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分岐・山ノ内瑛

アウトかセーフか(side山ノ内光希)

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 食事中、父さんが思い出したように「あ、転勤ありそうなんや俺」と言い出したので家族は少し大騒ぎになった。

「単身赴任するわ」
「ちゃんとご飯食べてよね?」

 母さんは少し心配そう。
 激務な上に、自分から仕事増やしちゃうタイプの人間だからなあ。
 まだ転勤先は分からへんということで、話は別のものに移って、すき焼き鍋はからっぽになった。

 食後、お風呂先に入っちゃって~いえいえ私後でいいです皆さんお先に、の攻防の末、なんとかお風呂に華ちゃんが向かって(皐がドライヤーの場所とか教えに行った)皆でお膳を片付けて食洗機のスイッチをいれる。

「華ちゃんお風呂上がったらケーキにしよか」
「せやな」
「和室で食べるう?」
「や、こっちでええんちゃう? こっちのテーブルと、テレビんとこのローテーブルで食べたらいけるやろ」

 母さんとそんな会話をしながら、キッチンで紅茶を淹れる準備をはじめる。

(華ちゃんて、ちゃんとしたお紅茶飲んでそうやなぁ)

 こんなスーパーで285円くらいの紅茶なんか飲んでないやろな。大丈夫かな。まぁこれしかないし、仕方ない。
 それからあたしは和室まで行って、瑛をちらりと見た。
 和室の庭側には広縁があって、そこで瑛はストレッチしていた。ほんまは風呂上がりにしてるやつやけど、ぼけっとしてたからな。

「瑛」
「なんや」

 あたしは前屈してる瑛の横で、瑛を見下ろしながら言う。

「あんな、華ちゃん部屋に連れ込んだりしたらあかんで?」
「は!? せえへんし」

 ちょっと頬を赤くして言う瑛。

「せやんなぁ」

 あたしはニヤリと笑う。

「部屋にある、あのやーらしー雑誌、見られたら困るもんな?」
「は?」

 瑛はぽかん、とした後にもう一度「は?」と言った。

「カバンに入ってたやつ。ほらナースとかの」
「だあぁぁぁあ」

 瑛は立ち上がってあたしを見下ろす。はー、背が高くなったもんや。

「ちゃう、あれ、友達が勝手に」
「ふーん、友達がねぇ」
「ほんまやって!」
「看護師さんをそんな目で」
「見てへん!」
「ケガでもしたの?」

 和室の開けられた障子のそば、広縁との境で首をかしげる華ちゃん。
 お風呂あがりで、肌が白いから上気してるのが分かるし、乾かしてても湯上りの髪って感じで、色っぽさみたいなのすらある。まだ無自覚みたいだけど。
 まぁ、まだ中学生やもんなぁ。せやけど大人になったらどうなるんやろ。すっごいのに惚れてもたなぁ、瑛は。

「は、華」
「看護師さんって聞こえたから」

 ぱちぱち、と瞬きをする華ちゃん。

「大丈夫?」
「けけけけケガなんかしてへん! 大丈夫やっ!」

 ぴょんぴょん、と飛んでみせる瑛。

「やめえや、床抜ける」
「抜けへんわこんくらいで」

 あたしたちの会話を聞いて、ふふ、と華ちゃんは笑う。

「いいね、仲良し」
「仲良くあらへんほんまもー」

 いらん話しよって、って顔で睨まれる。ハイハイ。

「お邪魔しましたぁ。ストレッチつづきどーぞ」
「言われへんでもやるわ」

 瑛はぶつぶついいながら、また座ってストレッチのつづきを始める。
 華ちゃんはその横に体操座りして、何か瑛と話してるみたいだった。

「華ちゃん、紅茶好き?」
「あ、はい」
「今からケーキにしよ。紅茶淹れるな」
「あ、手伝います」

 立ち上がろうとする華ちゃんを手で制する。

「いいていいて。キッチンそんな広くないし。まってて」

 恐縮する華ちゃんと睨んでくる瑛を残し、キッチンへ向かう。
 華ちゃんと瑛以外は、リビングでテレビを見ていた。ソファにじいちゃんばあちゃん、優希。テーブルの椅子にほかの人は座っている。

(あ、しまった2人きりにしてもた)

 ケトルでお湯を沸かしながら思う。

(手伝ってもらったら良かったかな)

 でもリビングと和室続いてるし、広縁は角度的に見えへんけど、……まぁ滅多なことないやろと思い直して、とりあえず紅茶を淹れる。
 冷蔵庫からケーキを出して、食卓のテーブルに置いた。

「あ、美味しそ」

 伊希が頬を緩める。

「せやろ、華ちゃんに感謝せえ」

 あの子を釣るためにわざわざ買うたんやから。

「皐か伊希、お皿に出しといて」
「おーけー」
「優希、フォーク出して」
「えー」
「ケーキ買うてきたったのに歯向かうんかい」
「ちぇ、しゃあなしやぞ」

 ほんまにウチの弟たちは無精やわ。まったく。
 もう1人の弟は何しよるんかな、とリビングから和室をのぞいて、あたしは頭をひっこめた。
 テレビからは、バラエティの楽しい笑い声。それに合わせて家族も笑う。

(あかーん、指一本触れさせませんて約束したのに)

 あたしはぽりぽりと頬をかく。
 随分と積極的やんけ、中学1年生。

「手ェ出させてもたぽいなこれ」

 でもまぁ、セーフ?
 どないやろ。アウト?

「ん?」

 不思議そうに父さんが振り向いたので、あたしは笑って「なんでもないで」と言って、わざと足音を立てて和室に入った。
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