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悪役令嬢と学級会(side健)
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転校生が来るという噂で、教室は朝から持ちきりだった。
「男かな女かな、可愛い子だといいな」
「どっちでもいいじゃねぇか」
すっかりテンションが上がっている秋月にそう返すと、秋月は少し不服そうに言った。
「えー、タケちゃんもう少しテンション上げようよ」
「なんで上げなきゃいけねえんだ」
「だってさ! 来るとしたらタケちゃんの横じゃん! 小川さんが転校しちゃったから」
1学期の終わりに転校していった女子の席は俺の隣で、確かに未だに空いていた。
「あー……そうかもな」
「気にならないの~?」
「いいヤツだといいなとは思う」
「タケちゃんつまんないー」
ちょうどそのタイミングだった。教室の扉が開かれて、先生と一緒にその女子が入ってきたのは。
一瞬で、教室のざわめきが止まった。
(……、人形みてぇのが来たな)
第一印象は、そうだった。細っこくて、肌も白くて、目もでかい。髪は黒くて肩までで、(後で秋月が「あのショートボブ似合うよね」と言っていたのでそちらが正式な名称なのかもしれない)白のワンピースを着ていて、ランドセルではなく、白い小さなお守りがついた、黒いカバンを背負っていた。
まるで、この世界で、この子だけがモノトーンで構成されているような。
その中で、形のいい唇だけが赤かった。
(……赤ぇな)
それだけが、やたらと印象に残った。
体育館での始業式が終わり、教室へ戻ると係、委員決めが始まった。
「今回はクジにしようかと思って」
えー、とかやだー、とか言う声も聞こえたが、これは先生も仕方なかったのだろうと思う。
1学期、係決めは大もめにもめたのだ。主に、転校していった小川が原因だったのだが。
「小川さんもういないから、立候補で決めちゃえばいいのにね」
秋月も振り向いてこっそりと言ってくる。
「そう言うわけにもいかねーんだろ。つかどうせ、生き物係と体育委員に人気集まるからクジが早ぇよ」
「まぁねー」
生き物係は普通に普段の活動が面白いし(うちの教室には金魚とハムスターがいる)体育係は月に一度の委員会の日、話し合いが早く終わるとドッジボールやバスケであそべるので人気があるのだ。
そしてもちろん、ダントツ不人気は学級委員だ。
クラスの話し合いは仕切らなくてはいけないし、イベントがあるたびに何かと作業も多い。特に二学期はイベントごとも多いので、遠慮しておきたいところだ。
なのに。
「……副委員長」
教卓まで行って、先生が持っているダンボールから引いたその紙には、確かにそう書かれていた。
「えータケちゃん大変だねっ! 俺、体育委員~」
嬉しそうに紙を見せてくる秋月に軽く舌打ちをしてみせた。
その時、小さな声が聞こえた。
「え、委員長」
設楽だった。
「えっ華ちゃんいきなり学級委員?」
秋月が反応する。
「大変じゃない? いきなりは」
先生もこれはちょっとどうかと思ったようで「どうしようか? もう一度だけ引く?」と話しかけている。
クラスの雰囲気的にも「いきなりはかわいそう」というものがあり、引き直しは全く問題なさそうだった。
しかし、設楽は首をふった。
「やってみます。委員長とかしたほうが、皆の名前とか早く覚えるかもしれないし」
にこりと笑ってそう言うと、さっさと先に戻ってしまった。
「かっこいー」
秋月は感心したように言って、そのあと「タケちゃんフォロー頑張ってね」と笑った。
正直、その時は(副委員長とはいえ、俺がメインでやるべきか)と思っていたが、その必要はなかった。
設楽は、そのあとすぐ始まった学級会で見事に場をまわしたのだ。
議題は翌日のレクレーションについてだった。
「体育館だから、ドッジボールか、バスケか、バレーで決めようと思うのだけど」
