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【高校編】分岐・山ノ内瑛
告白(side???)
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中等部の、卒業式のことでした。
鹿王院君に告白したのは、わたくしの友人でした。鹿王院くんに最愛の許婚さんがいらっしゃることは、もはや周知でしたが、それでも、と。
「わたくしが散るところ、皆様でご覧になってて」
お一人で抱え込む気はなかったのでしょう、堂々と友人は公衆の面前で想いを告げたのです。
その答えは、当然「ノー」。
「分かっておりましたわ」
友人が微笑むと、鹿王院君は不思議そうな顔をしました。
「相思相愛の、許婚さんがおられるんですものね……」
友人のその言葉に、鹿王院君は悲しそうに言いました。
「いや、俺もフラれてはいるのだが」
一瞬、場が静まり返りました。
「好きな人ができたらしい」
(……なんですって?)
全員が耳を疑いました。鹿王院君を、おフりになる(日本語が乱れました)方がこの世にいらっしゃる?
「だが、諦めてはいないので」
力強い声でした。
「やはり君と交際はできない」
「あ、はあ……」
一礼して去っていく鹿王院君の背中を、友人は呆然と見つめました。ご自分が振られたことより、鹿王院君が振られていたことのほうが衝撃だったようです。
「不可思議なこともあるものね」
友人はぽつりと言いました。
「あの方以上に、好きになってしまう人なんているのかしら」
そして言いました、それでも想われる許婚さんが羨ましい、と。
「どんな方なのかしら」
「綺麗な方とは、聞いていますけれど」
春休みの間に、鹿王院君が許婚さんにフラれたという噂は静かに広まりました。
それでも、家同士のこともあって解消には至っていないのだと。
「お互いお辛いわね」
「ですわね」
わたくしたちは、密やかに噂をいたしました。
それでも許婚さんに恋をしている鹿王院君も、他に想う人がいらっしゃるのに将来は鹿王院君に嫁がねばならない許婚さんのお気持ちも、どちらもお辛く思えたのです。
ですので、高等部の入学式、新入生代表として凛と壇上に立つお2人を見て、わたくしたちは切ない気持ちになりました。
伝統的に、新入生代表はふたり。エスカレーター組から学業、部活動の成績優秀なものがひとり、高等部からの入学組から、入試トップがひとり。それが即ち、許婚さんだったのでした。当然、特進クラスへの入学です。
(学業も優秀なのだわ)
わたくしは許婚さんをーー設楽華さんを見つめて思いました。噂に違わず、美しい方でした。凛とした表情は、どこか冷たさを感じさせます。
「設楽さんが、鹿王院君を好きになればいいんだわ」
「でも、ひとの心ってそういう訳にもいかないでしょう」
まぁ、わたくしたちが外野でどうこう言ってもどうにもならないのですけれど。
「あの方の、想う方ってどんな人でしょうね」
「さぁ」
わたくしたちは首を傾げました。
それからしばらく経った日の、放課後のことです。
図書委員になったわたくしは、高等部の広大な図書館(下手な大学の図書館より蔵書もあるという話なのです)その建物の地下にある書庫で、本の整理をしておりました。
高等部に入って宿題などが増え、授業内容も一気に難しくなり、そんなこともあって折からの睡眠不足で、わたくしはお恥ずかしながら、本棚の陰でウトウトとしてしまっていたのです。全く人気がなく、静まり返っていたせいもありました。
