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悪役令嬢は羊羹を持っていく
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「超~~恥ずかしいことをしてしまい、ほんとに申し訳なく思っております」
私は黒田家の玄関で、老舗和菓子店の羊羹を差し出しつつぺこりと頭を下げた。
あの後、ぐっすり寝てしまったらしい私は、気がついたら保健室のベッドの中にいた。
(い、一体なにが……どうなったやら)
良くわからなかったが、保健室の先生も「あら顔色良くなったわね」と微笑むだけで特に変わった様子はない。
(余計なこと言っちゃう前に戻ろう)
教室に戻ると、午後の授業が始まったばかりだった。
「よう、もう大丈夫なのか」
黒田くんも平素通りだ。
「顔色良くなった」
「寝不足だった?」
ひよりちゃんと秋月くんが安心したように笑ってくれた。
(ま、まさか夢……!? いや、それにしてはリアルだった……っていうか!)
私は発見してしまった。
黒田くんのシャツが、ちょうど私が握った記憶があるところ、そこがシワになっているのを。
(あーーー現実)
私は一人で赤くなったり青くなったりした後、ふと自分が「ちゃんと」落ち着いているのを自覚した。
(黒田セラピー……)
もちろん、考えなくてはいけないことが出てきたのは事実だ。
しかし、今の心境はかなり楽になっている。
(ありがたや、黒田様…….)
そして放課後、羊羹とともに黒田家を訪ねたのだ。
場所は、ひよりちゃんに教えてもらった。ハイヤーで送ったことあったけど、恐ろしいくらいに全然道がわからなかったのだ。
(方向音痴では、ないはずなんだけど)
「……まぁ、上がれよ」
黒田くんは苦笑いしてスリッパを勧めてくれた。
(気の利く小6男子……)
「おじゃましまぁす」と告げて家に入る。
「たけるー、おともだ……女の子!?」
「うるせえな母さん、クラスの奴だよ」
「すみません、お邪魔します」
黒田くんのお母さんらしき人にぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、いらっしゃい」
「これもらった」
「えっこんなお高い羊羹」
びっくりしている黒田くんのお母さんに、ざっくりと事情を告げる。体調を悪くして保健室に連れて行ってくれたこと、介抱をしてくれたこと。
「つまらないものですが、お礼に」
「あらあらあら、いいのかしら……とりあえずお持たせで悪いけど、これいただきましょ。お茶淹れるわね」
「ありがとうございます」
「先部屋行っといてくれ、階段上がって最初の部屋」
「あ、うん、ありがとう」
(急に来たのに部屋上げてくれるんだ)
なぜかその事実に感動しつつ、階段を上がる。
黒田くんの部屋に入ると「ほーう」と感心してしまった。割と片付いている。というか、シンプルな部屋だ。
「悪いな、散らかってて」
小さいちゃぶ台のようなものを運んできた黒田くんが、それを部屋の真ん中に置いた。
「えっこれ綺麗だよ、てかごめんね急に」
「いや、……顔色良くて安心した」
真剣な顔で言われて、ちょっとドキッとしてしまう。なぜか黒田くんに抱きしめられる感覚まで思い出してしまって。
(イヤイヤイヤイヤ、落ち着け私! 小学生相手に!)
「ご、ごめんね、みっともないところ、を」
「みっともなくなんかねぇよ」
(め、目力やばい)
まっすぐな目だ。ちょっと羨ましい。
「う、うん」
「……お茶もらってくる。座ってろ」
ベッドの上から枕を取ると、ちゃぶ台の横にぽん、と置いた。
(……枕に座れと?)