先生がそう言うと、設楽は軽く頷いて「とりあえず多数決にしましょう」と言って黒板に3つの競技名を書いた。
「ドッジボールがいい人、はいまだ手を下げないで、……はい大丈夫です、次バスケ。……はい、下げてください。じゃあバレー。はい、大丈夫です」
(案外でかい声出るんだな)
こういう女子は恥ずかしがって大声を出さない、と勝手に思っていたが、設楽の声はきっちり後ろまで聞こえる声量だった。
それぞれの人数を、黒板の競技名の下に書き込む。
ドッジボール13、バスケ12、バレー5。ちなみに俺はドッジボールに上げた。設楽はバレー。
(よっしゃドッジボール)
好きな競技なのでちょっと嬉しい。
設楽は少し残念そうな顔をした後「バレー5」の文字を黒板消しでサッと消した。
「ではもう一度、今度は決選投票をします」
「……決選投票?」
思わず聞き返すと、「だってバレーの5人がどちらをしたいか分からないでしょう?」と首をこてんと倒して言った。
「……なるほど」
今までの多数決でその方式が取られたことはなかったが、しかし納得できたので、俺は「よっしゃもう一回手ぇ上げてくれよ」と皆に向かって言った。はぁい、と返ってきた答えに、設楽は少し驚いたように俺を見た。
「……なんだよ」
「や、人望あるんだなと思って。ふふ。じゃあ皆さんもう一度お願いします」
その決選投票の結果、13と17でバスケがドッジボールを上回った。少し残念に思ったが、多数決なら仕方ない。
「じゃあ今回はバスケットボールで。もし時間が余ったらドッジボールもしましょう」
にこり、と笑ってそう告げると、皆も異論はないらしくすんなりとレクレーション内容が決まった。
(……人形みたいとか思ったけど、全然違ったな)
どちらかというと、やることはキッチリやるタイプのようだった。意外だ。
そう思いながらチラリと目をやると、少し首を傾げつつ、手を顎に当てて何かを考えているようだった。やがて、何かを決めたように口を開いた。
「……あとひとつ、記録係を何人か決めましょうか」
「記録係?」
先生が口を挟む。
「はい。競技にはあまり参加せず、写真を撮ったり、競技記録をとったりする係です。後でそれを学級新聞にするのはどうでしょうか」
「写真ね」
先生は微笑む。おそらく意図が分かったのだろう。
「いいわよ。先生のカメラ使って大丈夫」
(運動嫌いな奴、何人かいるもんな)
そういう奴にとっては、レクレーションとはいえ運動は苦痛でしかないだろう。多数決の間も、しぶしぶ手を上げていたのが見えた。
(初対面のやつばっかなのに、よく気づいたな)
チラリと目をやると、微笑み返された。余裕がある。
(ことごとくイメージと違う奴)
設楽が微笑みながら「今回は私も記録係に立候補します。早く皆の名前覚えたいし」と言うと「手伝います」「やりたいです」と他に3人が手を上げた。
「ではこのメンバーで。先生、以上でよろしいでしょうか」
「大丈夫です」
先生が拍手しながら頷くと、「では学級会を終わります」と設楽が言い、学級会はお開きになった。
「俺が消すわ」
設楽より先に黒板消しを手に取る。ほとんど何もしてないので、これくらいはさせて欲しい。
「ありがとう。……あ、学級会中も」
「あ? 俺何もしてねえぞマジで」
「や、決選投票の時。黒田くんがああ言ってくれてなかったら、ドッジボール派の人たちから不満が出てたかもだし。助かりました」
そう言ってにこりと笑う。
「……つか、すげえな。なんか慣れてるな」
妙に気恥ずかしくなりはぐらかすと、設楽はなぜか苦笑いして「あー、昔取った杵柄?」と呟いた。
「キネヅカ?」
「前やったことがあるって感じ」
「あー、前の学校でか」
「ん、まあね」
そう言ってはにかむ設楽に、俺の心臓が一瞬どくんと大きく鳴った。
(なんだこれ?)
不思議に思って首をひねると、それを見た設楽も不思議そうに首をひねった。
それを見て自然に(あー、こいつ、なんかいいな)と思った。
何がいいんだろうな?
