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分岐・黒田健
悪役令嬢会議
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「ゲームでは、橋崎くんって瑠璃に惚れ込んですっごい一途だったはずなんだけど」
千晶ちゃんはそう言って、小さくため息をついた。
「なんでだろ……?」
ノイなんちゃら城を作りながら、私と千晶ちゃんは悪役令嬢会議(?)を開いている。
「瑠璃って、すっごい可愛い子なはずなの、優しくて一生懸命な感じの」
千晶ちゃんは首を傾げた。
「小柄でね、髪の毛がふわふわしてて」
「………………あ」
私はふと思い出して、固まった。
「え、なに?」
千晶ちゃんに顔を覗き込まれる。
「……私、その子、知ってる」
「え?」
(なんで今の今まで忘れてたんだろう!)
私のポンコツ脳みそ!!
「前世の記憶があるよ、その子」
「え」
私は小学生の頃に会った女の子について説明した。樹くんとカフェで会った、少し明るいふわふわの髪の、お人形さんみたいな女の子。
私が悪役令嬢のゲーム、"ブルーローズ"のことを知ってた。
「だから。もしかしたら、性格が違う、のかも……」
「……そういうこと、ね」
千晶ちゃんは少し悔しそうに眉をしかめた。
「せめて、いい子であって欲しかったけど」
「……だね」
橋崎くんの反応を見ている限り、とてもそうだとは思えない。なまじ記憶があるばかりに、変な方向に空回っているのかもしれない。
「ま、関わらないのが一番よね」
千晶ちゃんは笑って立ち上がる。
「青百合に進学しなければ、石宮瑠璃ともさっきの橋崎くんとも、もう関わりなんかないは」
多分、ないはず、と言いたかったのだろうその言葉は唐突に消えた。なぜなら、また大きな声で千晶ちゃんを呼ぶ声がしたから。
「千晶さんっ、千晶さんっ、どうですか、たこ焼き食べませんかっ」
橋崎くんだ。満面の笑みでたこ焼きのパック片手に砂浜を疾走してくる。
(……砂浜って走りにくいはずなんだけどな)
私は半ば感心してしまう。
千晶ちゃんはゲンナリした顔で「いりません」と断った。
「わたし、たこ焼き食べられません」
「ええっアレルギーっ!?」
「そうではないですけど、病気という点では同じです、お一人でどうぞ」
千晶ちゃんは、尖ったものが持てないのだ。人を傷つけるかもという恐怖心でいっぱいになるらしい。つまり、たこ焼きについている爪楊枝さえ持てない。小学校の頃よりはマシになったと本人は言うけれど。
「ええー……じゃあ設楽さん、どうです? はいあーん、って痛ってえええなっなにすんだ黒田っ」
多分ふざけてだっただろう、その「あーん」と言った瞬間に、橋崎くんは黒田くんにお尻を蹴り上げられていた。けっこう痛そう。
「痛くねぇだろこんくらい」
「いや痛いねっ! 痛いっ!」
「お前なぁ」
呆れながら、黒田くんは私と千晶ちゃんにハンバーガーの入った袋を渡す。浜に出店してるハワイアンバーガーの屋台。じゃんけんで負けた黒田くんとひよりちゃんが代表で買いに行ってくれていたのだ。
「ありがと!」
私は受け取って、いそいそと袋を開く。
(おいしそー!)
分厚めのパティと、濃いソースと、パイナップル!