さすがにそれはできないので、遠慮して更にその横に座った。
やることもなく、本棚を眺める。
(空手関係の本とか雑誌ばっか)
ほどなくして、黒田くんはお盆にお茶と羊羹を乗せて戻ってきた。足でドアを閉める。そういうとこは小学生男子だ。
「待たせたな」
「ううん、ありがとう」
「美味そうだなこれ」
「これね、友達のオススメの羊羹なの。美味しいよ」
樹くんのお家でいつかいただいたやつ。あれからすっかりお気に入りで、たびたび買いに走っているのだ。横浜にも、鎌倉にも店舗がある。
「そうか」
2人でいただきます、と手を合わせて羊羹をぱくりと口に入れる。フンワリとした甘み。今日は栗無しの、普通の羊羹。
「甘すぎなくていいな」
「でしょ」
にこっ、と笑うと、黒田くんは安心したように微笑んだ。
「やっと笑ったな」
「……あ」
「まぁ無理に笑うことねーけどな」
更に一口で羊羹を食べると、黒田くんはぽんぽん、と私の頭を撫でた。
「えへ。ありがと」
「……おう」
黒田くんは照れたように明後日の方向を見た。
(ほんといい人だよなぁ)
私は少し居住まいを正す。
今日ここにきたのは、お礼と、そして情けないながらちょっとしたお願いをするためだった。
「……何も聞かないの?」
「言いたいなら聞くけど、言いたくないならいい」
ぶっきらぼうにそう答えられる。
「あのね、……あの新聞記事。私ね、……あんまり、覚えてなくて」
あんまり、というか、ほぼ全部、なんだけど。
「……そうなのか」
「だから、あんな風になったの、予想外だったっていうか」
黒田くんは、黙って頷いて私を見つめた。
「それで、……、もし良ければなんだけど、またあんな風になっちゃったら、頼っていいかな」
「おう」
「黒田セラピー、すごかった。超落ち着いた」
「黒田セラピー……」
なんだか不思議そうな顔をされる。
「ダメ?」
「あ? いいに決まってんだろ」
こっちから頼れって何べんも言ってるんだし、と言い添えられる。
「ありがとう!」
思わず手を握ると、さすがに黒田くんはちょっと赤くなった。
色々小学生らしいとこもあるんだな、と少しだけ微笑ましくて笑ってしまう。
小学生に頼ってる自分が言えたギリではないんだけどね。
私は黒田家の玄関で、老舗和菓子店の羊羹を差し出しつつぺこりと頭を下げた。
あの後、ぐっすり寝てしまったらしい私は、気がついたら保健室のベッドの中にいた。
(い、一体なにが……どうなったやら)
良くわからなかったが、保健室の先生も「あら顔色良くなったわね」と微笑むだけで特に変わった様子はない。
(余計なこと言っちゃう前に戻ろう)
教室に戻ると、午後の授業が始まったばかりだった。
「よう、もう大丈夫なのか」
黒田くんも平素通りだ。
「顔色良くなった」
「寝不足だった?」
ひよりちゃんと秋月くんが安心したように笑ってくれた。
(ま、まさか夢……!? いや、それにしてはリアルだった……っていうか!)
私は発見してしまった。
黒田くんのシャツが、ちょうど私が握った記憶があるところ、そこがシワになっているのを。
(あーーー現実)
私は一人で赤くなったり青くなったりした後、ふと自分が「ちゃんと」落ち着いているのを自覚した。
(黒田セラピー……)
もちろん、考えなくてはいけないことが出てきたのは事実だ。
しかし、今の心境はかなり楽になっている。
(ありがたや、黒田様…….)