俺にもそれは、まだちょっと、分かりそうにない。
「男かな女かな、可愛い子だといいな」
「どっちでもいいじゃねぇか」
すっかりテンションが上がっている秋月にそう返すと、秋月は少し不服そうに言った。
「えー、タケちゃんもう少しテンション上げようよ」
「なんで上げなきゃいけねえんだ」
「だってさ! 来るとしたらタケちゃんの横じゃん! 小川さんが転校しちゃったから」
1学期の終わりに転校していった女子の席は俺の隣で、確かに未だに空いていた。
「あー……そうかもな」
「気にならないの~?」
「いいヤツだといいなとは思う」
「タケちゃんつまんないー」
ちょうどそのタイミングだった。教室の扉が開かれて、先生と一緒にその女子が入ってきたのは。
一瞬で、教室のざわめきが止まった。
(……、人形みてぇのが来たな)
第一印象は、そうだった。細っこくて、肌も白くて、目もでかい。髪は黒くて肩までで、(後で秋月が「あのショートボブ似合うよね」と言っていたのでそちらが正式な名称なのかもしれない)白のワンピースを着ていて、ランドセルではなく、白い小さなお守りがついた、黒いカバンを背負っていた。
まるで、この世界で、この子だけがモノトーンで構成されているような。
その中で、形のいい唇だけが赤かった。
(……赤ぇな)
それだけが、やたらと印象に残った。
体育館での始業式が終わり、教室へ戻ると係、委員決めが始まった。
「今回はクジにしようかと思って」
えー、とかやだー、とか言う声も聞こえたが、これは先生も仕方なかったのだろうと思う。
1学期、係決めは大もめにもめたのだ。主に、転校していった小川が原因だったのだが。
「小川さんもういないから、立候補で決めちゃえばいいのにね」
秋月も振り向いてこっそりと言ってくる。
「そう言うわけにもいかねーんだろ。つかどうせ、生き物係と体育委員に人気集まるからクジが早ぇよ」
「まぁねー」
生き物係は普通に普段の活動が面白いし(うちの教室には金魚とハムスターがいる)体育係は月に一度の委員会の日、話し合いが早く終わるとドッジボールやバスケであそべるので人気があるのだ。
そしてもちろん、ダントツ不人気は学級委員だ。
クラスの話し合いは仕切らなくてはいけないし、イベントがあるたびに何かと作業も多い。特に二学期はイベントごとも多いので、遠慮しておきたいところだ。
なのに。
「……副委員長」
教卓まで行って、先生が持っているダンボールから引いたその紙には、確かにそう書かれていた。
「えータケちゃん大変だねっ! 俺、体育委員~」
嬉しそうに紙を見せてくる秋月に軽く舌打ちをしてみせた。
その時、小さな声が聞こえた。
「え、委員長」
設楽だった。
「えっ華ちゃんいきなり学級委員?」
秋月が反応する。
「大変じゃない? いきなりは」
先生もこれはちょっとどうかと思ったようで「どうしようか? もう一度だけ引く?」と話しかけている。
クラスの雰囲気的にも「いきなりはかわいそう」というものがあり、引き直しは全く問題なさそうだった。
しかし、設楽は首をふった。
「やってみます。委員長とかしたほうが、皆の名前とか早く覚えるかもしれないし」
にこりと笑ってそう言うと、さっさと先に戻ってしまった。
「かっこいー」
秋月は感心したように言って、そのあと「タケちゃんフォロー頑張ってね」と笑った。
正直、その時は(副委員長とはいえ、俺がメインでやるべきか)と思っていたが、その必要はなかった。
設楽は、そのあとすぐ始まった学級会で見事に場をまわしたのだ。
議題は翌日のレクレーションについてだった。
「体育館だから、ドッジボールか、バスケか、バレーで決めようと思うのだけど」
先生がそう言うと、設楽は軽く頷いて「とりあえず多数決にしましょう」と言って黒板に3つの競技名を書いた。