しばらく眠っていたでしょうか、かたん、という物音で目を覚ましました。少し離れた閲覧スペースで、設楽さんが座ってノートを広げてらっしゃいました。傍らには学校鞄。帰宅までここで勉強でもされるのでしょうか。
(勉強熱心なのだわ)
しかし気がそぞろ、そんな雰囲気です。
(どうしたのかしら)
そう思っていると、ふと男子が設楽さんに近づきました。
(? 中等部の制服)
高等部も中等部も、制服の色は変わらないのですが(白いブレザーに、チャコールグレーのズボン)デザインが少し違うのです。
とにかくその中等部の男子は、設楽さんに近づき、そして設楽さんもそれに気がつきました。
(え)
まさしく、花の開いたような、という例えが相応しいような、そんな笑顔でした。冷たい印象を受けていた凛とした表情はどこへやら、甘い甘い砂糖菓子のような柔らかな笑顔。
もちろんわたくしは気付きました。
この中等部の男の子こそが、設楽さんの思い人なのだと。
(人目を忍んで)
そうせねば、会えないから。
(堂々とはできない恋、なのですものね)
わたくしは息を潜めました。そして目を閉じます。これは夢。
(なにも見ておりません)
色々と思うところは、あります。けれど、でも、ひとりの女子として、その恋心の切なさだけは分かる気がしたのでした。もっともわたくし、初恋もまだなのですけれど。
どうやらそのまま、また眠っていたようでした。ふと目を覚ますと、身体にカーディガンがかけてありました。
「?」
誰のものでしょう。不思議に思っていると、1枚のメモを見つけました。
"少し冷えていたので勝手にかけました。明日取りにきますので図書館の忘れ物としていれておいてください"
綺麗な字でした。
わたくしには、これが誰だか分かります。設楽さん。でも、直接これを届けるというのは、あの場面を見ていたと自白するようなものでーー直接のお礼は、言えないのです。
(優しい方なんだわ)
整ったかんばせが、少し冷たい印象を与えていただけで。
(それに)
ふふ、とわたくしは思い出して微笑んでしまいます。あの甘い甘いお顔!
(いつか、お話してみたいわ)
そんな風に、思いました。その時、もしわたくしにも好いた方がいらっしゃれば、そんなお話もできるかもしれないのですけれど。
(恋をしてみたいわ)
わたくしはぼんやり思います。狂おしい恋を。この身を焦がすほどの恋をーーそれはもしかしたら、ずっとずっと先なのかもしれず、もしかしたら明日なのかもしれず。
ただその時、わたくしは設楽さんのあの甘い顔と同じ表情で笑うのかしら、と今からほんの少し、気恥ずかしく思うのでした。
鹿王院君に告白したのは、わたくしの友人でした。鹿王院くんに最愛の許婚さんがいらっしゃることは、もはや周知でしたが、それでも、と。
「わたくしが散るところ、皆様でご覧になってて」
お一人で抱え込む気はなかったのでしょう、堂々と友人は公衆の面前で想いを告げたのです。
その答えは、当然「ノー」。
「分かっておりましたわ」
友人が微笑むと、鹿王院君は不思議そうな顔をしました。
「相思相愛の、許婚さんがおられるんですものね……」
友人のその言葉に、鹿王院君は悲しそうに言いました。
「いや、俺もフラれてはいるのだが」
一瞬、場が静まり返りました。
「好きな人ができたらしい」
(……なんですって?)
全員が耳を疑いました。鹿王院君を、おフりになる(日本語が乱れました)方がこの世にいらっしゃる?
