじつけられるんではないでしょうか……!? っていう目論見がある。ヒロインちゃんと学校違う以上、退学はないだろうし……ないよね?
色々考えてみてるけどやっぱり寂しいのは寂しい、というのが顔に出ていたのだろうか、黒田くんはぽん、と私の頭を撫でた。
「休み合ったら遊ぼうな」
「うん」
私は黒田くんを見上げる。
「行きたいとこ考えとけよ」
「どこでもいいなぁ」
私は少し甘えた。そんな気持ちだったから。ぎゅう、と黒田くんの腕にしがみついて見上げる。
「黒田くんと一緒なら、どこでも」
「……照れるからやめろ」
そういうの、と言いながら黒田くんは大して表情を変えずに私の頬を片手でむにりと掴んだ。
「いちいち可愛いんだお前は」
「あは、私のこと可愛いっていうの世界で黒田くんだけだよ」
「そうだったらいーんだけどよ」
黒田くんは少し呆れたように言った。
「卒業したら」
「ん?」
なにを? と私は首を傾げた。中学校は先月卒業したばかりだ。
「高校だよ」
「気が早くない?」
まだ入学式も終わってないのに、と不思議に思う。
「俺警察官になる、予定なんだけど」
「うん」
知ってる。警察官か消防士か自衛官、って言ってて、やっぱり警官になりたいって思ったみたいだった。お父さんの影響もあるのかな。
「設楽どうすんの」
「んー? とりあえず大学かなぁ」
そして堅実な職に就くのです。
「そんとき22か」
「だね、順調にいけば」
「まぁ俺もその頃にはそこそこ金も貯まってんだろ、多分」
「?」
「結婚しようぜ」
「んんっ!?」
私は少し驚いて黒田くんを見上げた。
「しねぇの」
「すっ、する!」
私はちょっと勢いづいて答えてしまった。恥ずかしい……。
「まぁちゃんとしたプロポーズはそん時するよ。大した指輪も買えねぇとは思うけど」
黒田くんは少し眉を下げた。
「設楽は気にしてねぇの分かってるけど、……設楽はお嬢様なのに俺なんかと付き合ってていーのかって思うことあるんだ」
「なにそれ」
初耳だ。そんなこと気にしてたの!?
「んな顔すんなよ」
「だ、だってっ」
「大丈夫だ」
黒田くんは、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「離す気はさらさらねぇから心配すんな」
「ほんと?」
「マジだよ」
「ならいいけど」
私はぎゅ、と手をつなぎ直した。
「他のやつと結婚したらしねぇで済んだ苦労とかもされるかもしんねーけど」
「うん」
「俺、お前以外考えらんねぇし、……あー、すまん言い訳だわ」
「?」
「俺、不安なんだ」
ぎゅ、と抱きしめられる。
「黒田くん?」
「設楽は魅力的だから」
「み、魅力的?」
なんの話、という私の質問、それには答えずに、黒田くんは少し背をかがめて、こつんとおでこを合わせてきた。
「……、約束が欲しいんだと思う。俺は」
「約束?」
「おう。設楽が俺のものだって安心感が欲しい」
情けねぇよな、とおでこを離しながら黒田くんが笑うから、私は黒田くんの頬を両手で包み込む。
「私も同じ気持ちだよ」
ゆっくりと微笑むと、黒田くんは少し驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「や、今やっと気付いて」
「何を?」
私は手を離す。黒田くんはまっすぐ立って、私に向かってこう言った。
「俺、設楽のこと愛してるんだと思うわ」
私は目を見開いた。あ、あいしてる!?
初めて言われたその単語に、私はアワアワと目をキョロキョロさせた。
(ぜ、前世でも言われたことなかったです)
いやまぁ、前世ではテキトーな「好き」しか言われたことなかったんですけど。
「あーやっと気付いた。俺、少しタイムラグあんだよな、気持ちに気づくの」
「そうなの?」
「そう」
黒田くんは私の手をまた握って、歩き出した。
なんだか無言が続くけど、全然きにならない。心地よい無言。桜はふわふわと舞い降りていて、空は青くて、繋いだ手は暖かい。
目線をあげると、黒田くんと目が合う。微笑むと、黒田くんも頬を緩めてくれるから、私も唐突にすとんと納得してしまう。
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