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悪役令嬢、甘酸っぱさを堪能する
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「ちょっと待ってこれ出れる!? わたし出れる!?」
「大丈夫ひよりちゃん落ち着いてっ肩さえ出たらなんとかなるから!」
お寺の柱の穴潜り。
私の身体は小柄だし、割合すぐに出られたけど、ひよりちゃんは背が高いぶん(ひよりちゃんは5年生から6年生にかけてかなり背が伸びた、羨ましい)ちょっとだけ肩幅もあるので、少しばかり苦労していた。
「で、でれたぁ」
穴から抜け出すと、すかさず「お願いかないますようにっ」と手を合わせている。
「何をお願いしたの?」
「ステキな出会いがありますようにって!」
満面の笑みで答えるひよりちゃん。
それに、呆れたように黒田くんが「お前ここ寺だぞ。煩悩まみれじゃねーか」と突っ込む。
「え、だめ?」
「しらねー」
「じゃあいいじゃん、ね、華ちゃん」
同意を求められて、笑って首をかしげる。どうなんだろ。
「もーほんと、タケルはそういうとこがさぁ昔からさぁ」
「そういうとこがなんだよ」
「ふーん、もういいよ。てか2人はしないの」
ひよりちゃんは黒田くんと秋月くんを見ながら、柱を指差す。
「俺はパス。多分無理だしな」
肩をすくめる黒田くん。
「なんとかなるかもよ?」
「やだよ詰まりたくねぇもん」
「ギリギリいけそーだけど」
「別に願い事くらい自分でなんとかするわ」
「はー」
ひよりちゃんは感心したような、呆れたような声を出した。
「アンタのそーいうとこはカッコイイと思うけどさ」
「気色悪ぃな」
「たまには神頼みしといたら?」
「だからここ仏だって」
「どっちでもいーじゃん。望み薄なんだからせめて縁起くらいかつぎなよ」
「てめ」
イトコトークを繰り広げる2人を横目に、私は秋月くんに「秋月くんは?」と尋ねてみる。
「うーん、俺なら全然いけると思うけど、そんなに興味ないかなぁ」
「ないの?」
私はにんまり笑って、少し背伸びをして彼の右の耳元でそっとささやく。
「ひよりちゃんと付き合えますように~、とかは?」
「ひゃぁ」
秋月くんは右耳を抑えて真っ赤になっていた。
「どどどどどどうして」
「えっバレバレ」
「言わないで」
「言わない言わない」
くすくす笑う。
(ちょう甘酸っぱい~)
すごく見てて幸せな気持ちになる。
「……何してんだお前ら」
「ちょ、タケちゃん痛い、八つ当たりじゃん」
「うるせえ」
なぜか黒田くんが秋月くんのお尻を(じゃれてる感じの強さで、だけど)蹴り上げていた。
「?」
「えっねぇねぇ秋月くんと何話してたの!?」
「えー。秘密」
私は口の前で指を立てて笑ってみせた。
「ほえ」
ぽかんとしたひよりちゃんの顔。
「え、なに?」
「いや、なんか、華ちゃんって時々すごい表情オトナだよね」
「え、そ、そう?」
アラサーにじみ出てる?
「いーなー、どうやったらそんなオトナっぽくなれるのかなっ」
羨ましそうなひよりちゃん。
(ナカミが単に歳を重ねてるだけですよー)
とは、言えないので曖昧に笑う。
「大人になったら勝手に大人になると思うよ? 私は今の可愛いひよりちゃんが好き」
「う。そう?」
「うん」
「可愛い?」
「可愛い」
そう断言すると、ひよりちゃんはふにゃりと笑って「華ちゃんがそう言ってくれるならいいかなぁ」と言った。
「で、ところで秋月くんとなんの話?」
「え、気になる?」
(もしや秋月くん、脈アリ!?)
