上 下
130 / 702
分岐・山ノ内瑛

山ノ内というやつについて(side???)

しおりを挟む
 山ノ内瑛という1年生は、なかなかオモロイ奴で、オレは気に入っている。キャプテンとしても、個人的にも。

 入学前の春休みから、推薦組は練習に参加しているけど、山ノ内は段違いだった。
 ミニバスと中学バスケは、細かいルールは置いておいて、リングの高さとボールの大きさの違いに最初は戸惑うと思う。
 けど山ノ内はそうでもなかった。話を聞いていると、小学生の時から近所の公園のバスケコートで高校生とかと遊びでバスケしてたらしい。道理で。
 そんな山ノ内が頭角を現したのは、横浜であった姉妹校での合宿中だった。まるで乾いたスポンジみたいに、コーチやオレらの言うことを吸い込んで、そして実行していく。
 簡単なことではないと思う。山ノ内も最初からできるわけではない。ただ人並み外れた集中力で、できるまで繰り返す。何度も何度も。

「目がええんやな」

 コーチは感心したように言った。

「目、ですか」
「おん。あいつシュー練で並んでる時やら、めっちゃ見てるで、お前らの動き。ほんで盗んでるんや、一挙手一投足」

 オレはほう、と息を吐いた。言うが易し、ってこういうこと。オレらだって上手い人の動きは観察するし、マネしようと思うけど、見ててやれるなら苦労はしない。けど山ノ内はそれを実行しちゃってるみたいだった。

「一対一の時もそうっすよね」
「せやなぁ。よう見てるであいつ」

 対峙する相手の、細かい動き。目線、手、指、膝、足、それらの向き、かすかな動き、それから呼吸、多分そういうのを全部見て観察して、総合的に判断している。意識しているかどうかはともかく。だから、一対一にめっぽう強い。

「まだ早いと思うてたけど、ベンチ入れとくかぁ。あいつ試合で成長するタイプやろ。どない?」
「うっす、オレもそれでいいと思います」

 技術的にはまだまだ拙いところはあるけど、それに関しては異存なかった。
 異存はなかったが、予想以上ではあった。鎌倉にある強豪との練習試合、山ノ内は想像以上に本番に強いタイプだった。度胸が据わってるし、メンタルも強い。背はそこそこ、まだちょっと細すぎるから多少当たりに弱いけど、それはこれからだろう。あとはもうちょい体力も欲しい。

「今年は無理でも、来年は主力やなぁ」

 コーチが感心半ば、呆れ半ばみたいな声で言って、オレは来年コイツと同じコートにいられないことをひどく悔しく思った。全国行けるかもしれん。

 そして7月。県予選の日、山ノ内は明らかに変な方向にテンションが高かった。

「どないしたんや」
「や、なんもないっす」

 そういう割に会場入りしてからキョロキョロしとるし、応援席を見上げては誰かを探している。親でも来るんかいな。

「先輩」

 くすくす、と2年の女子マネージャーが笑いながら手招きした。

「なんや」
「1年の子に聞いたんやけど、山ノ内くん、彼女来るんやって」
「はあ!?」

 オレは呆れた。そんなことでアイツ落ち着き無くしとるんか。まじか。

「いや困るんやけど、そんなことで調子崩されたら」
「や、逆ちゃいます?」

 マネージャーがコートを指差す。試合前のアップ、シュー練。山ノ内のボールは綺麗にリングに収まった。

(キレイなフォームやな)

 入学したときあった、変なクセはコーチによって徹底的に叩き直されていた。いや、こういうの直りにくいんやけど、多分本人的にも上手いやつを観察して、自分の動きに取り入れたんだろう。この短期間で。舌を巻く。

「……調子崩してないんやったらええんやけど」
「めっちゃ可愛いらしいですよ、本人談らしいですけど」
「ほんまかー? だいたいそう言うのって、ハードル上げすぎて大したことないやんってなるやん」
「まぁ、それも含めて楽しみにしときましょ」
「つか、あいつにそんな可愛い彼女おったら腹立つから」

 何にでも恵まれおって。顔からセンスから。

「あ」
「ん?」
「来たんちゃいます? 彼女。めっちゃ手ぇ振ってますもん」
「ほんまや」

 満面の笑みで手を振る山ノ内の目線の先に、目をやる。

「……クッソ、腹立つわ」
「うーわ、モデルさんみたい」

 応援席のすみのほう、すみっこなのにえらく目立つ美人さん。控えめに微笑んで、山ノ内に手を振り返している。

「なんでなん。なんでアイツ顔も良くて彼女も美人なん」
「そら、イケメンには美人の彼女ができるんちゃいますかねぇ……」
「オレらはどないしたらええんや」
「顔面偏差値同じくらいの彼女作ったらええんちゃいます?」
「どれくらいや、オレ」
「54くらい」
「普通に毛が生えたくらいやん」
「でも試合中は70くらいになりますよ?」
「ほんま?」
「ちなみにあたし、友達に55くらいや言われてますけど、どう思います?」

 首をかしげるマネージャー。55? もっと可愛いと思ってたけど。

「……お前56くらいはあるで」
「大して変わらへん」

 爆笑するマネージャー。うん、なんやろな、この空気。ちょっとドギマギ。
 ドギマギしようがどうしようが、予選1日目は始まる。オレらはシードなので少し遅め。
 とりあえず1日目は無難に勝ち進んだ。後は明日。それから来週、再来週まで続く。
 山ノ内もまぁまぁ試合に出て、そこそこ(結構、とは腹立つので言わないでおく)活躍してた。特に一対一は相変わらず強い。強いチームと当たってない、というのもあるけど、3年だろうが体格差あろうが御構い無しだ。めちゃくちゃ楽しそうにプレイしてる。なんならちょっと笑ってるし。あれ、無意識に笑ってんだろうなぁ。イケメンだから絵になる。

 会場から出て、地下鉄で学校に戻る、という段になって「絶対駅で合流しますんで友達と途中まで帰らせてください」と山ノ内が監督に直談判していた。

「友達、新神戸まで帰るんです」

 オレらの学校はそのいくつか手前の駅だ。彼女、新神戸辺りに住んでいるのか?