「だが、諦めてはいないので」
力強い声でした。
「やはり君と交際はできない」
「あ、はあ……」
一礼して去っていく鹿王院君の背中を、友人は呆然と見つめました。ご自分が振られたことより、鹿王院君が振られていたことのほうが衝撃だったようです。
「不可思議なこともあるものね」
友人はぽつりと言いました。
「あの方以上に、好きになってしまう人なんているのかしら」
そして言いました、それでも想われる許婚さんが羨ましい、と。
「どんな方なのかしら」
「綺麗な方とは、聞いていますけれど」
春休みの間に、鹿王院君が許婚さんにフラれたという噂は静かに広まりました。
それでも、家同士のこともあって解消には至っていないのだと。
「お互いお辛いわね」
「ですわね」
わたくしたちは、密やかに噂をいたしました。
それでも許婚さんに恋をしている鹿王院君も、他に想う人がいらっしゃるのに将来は鹿王院君に嫁がねばならない許婚さんのお気持ちも、どちらもお辛く思えたのです。
ですので、高等部の入学式、新入生代表として凛と壇上に立つお2人を見て、わたくしたちは切ない気持ちになりました。
伝統的に、新入生代表はふたり。エスカレーター組から学業、部活動の成績優秀なものがひとり、高等部からの入学組から、入試トップがひとり。それが即ち、許婚さんだったのでした。当然、特進クラスへの入学です。
(学業も優秀なのだわ)
わたくしは許婚さんをーー設楽華さんを見つめて思いました。噂に違わず、美しい方でした。凛とした表情は、どこか冷たさを感じさせます。
「設楽さんが、鹿王院君を好きになればいいんだわ」
「でも、ひとの心ってそういう訳にもいかないでしょう」
まぁ、わたくしたちが外野でどうこう言ってもどうにもならないのですけれど。
「あの方の、想う方ってどんな人でしょうね」
「さぁ」
わたくしたちは首を傾げました。
それからしばらく経った日の、放課後のことです。
図書委員になったわたくしは、高等部の広大な図書館(下手な大学の図書館より蔵書もあるという話なのです)その建物の地下にある書庫で、本の整理をしておりました。
高等部に入って宿題などが増え、授業内容も一気に難しくなり、そんなこともあって折からの睡眠不足で、わたくしはお恥ずかしながら、本棚の陰でウトウトとしてしまっていたのです。全く人気がなく、静まり返っていたせいもありました。
しばらく眠っていたでしょうか、かたん、という物音で目を覚ましました。少し離れた閲覧スペースで、設楽さんが座ってノートを広げてらっしゃいました。傍らには学校鞄。帰宅までここで勉強でもされるのでしょうか。
(勉強熱心なのだわ)
しかし気がそぞろ、そんな雰囲気です。
(どうしたのかしら)
そう思っていると、ふと男子が設楽さんに近づきました。
(? 中等部の制服)
高等部も中等部も、制服の色は変わらないのですが(白いブレザーに、チャコールグレーのズボン)デザインが少し違うのです。
とにかくその中等部の男子は、設楽さんに近づき、そして設楽さんもそれに気がつきました。
(え)
まさしく、花の開いたような、という例えが相応しいような、そんな笑顔でした。冷たい印象を受けていた凛とした表情はどこへやら、甘い甘い砂糖菓子のような柔らかな笑顔。
もちろんわたくしは気付きました。
この中等部の男の子こそが、設楽さんの思い人なのだと。
(人目を忍んで)
そうせねば、会えないから。
(堂々とはできない恋、なのですものね)
わたくしは息を潜めました。そして目を閉じます。これは夢。
(なにも見ておりません)
色々と思うところは、あります。けれど、でも、ひとりの女子として、その恋心の切なさだけは分かる気がしたのでした。もっともわたくし、初恋もまだなのですけれど。
どうやらそのまま、また眠っていたようでした。ふと目を覚ますと、身体にカーディガンがかけてありました。
「?」
誰のものでしょう。不思議に思っていると、1枚のメモを見つけました。
"少し冷えていたので勝手にかけました。明日取りにきますので図書館の忘れ物としていれておいてください"
綺麗な字でした。
わたくしには、これが誰だか分かります。設楽さん。でも、直接これを届けるというのは、あの場面を見ていたと自白するようなものでーー直接のお礼は、言えないのです。
(優しい方なんだわ)
整ったかんばせが、少し冷たい印象を与えていただけで。
(それに)
ふふ、とわたくしは思い出して微笑んでしまいます。あの甘い甘いお顔!
(いつか、お話してみたいわ)
そんな風に、思いました。その時、もしわたくしにも好いた方がいらっしゃれば、そんなお話もできるかもしれないのですけれど。
(恋をしてみたいわ)
わたくしはぼんやり思います。狂おしい恋を。この身を焦がすほどの恋をーーそれはもしかしたら、ずっとずっと先なのかもしれず、もしかしたら明日なのかもしれず。
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