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悪役令嬢は思い出す

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 翌日、五月に迫った修学旅行の説明会があった。班決めはまた来週らしいけど。

(えへへ、結構楽しみ)

 体育館で、概要の説明を聞きながら、気持ちは遠く、古の都に飛んでいた。
 二泊三日の、京都・奈良。

(これまた王道な行き先ですこと)

 その後すぐの休み時間、私の机まで来たひよりちゃんが、口を尖らせて言った。

「ねぇ、お寺も神社も鎌倉にだって、腐るほどあるのにさ」

 ひよりちゃんはちょっと不服そうだ。

「大阪まで行ってテーマパークとか行きたいっ」
「あは、まぁねぇ」

(たしかに小学生からしたら、そんなに興味ないかぁ)

 アラサーには、なんだか惹かれるものがある。
 鎌倉でも、休みの日は神社やお寺、巡っちゃったりしてるもんなぁ。そんなに詳しくはないんだけど。

(なんか、静かな空間って、癒されるんだよなぁ……)

「あ、でも、鹿いるよ、鹿」
「鹿でそんなにテンション上がらない」

 ぷう、と頰を膨らますひよりちゃん。

「あ、そういえば」

 ひよりちゃんは、思い出したように言った。

「華ちゃんのカバンに付いてるお守り、あれ京都のだよね?」
「あ、うん、知ってる?」
「テレビでやってたんだ」
「そうなの?」

 首をかしげる。

(ウチってテレビ、ないからなぁ)

 おセレブなのに。

「あれ、手作りのお守りで、同じ柄って1つもないんだって」
「へぇ」
「女性の守り神らしいよ、なんでもお願い叶うんだって、恋愛とかっ」

 嬉しそうに言う、ひよりちゃん。
 すっかり次の恋愛モードに入っている。良きかな良きかな、恋せよ乙女。

(てか、アキラくん、そんな素敵なもの贈ってくれていたのか……)

 今度会った時、ちゃんとお礼しなきゃ、と心に決める。

「わたしも欲しくて!」
「自由行動、その神社、行けたら行こうね」

 修学旅行の班、まだ分からないけど、できればひよりちゃんと一緒がいいなぁ、なんて本人とも話している。

「女子ってそういうの、好きだよね」

 隣の席で黒田くんと話していた、秋月くんが話に入ってくる。

「なんかね、やっちゃうよね、お守りとかおまじないとか、パワースポットとか?」

 ひよりちゃんはちょっと照れがちに言う。

「お前、昔からそういうのばっか言ってるけど、効いてんだか効いてないんだか分かんねぇじゃねーか」

 いやむしろ効いてねぇな、と少し呆れたように言う、黒田くん。

「うるさいなぁタケルは」

 ひよりちゃんは再び頰を膨らますと「じゃあチャイム鳴りそうだから」と自分の席に戻って行った。

 その日の放課後、ランドセルに教科書を入れながら黒田くんが言った。

「設楽、今から放課後残れるか?  俺たちまだ調べ学習のやつ提出できてねえからさ」
「あ」

(す、すっかり忘れてた)

「うん大丈夫!  ごめんね」
「謝ることじゃねーよ」

 黒田くんがそう言のうとほぼ同時に「あ、そっか華ちゃん残るのか」と、ひよりちゃんが言う。

「提出今日までだもんね」
「うん、ごめんね」
「ううん。てかごめん、今日早く帰らなきゃで、待てないんだ」

 ひよりちゃんは申し訳なさそうに言った。

「えっいいよ、待たせるの悪いし」
「うーん。あ、じゃあ、タケル!  ちゃんと華ちゃん送ってよね。同じ方向でしょ」
「分かったよ」

 ぶっきらぼうに答えて、ひよりちゃんをちらっと見た。

(ふふ、きょうだいみたい)

 少し微笑ましくて眺める。
 手を振るひよりちゃんが教室から出たのを横目で見つつ、黒田くんは「あいつ、同じ年なのに姉貴ヅラすんだよな」とボヤいた。思わず吹き出してしまう。

「あは、ひよりちゃんが前同じように言ってたよ」
「マジかよ」

 黒田くんは苦笑いで答えた。

「イトコなんだよね」
「おう」
「いいなぁ、きょうだいみたい、で……」

(きょうだい?)

 引っかかるワードだ。首を傾げた。

(前世ではお姉ちゃんがいたけど。えーと、違うな。なんだっけ。華に兄弟、は……いるよ!?)

 私は重要なことを思い出して硬直してしまった。

(攻略対象の!  義理の!  弟!)
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