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緑野にて邂逅す鏡[2]
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一歩、また一歩と草を踏み締める。随分遠くに見えるその古屋敷を目指して、宙に浮く島々を渡り歩いて進む。
「ねぇ、幽霊に効く薬ってどんな物なの?」
「白くて…ふわふわとした…綿みたいなのでね。それをちぎってくっつけると、体が治るの。それで―うわっ!」
その悲鳴を聞き目線の方向を合わせると、そこには妖とでも言うべき異形の存在がいた。黒くて泥のような体、そしてそこから飛び出た黄金色の長爪。地面から噴き出すように一匹、また一匹と現れる。
「…こいつらはたまに出てくるの?」
「似た形のやつなら出るけど、こんなに大きいのは…。お姉さん、大丈夫?」
この夢幻空間でどこまで現実の法則が適用されるか分からないけれど、それでも足掻かずに逃げるなんてのは私の性に合わない。
「ま、やってみるよ。待ってて。《重跳弾/爆》!」
地を這うそれらを草ごと燃やし尽くす様に、爆ぜる弾が宙を飛び交う。が…
「ぐるるるるぅ…」
「ぐるるるぅ…」
体の一部を吹き飛ばしても尚、それらは抉れた体を這わせ、こちらへ近づく。
「えぇと…《霊質生成/突風》!」
咄嗟に手から放った強風が、泥沼ごとその存在を吹き飛ばす。宙を舞うそれらは抵抗するも虚しく、浮島から落ちていった。
「おぉ、流石ですお姉さん。」
「なんとかなって良かったぁ。…あれ、引き返さないの?」
ふと私が質問すると、その間も小さな歩幅で進みながらその少女は答える。
「あの子も私の大切な友達だから。見殺しにする訳にはいかない。お姉さんだってそうでしょ?」
「あぁ…うん、そうだね。」
私も先へ進み、そしてこの歪みを修復しなければならない。そうしないとこの街の住人も、そして音葉も…。
「それじゃ、進もっか、お姉さん。」
「ここが、件の屋敷?」
「そうだよ。」
そこにはぼろぼろになった、大きな家の残骸があった。壁や床などは辛うじて残っているが、少し力を加えれば全て崩れるだろう。慎重に、私もその屋敷へ入って行った。
「えぇと…確か…お、あった!」
その少女が自慢げに見せてくれたのは、重そうな黒球と、それにまとわりつく半透明の煙。後ろには似た様な機構の装置が幾つか転がっている。
「お姉さん、帰りも護衛頼めるかな。」
「りょーかい、任せてね。」
ハイタッチ。そして契約更新。一度来た道を再び踏み固め、二人で帰路を辿った。
(…!……!)
最初の浮島に着くと、怪我をした幽霊が元気に現れる。最初よりも黒色が濃くなっている様な気もする。
「それじゃ、治療しよっか。…うん、…うん。大丈夫だよ。」
彼女はその球体を片手で構えると、まるで重力に抗うようにその小球は少しずつ宙に浮く。
「痛いの痛いの…飛んでけ。」
瞬間、装置の光と共に周囲の煙が少しずつ濃度を増し、そしてその幽霊の元へと収束する。数秒程待つとその黒面を覆う煙は固まり、そして幽霊もまた笑う。
「ほい、終わり。次は気をつけてね。」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でるとその幽霊は地面へ帰っていった。きっと彼女は今までも、そしてこれからもこの幽霊達と共に遊び、学び、そして癒すのだろう。
「…?どうしたの?」
その光景と言葉遣い。何故だか分からないけど既視感を強く感じる。
「いや、なんでもないよ。」
そう、無意味に私は返した。
「ねぇ、幽霊に効く薬ってどんな物なの?」
「白くて…ふわふわとした…綿みたいなのでね。それをちぎってくっつけると、体が治るの。それで―うわっ!」
その悲鳴を聞き目線の方向を合わせると、そこには妖とでも言うべき異形の存在がいた。黒くて泥のような体、そしてそこから飛び出た黄金色の長爪。地面から噴き出すように一匹、また一匹と現れる。
「…こいつらはたまに出てくるの?」
「似た形のやつなら出るけど、こんなに大きいのは…。お姉さん、大丈夫?」
この夢幻空間でどこまで現実の法則が適用されるか分からないけれど、それでも足掻かずに逃げるなんてのは私の性に合わない。
「ま、やってみるよ。待ってて。《重跳弾/爆》!」
地を這うそれらを草ごと燃やし尽くす様に、爆ぜる弾が宙を飛び交う。が…
「ぐるるるるぅ…」
「ぐるるるぅ…」
体の一部を吹き飛ばしても尚、それらは抉れた体を這わせ、こちらへ近づく。
「えぇと…《霊質生成/突風》!」
咄嗟に手から放った強風が、泥沼ごとその存在を吹き飛ばす。宙を舞うそれらは抵抗するも虚しく、浮島から落ちていった。
「おぉ、流石ですお姉さん。」
「なんとかなって良かったぁ。…あれ、引き返さないの?」
ふと私が質問すると、その間も小さな歩幅で進みながらその少女は答える。
「あの子も私の大切な友達だから。見殺しにする訳にはいかない。お姉さんだってそうでしょ?」
「あぁ…うん、そうだね。」
私も先へ進み、そしてこの歪みを修復しなければならない。そうしないとこの街の住人も、そして音葉も…。
「それじゃ、進もっか、お姉さん。」
「ここが、件の屋敷?」
「そうだよ。」
そこにはぼろぼろになった、大きな家の残骸があった。壁や床などは辛うじて残っているが、少し力を加えれば全て崩れるだろう。慎重に、私もその屋敷へ入って行った。
「えぇと…確か…お、あった!」
その少女が自慢げに見せてくれたのは、重そうな黒球と、それにまとわりつく半透明の煙。後ろには似た様な機構の装置が幾つか転がっている。
「お姉さん、帰りも護衛頼めるかな。」
「りょーかい、任せてね。」
ハイタッチ。そして契約更新。一度来た道を再び踏み固め、二人で帰路を辿った。
(…!……!)
最初の浮島に着くと、怪我をした幽霊が元気に現れる。最初よりも黒色が濃くなっている様な気もする。
「それじゃ、治療しよっか。…うん、…うん。大丈夫だよ。」
彼女はその球体を片手で構えると、まるで重力に抗うようにその小球は少しずつ宙に浮く。
「痛いの痛いの…飛んでけ。」
瞬間、装置の光と共に周囲の煙が少しずつ濃度を増し、そしてその幽霊の元へと収束する。数秒程待つとその黒面を覆う煙は固まり、そして幽霊もまた笑う。
「ほい、終わり。次は気をつけてね。」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でるとその幽霊は地面へ帰っていった。きっと彼女は今までも、そしてこれからもこの幽霊達と共に遊び、学び、そして癒すのだろう。
「…?どうしたの?」
その光景と言葉遣い。何故だか分からないけど既視感を強く感じる。
「いや、なんでもないよ。」
そう、無意味に私は返した。
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