「ドッジボールがいい人、はいまだ手を下げないで、……はい大丈夫です、次バスケ。……はい、下げてください。じゃあバレー。はい、大丈夫です」
(案外でかい声出るんだな)
こういう女子は恥ずかしがって大声を出さない、と勝手に思っていたが、設楽の声はきっちり後ろまで聞こえる声量だった。
それぞれの人数を、黒板の競技名の下に書き込む。
ドッジボール13、バスケ12、バレー5。ちなみに俺はドッジボールに上げた。設楽はバレー。
(よっしゃドッジボール)
好きな競技なのでちょっと嬉しい。
設楽は少し残念そうな顔をした後「バレー5」の文字を黒板消しでサッと消した。
「ではもう一度、今度は決選投票をします」
「……決選投票?」
思わず聞き返すと、「だってバレーの5人がどちらをしたいか分からないでしょう?」と首をこてんと倒して言った。
「……なるほど」
今までの多数決でその方式が取られたことはなかったが、しかし納得できたので、俺は「よっしゃもう一回手ぇ上げてくれよ」と皆に向かって言った。はぁい、と返ってきた答えに、設楽は少し驚いたように俺を見た。
「……なんだよ」
「や、人望あるんだなと思って。ふふ。じゃあ皆さんもう一度お願いします」
その決選投票の結果、13と17でバスケがドッジボールを上回った。少し残念に思ったが、多数決なら仕方ない。
「じゃあ今回はバスケットボールで。もし時間が余ったらドッジボールもしましょう」
にこり、と笑ってそう告げると、皆も異論はないらしくすんなりとレクレーション内容が決まった。
(……人形みたいとか思ったけど、全然違ったな)
どちらかというと、やることはキッチリやるタイプのようだった。意外だ。
そう思いながらチラリと目をやると、少し首を傾げつつ、手を顎に当てて何かを考えているようだった。やがて、何かを決めたように口を開いた。
「……あとひとつ、記録係を何人か決めましょうか」
「記録係?」
先生が口を挟む。
「はい。競技にはあまり参加せず、写真を撮ったり、競技記録をとったりする係です。後でそれを学級新聞にするのはどうでしょうか」
「写真ね」
先生は微笑む。おそらく意図が分かったのだろう。
「いいわよ。先生のカメラ使って大丈夫」
(運動嫌いな奴、何人かいるもんな)
そういう奴にとっては、レクレーションとはいえ運動は苦痛でしかないだろう。多数決の間も、しぶしぶ手を上げていたのが見えた。
(初対面のやつばっかなのに、よく気づいたな)
チラリと目をやると、微笑み返された。余裕がある。
(ことごとくイメージと違う奴)
設楽が微笑みながら「今回は私も記録係に立候補します。早く皆の名前覚えたいし」と言うと「手伝います」「やりたいです」と他に3人が手を上げた。
「ではこのメンバーで。先生、以上でよろしいでしょうか」
「大丈夫です」
先生が拍手しながら頷くと、「では学級会を終わります」と設楽が言い、学級会はお開きになった。
「俺が消すわ」
設楽より先に黒板消しを手に取る。ほとんど何もしてないので、これくらいはさせて欲しい。
「ありがとう。……あ、学級会中も」
「あ? 俺何もしてねえぞマジで」
「や、決選投票の時。黒田くんがああ言ってくれてなかったら、ドッジボール派の人たちから不満が出てたかもだし。助かりました」
そう言ってにこりと笑う。
「……つか、すげえな。なんか慣れてるな」
妙に気恥ずかしくなりはぐらかすと、設楽はなぜか苦笑いして「あー、昔取った杵柄?」と呟いた。
「キネヅカ?」
「前やったことがあるって感じ」
「あー、前の学校でか」
「ん、まあね」
そう言ってはにかむ設楽に、俺の心臓が一瞬どくんと大きく鳴った。
(なんだこれ?)
不思議に思って首をひねると、それを見た設楽も不思議そうに首をひねった。
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