「そのあと新幹線なんで」
「え、そんな遠くから応援来てくれてたん?」

 思わず会話に入る。

「うっす」

 山ノ内は眉毛を下げてうなずく。

(遠距離なんかぁ……)

 そりゃ、ちょっとでも会いたいよなぁ。

「……絶対に駅で合流するんやな?」
「はい!」

 それを聞いて、監督も少し不憫に思ったらしい。試合の結果も良くて機嫌が良かったのも功を奏し、山ノ内はひとり、走って駅まで向かっていった。
 改札をくぐり、駅の階段を降りた先に、山ノ内と彼女が並んで歩いているのを見つけた。

「あーあ」
「腹立つ」
「イケメン爆ぜろ」

 彼女がいないメンバーほとんど全員が同じ意見のようだ。彼女持ちたちは笑っている。チッ。
 山ノ内たちは離れた車両に乗る気らしく、すみっこの方まで行って笑いあっている。

「あーあ、ええなぁ、青春やんけ」
「先輩もそろそろ青春しません?」

 いつのまにか横にいたマネージャーがオレのことを覗き込んで言った。

「……せやなぁ」

 これって告白なんやろか。アピられてるんやろか。からかわれてるんやろか。バスケしかしてなくて、恋愛偏差値クッソ低いから分からへん。
 とりあえず1つ分かるのは、オレはこいつのこと他のやつより可愛く見えてるっぽいってことだけ。
 白線の内側までおさがりくださいっていうアナウンスを聞きながら、オレはぼんやりとそんなことを考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】俺の声を聴け!

はいじ@11/28 書籍発売!
BL
「サトシ!オレ、こないだ受けた乙女ゲームのイーサ役に受かったみたいなんだ!」  その言葉に、俺は絶句した。 落選続きの声優志望の俺、仲本聡志。 今回落とされたのは乙女ゲーム「セブンスナイト4」の国王「イーサ」役だった。 どうやら、受かったのはともに声優を目指していた幼馴染、山吹金弥“らしい”  また選ばれなかった。 俺はやけ酒による泥酔の末、足を滑らせて橋から川に落ちてしまう。 そして、目覚めると、そこはオーディションで落とされた乙女ゲームの世界だった。 しかし、この世界は俺の知っている「セブンスナイト4」とは少し違う。 イーサは「国王」ではなく、王位継承権を剥奪されかけた「引きこもり王子」で、長い間引きこもり生活をしているらしい。 部屋から一切出てこないイーサ王子は、その姿も声も謎のまま。  イーサ、お前はどんな声をしているんだ?  金弥、お前は本当にイーサ役に受かったのか? そんな中、一般兵士として雇われた俺に課せられた仕事は、出世街道から外れたイーサ王子の部屋守だった。

彼女の光と声を奪った俺が出来ること

jun
恋愛
アーリアが毒を飲んだと聞かされたのは、キャリーを抱いた翌日。 キャリーを好きだったわけではない。勝手に横にいただけだ。既に処女ではないから最後に抱いてくれと言われたから抱いただけだ。 気付けば婚約は解消されて、アーリアはいなくなり、愛妾と勝手に噂されたキャリーしか残らなかった。 *1日1話、12時投稿となります。初回だけ2話投稿します。

「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。

百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」 私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。 上記の理由により、婚約者に棄てられた。 「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」 「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」 「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」 そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。 プライドはズタズタ……(笑) ところが、1年後。 未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。 「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」 いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね? あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──

2度もあなたには付き合えません

cyaru
恋愛
1度目の人生。 デヴュタントで「君を見初めた」と言った夫ヴァルスの言葉は嘘だった。 ヴァルスは思いを口にすることも出来ない恋をしていた。相手は王太子妃フロリア。 フロリアは隣国から嫁いで来たからか、自由気まま。当然その所業は貴族だけでなく民衆からも反感を買っていた。 ヴァルスがオデットに婚約、そして結婚を申し込んだのはフロリアの所業をオデットが惑わせたとして罪を着せるためだった。 ヴァルスの思惑通りに貴族や民衆の敵意はオデットに向けられ遂にオデットは処刑をされてしまう。 処刑場でオデットはヴァルスがこんな最期の時まで自分ではなくフロリアだけを愛し気に見つめている事に「もう一度生まれ変われたなら」と叶わぬ願いを胸に抱く。 そして、目が覚めると見慣れた光景がオデットの目に入ってきた。 ヴァルスが結婚を前提とした婚約を申し込んでくる切欠となるデヴュタントの日に時間が巻き戻っていたのだった。 「2度もあなたには付き合えない」 デヴュタントをドタキャンしようと目論むオデットだが衣装も用意していて参加は不可避。 あの手この手で前回とは違う行動をしているのに何故かヴァルスに目を付けられてしまった。 ※章で分けていますが序章は1回目の人生です。 ※タグの①は1回目の人生、②は2回目の人生です ※初日公開分の1回目の人生は苛つきます。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月2日投稿開始、完結は11月4日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...