ちょっと、ワクワクしながら問いかえす。
「うんっ、気になる! 好きな人の話とか!? 誰々っ」
完全に好奇心の塊の目だ。
(ふー、まだもうちょい頑張りましょう、だね秋月くん)
視界の隅で、すこし肩を落とす秋月くんが見えた。
「……よし俺、くぐってくる」
秋月くんはすぐ気を取り直して、穴潜りの列に並ぶ。
「頑張って~」
にこりと微笑むひよりちゃんに、ぎこちなく笑いかえす秋月くん。
私は横にいた黒田くんに、こっそり言った。
「あんなにバレバレなのに、気づかないひよりちゃんって相当鈍感だよね?」
黒田くんは一瞬絶句して、それからハァとため息をついた。
(え、なになに、やっぱ黒田くんもひよりちゃんを……)
目をぱちぱちしながら見上げていると「お前が今考えてることは100パー違うからな」と念を押された。
「え、え、わかる?」
「顔に出てた」
「あ、そう?」
えへへ、とごまかす。
「俺は単に、どの口でンなコト言ってんだと思って呆れてるだけだ」
「え?」
きょとんとしている間に、片手で両頬を掴まれる。強制ひょっとこ顔。
「は、変な顔」
めちゃくちゃ楽しそうに笑われた。
「ひゃ、ひゃめてよお」
一応抵抗してみる。黒田くんは「俺も人のこと言えねーよなぁ」と、もう一度にやりと笑ってその手を離した。
「俺も相当煩悩まみれだわ」
「そ、そうなの?」
小首を傾げてみる。
(てか私も煩悩やばいよね。主に食欲)
「あ、ねえ、ふたり! 秋月くんくぐるよ!」
ひよりちゃんの声で、柱に向かい直す。
「がんばれー、秋月くん!」
私は無邪気に応援するひよりちゃんを見て、秋月くん頑張って、と心の中でエールを送った。
(は~、甘酸っぱいよぉ、癒されるう)
私はひとり、ふたりを見つめながらニヤニヤと笑う。
なんだかんだ、煩悩まみれの私たちです。
「大丈夫ひよりちゃん落ち着いてっ肩さえ出たらなんとかなるから!」
お寺の柱の穴潜り。
私の身体は小柄だし、割合すぐに出られたけど、ひよりちゃんは背が高いぶん(ひよりちゃんは5年生から6年生にかけてかなり背が伸びた、羨ましい)ちょっとだけ肩幅もあるので、少しばかり苦労していた。
「で、でれたぁ」
穴から抜け出すと、すかさず「お願いかないますようにっ」と手を合わせている。
「何をお願いしたの?」
「ステキな出会いがありますようにって!」
満面の笑みで答えるひよりちゃん。
それに、呆れたように黒田くんが「お前ここ寺だぞ。煩悩まみれじゃねーか」と突っ込む。
「え、だめ?」
「しらねー」
「じゃあいいじゃん、ね、華ちゃん」
同意を求められて、笑って首をかしげる。どうなんだろ。
「もーほんと、タケルはそういうとこがさぁ昔からさぁ」
「そういうとこがなんだよ」
「ふーん、もういいよ。てか2人はしないの」
ひよりちゃんは黒田くんと秋月くんを見ながら、柱を指差す。
「俺はパス。多分無理だしな」
肩をすくめる黒田くん。
「なんとかなるかもよ?」
「やだよ詰まりたくねぇもん」
「ギリギリいけそーだけど」
「別に願い事くらい自分でなんとかするわ」
「はー」
ひよりちゃんは感心したような、呆れたような声を出した。
「アンタのそーいうとこはカッコイイと思うけどさ」
「気色悪ぃな」
「たまには神頼みしといたら?」
「だからここ仏だって」
「どっちでもいーじゃん。望み薄なんだからせめて縁起くらいかつぎなよ」
「てめ」
イトコトークを繰り広げる2人を横目に、私は秋月くんに「秋月くんは?」と尋ねてみる。
