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不思議な老紳士と孫娘

貴方の人生をカスタマイズします。

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ここは、とある街の古びた劇場のステージ。
観客はいない。
この場での主な登場人物の自己紹介から、
この物語は始まる。


今まで見た夢達が記憶の中の特別な部分に保存されていて、時に混乱を招くほど夢同士が混ざってしまうことがあります。傷ついた心を映し出す夢を忘れられないなどありましたら、わたくしにお申し付けください。
わたくしは夢の中の整理人です。
年齢は80歳を過ぎたおじいさんですが、
まだまだ若い方々には負けません。
コーヒーと懐かしいレコードをこよなく愛する心は20代の元気なおじいさんです。
周りからは下の名前の豊一の豊をとって
豊ちゃんと呼ばれています。
そして紹介したいのは、私の仕事のパートナー、家庭では孫娘という位置付けの。。。
名前は充子で、仕事ではスマートフォン、
パソコン担当の、ええと。。。
あの子の職業名は横文字で分かりにくい。

スポットライトを浴びて舞台に立ち、延々と話していた整理人が、孫娘に手招きし、持っていたマイクを手渡した。


忘れたい記憶を完全に消し去ってみせます。
あなたの人生に起こった悲しい出来事や辛い出来事の記憶を消し去り、ハッピーエンドの人生をあなたのお望み通りお作り致します。
申し遅れました、私はあなたの人生カスタマイザーです。

突如現代の世界に現れた、夢の中の整理人と人生カスタマイザーなる存在。これらの存在が人類にとって吉と出るか凶と出るか、これからの世界を見守らないと分からない。

整理人もカスタマイザーも仕事の依頼はウェブで受け付け、その後電話で詳しい話を聞くというビジネススタイルを取るようだ。
早速相談者がウェブのフォームから仕事の依頼がやってきた。

70代後半男性です。定年退職をしたあと、地域社会にも家庭にも居場所がなくなり、ただただ虚しい日々を過ごしています。現役で働いていた時も、忙しく過ぎてゆく日常に振り回され、幸せとは何かとも分からず、妻や子供とも幸せな思い出を作れたかどうか分かりません。自分の人生、なんだったんだろうと最近悩んでしまいます。こんな冴えない年老いた男の夢を聞いてください。世界的に有名なロックスターになりたいです。コンサート会場の花道を颯爽と歩くミックジャガーのようなロックスター。。。
こんな我儘、実現出来ますか?

依頼を受けた整理人とカスタマイザーは、
顔を見合わせ、少し微笑んだ。

ミックジャガーねぇ。懐かしい。スウィンギングシックスティーズのシンボルみたいな存在だね。今でも現役で活躍しているロックスターだねぇ。依頼人の夢は出来るだけ早く叶えてあげましょう。

整理人が穏やかな口調でカスタマイザーに言った。

依頼人が送ってきたフォームの下の方に不思議な英文が書かれてたよ。

カスタマイザーは、スマートフォンの画面をスクロールしながら整理人に呟いた。

If I were you I wouldn’t let him bow out.

もし私が貴方なら、私は彼を退かせません。

おじいちゃん、あ、いや、整理人さん、
これどういう意味かな?

彼って誰だかわかる?英文としては意味は分かるけど、彼が誰なのかまでは分からないな。

カス、カス、なんだろう?
カスタネットさん。

整理人がまごついた。

人生カスタマイザーの充子です!

整理人の孫娘の充子が少し苛立った。

すまない。横文字はわからないものが多い。
ええと、もし私が貴方なら、彼を退かせません。という英文。それは、きっとローリングストーンズのミックジャガーとキースリチャーズがバンドから追放したリーダー、ブライアンジョーンズのことだ。

整理人豊一の推理は的確だった。

つまり、依頼人はミックジャガーになりたいけど、ブライアンを追い出すような真似はしたくないということだ。自分が60年代にタイムスリップしてミックジャガーになるけれど、ロック史に残るブライアンの変死事件を防ぎに行きたいということかもしれない。

充子はすぐさま依頼人に電話をかけ、
依頼内容の確認を行い、先祖代々受け継がれる特別な力を豊一と共に用いて依頼人を1960年代のロンドンへと送り込んだ。

つづく


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