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綺麗

プロポーズ

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庄之助は待ちきれず
家を早く出た。

生まれてこのかた
こんな心情は初めてだ。

早くヒサエに会いたかった。

約束の場所に早めに着くと
そこには既にヒサエがいた。

時間よりだいぶ早い。

庄之助
「待たせたか?」

ヒサエ
「とんでもございません。
庄之助様を
待たせるようなことがあってはならぬと
早めに来たのでございますが、
庄之助様のお着きも早ようて
驚いておりました。」

ふわりと微笑むヒサエ。

今日は工場の制服ではなく
綺麗な和服姿に、
よく似合う髪結いをしている。

庄之助は何故か
「わたしと結婚してはくれまいか?」
と口をついてその場で言ってしまった。

ヒサエは驚きを隠せず、
そして顔は真っ赤になった。

ヒサエ
「ふつつかものですが、
宜しくお願い致します。」
と深々と頭を下げた。


二人で川沿いを歩いた。
少し左後ろを付いてくるヒサエ。

川面はいつもより美しく
キラキラと輝いていた。

ヒサエ
「綺麗でございますね。」

庄之助
「ああ。」


庄之助は
これからこうしてヒサエと共に
同じ景色を同じように美しく見ながら
生きて行くことの幸せを
心から嬉しく思った。
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