「うーん、俺なら全然いけると思うけど、そんなに興味ないかなぁ」
「ないの?」
私はにんまり笑って、少し背伸びをして彼の右の耳元でそっとささやく。
「ひよりちゃんと付き合えますように~、とかは?」
「ひゃぁ」
秋月くんは右耳を抑えて真っ赤になっていた。
「どどどどどどうして」
「えっバレバレ」
「言わないで」
「言わない言わない」
くすくす笑う。
(ちょう甘酸っぱい~)
すごく見てて幸せな気持ちになる。
「……何してんだお前ら」
「ちょ、タケちゃん痛い、八つ当たりじゃん」
「うるせえ」
なぜか黒田くんが秋月くんのお尻を(じゃれてる感じの強さで、だけど)蹴り上げていた。
「?」
「えっねぇねぇ秋月くんと何話してたの!?」
「えー。秘密」
私は口の前で指を立てて笑ってみせた。
「ほえ」
ぽかんとしたひよりちゃんの顔。
「え、なに?」
「いや、なんか、華ちゃんって時々すごい表情オトナだよね」
「え、そ、そう?」
アラサーにじみ出てる?
「いーなー、どうやったらそんなオトナっぽくなれるのかなっ」
羨ましそうなひよりちゃん。
(ナカミが単に歳を重ねてるだけですよー)
とは、言えないので曖昧に笑う。
「大人になったら勝手に大人になると思うよ? 私は今の可愛いひよりちゃんが好き」
「う。そう?」
「うん」
「可愛い?」
「可愛い」
そう断言すると、ひよりちゃんはふにゃりと笑って「華ちゃんがそう言ってくれるならいいかなぁ」と言った。
「で、ところで秋月くんとなんの話?」
「え、気になる?」
(もしや秋月くん、脈アリ!?)
ちょっと、ワクワクしながら問いかえす。
「うんっ、気になる! 好きな人の話とか!? 誰々っ」
完全に好奇心の塊の目だ。
(ふー、まだもうちょい頑張りましょう、だね秋月くん)
視界の隅で、すこし肩を落とす秋月くんが見えた。
「……よし俺、くぐってくる」
秋月くんはすぐ気を取り直して、穴潜りの列に並ぶ。
「頑張って~」
にこりと微笑むひよりちゃんに、ぎこちなく笑いかえす秋月くん。
私は横にいた黒田くんに、こっそり言った。
「あんなにバレバレなのに、気づかないひよりちゃんって相当鈍感だよね?」
黒田くんは一瞬絶句して、それからハァとため息をついた。
(え、なになに、やっぱ黒田くんもひよりちゃんを……)
目をぱちぱちしながら見上げていると「お前が今考えてることは100パー違うからな」と念を押された。
「え、え、わかる?」
「顔に出てた」
「あ、そう?」
えへへ、とごまかす。
「俺は単に、どの口でンなコト言ってんだと思って呆れてるだけだ」
「え?」
きょとんとしている間に、片手で両頬を掴まれる。強制ひょっとこ顔。
「は、変な顔」
めちゃくちゃ楽しそうに笑われた。
「ひゃ、ひゃめてよお」
一応抵抗してみる。黒田くんは「俺も人のこと言えねーよなぁ」と、もう一度にやりと笑ってその手を離した。
「俺も相当煩悩まみれだわ」
「そ、そうなの?」
小首を傾げてみる。
(てか私も煩悩やばいよね。主に食欲)
「あ、ねえ、ふたり! 秋月くんくぐるよ!」
ひよりちゃんの声で、柱に向かい直す。
「がんばれー、秋月くん!」
私は無邪気に応援するひよりちゃんを見て、秋月くん頑張って、と心の中でエールを送った。
(は~、甘酸っぱいよぉ、癒されるう)
私はひとり、ふたりを見つめながらニヤニヤと笑う。
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