(お肉とパイナップルの組み合わせ、好き嫌いが分かれるけど、私はとても好き)
じゅるり。ついよだれが出てしまう。うふふふふふ。
「お使いありがとね」
千晶ちゃんもお礼を言って笑う。
「いーよ、お前らフラフラさせたら変なの寄ってきそうだからな、コイツとか」
黒田くんは橋崎くんを親指で指差す。
「コイツって何だ! オレは単にたこ焼きをだな」
「つーか、秋月どこいった」
黒田くんは橋崎くんを無視して言う。
「飲み物買いに行ってくれたよ」
「アホかあいつ、男置いていった意味分かってねーな」
私が答えると、黒田くんは眉を軽く寄せて言った。
「変なやつに声とかかけられてねーな?」
「え、あ、うん」
「コイツ以外の」
「変なやつ扱いすんなって!」
橋崎くんはぷんすかと言う。
「まーまー」
ひよりちゃんはちょっと楽しそうに言う。
「いいじゃん、皆で食べよう。橋崎くん、だっけ、ほらこっち来なよー、千晶ちゃんそこでっ」
ひよりちゃんは、千晶ちゃんと橋崎くんをビーチパラソルの下、そこに敷いたビニールシートに並んで座らせようとしている。ひよりちゃんが(黒田くんに持たせて)持参したやつ。
さっき「えー、いい人そうじゃんイケメンだし」と言っていたので、千晶ちゃんに橋崎くんを推す気になったらしい。コイバナとか大好き女子だから、ひよりちゃん……。
「うお、いいっすか!? じゃあお邪魔しますっ」
「えー……」
少しめんどくさそうな千晶ちゃんは、しぶしぶその横に座った。
黒田くんは呆れたようにそれを見ながら私に「海の家戻るか?」と言う。
「ん? なんで?」
「お前、自分で気づいてないかもしんねーけど、相当疲れてんぞ」
私は首を傾げた。そうかなぁ。日焼けはヒリヒリしてきたけど。
とりあえず言われた通りに、最初に着替えた海の家に戻って、一日レンタルしてる机のところに座ると、どっと疲れが来た。
(うわー)
日光と海水って、こんなに疲れるやつだっけ?
思わず机に突っ伏す。肩があったかくなって、それは黒田くんが私の肩にかけてくれたバスタオルだった。
「しばらく寝とけ」
そう言って、なんだか穏やかな表情で私の頭を撫でてくれるから、私は睡魔に抗えない。
重くなっていく瞼の隙間から黒田くんの顔が見えて、ああ毎日こんな風に眠れたら幸せだろうなって、そんな風に思うのだった。
千晶ちゃんはそう言って、小さくため息をついた。
「なんでだろ……?」
ノイなんちゃら城を作りながら、私と千晶ちゃんは悪役令嬢会議(?)を開いている。
「瑠璃って、すっごい可愛い子なはずなの、優しくて一生懸命な感じの」
千晶ちゃんは首を傾げた。
「小柄でね、髪の毛がふわふわしてて」
「………………あ」
私はふと思い出して、固まった。
「え、なに?」
千晶ちゃんに顔を覗き込まれる。
「……私、その子、知ってる」
「え?」
(なんで今の今まで忘れてたんだろう!)
私のポンコツ脳みそ!!
「前世の記憶があるよ、その子」
「え」
私は小学生の頃に会った女の子について説明した。樹くんとカフェで会った、少し明るいふわふわの髪の、お人形さんみたいな女の子。
私が悪役令嬢のゲーム、"ブルーローズ"のことを知ってた。
「だから。もしかしたら、性格が違う、のかも……」
「……そういうこと、ね」
千晶ちゃんは少し悔しそうに眉をしかめた。
「せめて、いい子であって欲しかったけど」
「……だね」
橋崎くんの反応を見ている限り、とてもそうだとは思えない。なまじ記憶があるばかりに、変な方向に空回っているのかもしれない。
「ま、関わらないのが一番よね」
千晶ちゃんは笑って立ち上がる。
「青百合に進学しなければ、石宮瑠璃ともさっきの橋崎くんとも、もう関わりなんかないは」
多分、ないはず、と言いたかったのだろうその言葉は唐突に消えた。なぜなら、また大きな声で千晶ちゃんを呼ぶ声がしたから。