そして放課後、羊羹とともに黒田家を訪ねたのだ。
場所は、ひよりちゃんに教えてもらった。ハイヤーで送ったことあったけど、恐ろしいくらいに全然道がわからなかったのだ。
(方向音痴では、ないはずなんだけど)
「……まぁ、上がれよ」
黒田くんは苦笑いしてスリッパを勧めてくれた。
(気の利く小6男子……)
「おじゃましまぁす」と告げて家に入る。
「たけるー、おともだ……女の子!?」
「うるせえな母さん、クラスの奴だよ」
「すみません、お邪魔します」
黒田くんのお母さんらしき人にぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、いらっしゃい」
「これもらった」
「えっこんなお高い羊羹」
びっくりしている黒田くんのお母さんに、ざっくりと事情を告げる。体調を悪くして保健室に連れて行ってくれたこと、介抱をしてくれたこと。
「つまらないものですが、お礼に」
「あらあらあら、いいのかしら……とりあえずお持たせで悪いけど、これいただきましょ。お茶淹れるわね」
「ありがとうございます」
「先部屋行っといてくれ、階段上がって最初の部屋」
「あ、うん、ありがとう」
(急に来たのに部屋上げてくれるんだ)
なぜかその事実に感動しつつ、階段を上がる。
黒田くんの部屋に入ると「ほーう」と感心してしまった。割と片付いている。というか、シンプルな部屋だ。
「悪いな、散らかってて」
小さいちゃぶ台のようなものを運んできた黒田くんが、それを部屋の真ん中に置いた。
「えっこれ綺麗だよ、てかごめんね急に」
「いや、……顔色良くて安心した」
真剣な顔で言われて、ちょっとドキッとしてしまう。なぜか黒田くんに抱きしめられる感覚まで思い出してしまって。
(イヤイヤイヤイヤ、落ち着け私! 小学生相手に!)
「ご、ごめんね、みっともないところ、を」
「みっともなくなんかねぇよ」
(め、目力やばい)
まっすぐな目だ。ちょっと羨ましい。
「う、うん」
「……お茶もらってくる。座ってろ」
ベッドの上から枕を取ると、ちゃぶ台の横にぽん、と置いた。
(……枕に座れと?)
さすがにそれはできないので、遠慮して更にその横に座った。
やることもなく、本棚を眺める。
(空手関係の本とか雑誌ばっか)
ほどなくして、黒田くんはお盆にお茶と羊羹を乗せて戻ってきた。足でドアを閉める。そういうとこは小学生男子だ。
「待たせたな」
「ううん、ありがとう」
「美味そうだなこれ」
「これね、友達のオススメの羊羹なの。美味しいよ」
樹くんのお家でいつかいただいたやつ。あれからすっかりお気に入りで、たびたび買いに走っているのだ。横浜にも、鎌倉にも店舗がある。
「そうか」
2人でいただきます、と手を合わせて羊羹をぱくりと口に入れる。フンワリとした甘み。今日は栗無しの、普通の羊羹。
「甘すぎなくていいな」
「でしょ」
にこっ、と笑うと、黒田くんは安心したように微笑んだ。
「やっと笑ったな」
「……あ」
「まぁ無理に笑うことねーけどな」
更に一口で羊羹を食べると、黒田くんはぽんぽん、と私の頭を撫でた。
「えへ。ありがと」
「……おう」
黒田くんは照れたように明後日の方向を見た。
(ほんといい人だよなぁ)
私は少し居住まいを正す。
今日ここにきたのは、お礼と、そして情けないながらちょっとしたお願いをするためだった。
「……何も聞かないの?」
「言いたいなら聞くけど、言いたくないならいい」
ぶっきらぼうにそう答えられる。
「あのね、……あの新聞記事。私ね、……あんまり、覚えてなくて」
あんまり、というか、ほぼ全部、なんだけど。
「……そうなのか」
「だから、あんな風になったの、予想外だったっていうか」
黒田くんは、黙って頷いて私を見つめた。
「それで、……、もし良ければなんだけど、またあんな風になっちゃったら、頼っていいかな」
「おう」
「黒田セラピー、すごかった。超落ち着いた」
「黒田セラピー……」
なんだか不思議そうな顔をされる。
「ダメ?」
「あ? いいに決まってんだろ」
こっちから頼れって何べんも言ってるんだし、と言い添えられる。
「ありがとう!」
思わず手を握ると、さすがに黒田くんはちょっと赤くなった。
色々小学生らしいとこもあるんだな、と少しだけ微笑ましくて笑ってしまう。
小学生に頼ってる自分が言えたギリではないんだけどね。
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