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空手少年は釘をさす(sideひより)

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「というわけだから、お前にはバレる前に言っておく。余計なこと設楽に言うなよ」
「いやいやいやいや、唐突すぎでしょ」
「先に釘を刺しとかねぇと、お前に勘付かれたら後々面倒くせぇ」
「む、失礼な」

 わたしがピアノから帰るとすぐに、イトコのタケルが家にやってきた。
 そして玄関先で開口一番、耳を疑うようなことを告げたのだ。 

(え?  タケルが華ちゃんを?  好き?)

 全然気づいてなかった。
 ほえー、とちょっと感心してタケルを眺めた。

「……、なんだよ」
「や、タケルもいっちょ前に好きな人とかできるんだなって」
「悪いかよ」
「いや、悪くはないけど」
「好きなもんはしょーがねーだろうが」
「アンタほんとサッパリしてるよね」

(んー、でもな、華ちゃん……ものすっっごいイケメンの彼氏?  らしき人いるんだけどな)

 伝えていいか迷っていると「もしかしてあの男前か」と言われた。

「……知ってるの?」
「おう。塾で会った、背が高くて、ちょっと目付き悪い中学生みたいなやつだろ」
「そうそう。なんだ、知ってたんだ。てかイケメンって認めるんだ」
「あ?  そりゃ誰がどう見ても男前の部類だろうが、アレは」
「かぁっこよかったよねぇ~、急に現れてさぁ、何者だったんだろうね」

 華ちゃんからは、あの人のご親戚があの塾経営してて、とかは聞いたけど、結局良く分かんなかった。

「さぁな」
「なんか王子様って感じだったよね」

 態度は王子様っていうより、殿様感みたいなのあったけど。悪者成敗! みたいな。

「おう」
「いいんだ?」
「事実だからな」

 淡々と頷くタケル。

(勝ち目は悪いけど薄いよタケル……でも、タケルからこんな話聞いたの初めてだし!)

「よーし、協力したげる。何したらいいの?」
「だから、何もすんなって。それ言いに来たんだよ」
「えっいいじゃん、楽しくなってきた」
「チッ、どっちにしろかよ」
「頑張ってねタケル」
「……」

 じろりと睨まれた。こわー。

(あーヤダヤダ、せっかく協力してあげようってのにさ……あ!)

「もうすぐ修学旅行の班決めじゃん!」
「だな」
「これは華ちゃんと同じ班になるしかないでしょ!」
「まぁ誘うつもりではあった」

 そのつもりだったんかい。

「じゃー、結局いつものメンバーって感じになるけど、あと秋月くん誘って4人で班になろー。多分、4人か5人でしょ、班」
「そうするか。つか、お前は……どうなんだ。今は、恋愛とか」
「ん? 珍しくわたしのコイバナ聞きたいの? 普段めんどくさがるクセに」
「いやそうじゃねぇけどな」

 少し変な顔をするタケル。

「うーん、今はまだ好きな人いないかなー、別に元カレ引きずってるとかはないけど」
「そうか」
「ずぇぇっったいに、無いけど」
「無いならいい」

 ちょっと、どうでも良さそうなタケル。なんでわざわざ聞いたのよそれじゃ。

(まったく)

 わたしが頰を膨らませ、ぷうっと睨んでいると「しかし、あれだな、世の中には物好きがいるもんなんだな」と謎のひとり言を言って、タケルは踵を返した。

「じゃあな。突然邪魔して悪かったな」

 家にあがりもせず、さっさと玄関を出るタケルに軽く手を振る。
 ドアがガチャリと閉まってから、わたしは口を押さえてニヤニヤしてしまった。

(なるほどねえ)

 ふふふ、なんて、笑いが漏れる。

(なんせ恋バナが楽しいお年頃だもの、わたしたち)
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