「千晶さんっ、千晶さんっ、どうですか、たこ焼き食べませんかっ」
橋崎くんだ。満面の笑みでたこ焼きのパック片手に砂浜を疾走してくる。
(……砂浜って走りにくいはずなんだけどな)
私は半ば感心してしまう。
千晶ちゃんはゲンナリした顔で「いりません」と断った。
「わたし、たこ焼き食べられません」
「ええっアレルギーっ!?」
「そうではないですけど、病気という点では同じです、お一人でどうぞ」
千晶ちゃんは、尖ったものが持てないのだ。人を傷つけるかもという恐怖心でいっぱいになるらしい。つまり、たこ焼きについている爪楊枝さえ持てない。小学校の頃よりはマシになったと本人は言うけれど。
「ええー……じゃあ設楽さん、どうです? はいあーん、って痛ってえええなっなにすんだ黒田っ」
多分ふざけてだっただろう、その「あーん」と言った瞬間に、橋崎くんは黒田くんにお尻を蹴り上げられていた。けっこう痛そう。
「痛くねぇだろこんくらい」
「いや痛いねっ! 痛いっ!」
「お前なぁ」
呆れながら、黒田くんは私と千晶ちゃんにハンバーガーの入った袋を渡す。浜に出店してるハワイアンバーガーの屋台。じゃんけんで負けた黒田くんとひよりちゃんが代表で買いに行ってくれていたのだ。
「ありがと!」
私は受け取って、いそいそと袋を開く。
(おいしそー!)
分厚めのパティと、濃いソースと、パイナップル!
(お肉とパイナップルの組み合わせ、好き嫌いが分かれるけど、私はとても好き)
じゅるり。ついよだれが出てしまう。うふふふふふ。
「お使いありがとね」
千晶ちゃんもお礼を言って笑う。
「いーよ、お前らフラフラさせたら変なの寄ってきそうだからな、コイツとか」
黒田くんは橋崎くんを親指で指差す。
「コイツって何だ! オレは単にたこ焼きをだな」
「つーか、秋月どこいった」
黒田くんは橋崎くんを無視して言う。
「飲み物買いに行ってくれたよ」
「アホかあいつ、男置いていった意味分かってねーな」
私が答えると、黒田くんは眉を軽く寄せて言った。
「変なやつに声とかかけられてねーな?」
「え、あ、うん」
「コイツ以外の」
「変なやつ扱いすんなって!」
橋崎くんはぷんすかと言う。
「まーまー」
ひよりちゃんはちょっと楽しそうに言う。
「いいじゃん、皆で食べよう。橋崎くん、だっけ、ほらこっち来なよー、千晶ちゃんそこでっ」
ひよりちゃんは、千晶ちゃんと橋崎くんをビーチパラソルの下、そこに敷いたビニールシートに並んで座らせようとしている。ひよりちゃんが(黒田くんに持たせて)持参したやつ。
さっき「えー、いい人そうじゃんイケメンだし」と言っていたので、千晶ちゃんに橋崎くんを推す気になったらしい。コイバナとか大好き女子だから、ひよりちゃん……。
「うお、いいっすか!? じゃあお邪魔しますっ」
「えー……」
少しめんどくさそうな千晶ちゃんは、しぶしぶその横に座った。
黒田くんは呆れたようにそれを見ながら私に「海の家戻るか?」と言う。
「ん? なんで?」
「お前、自分で気づいてないかもしんねーけど、相当疲れてんぞ」
私は首を傾げた。そうかなぁ。日焼けはヒリヒリしてきたけど。
とりあえず言われた通りに、最初に着替えた海の家に戻って、一日レンタルしてる机のところに座ると、どっと疲れが来た。
(うわー)
日光と海水って、こんなに疲れるやつだっけ?
思わず机に突っ伏す。肩があったかくなって、それは黒田くんが私の肩にかけてくれたバスタオルだった。
「しばらく寝とけ」
そう言って、なんだか穏やかな表情で私の頭を撫でてくれるから、私は睡魔に抗えない。
重くなっていく瞼の隙間から黒田くんの顔が見えて、ああ毎日こんな風に眠れたら幸せだろうなって、そんな風に思うのだった。
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