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天国へと繋がる音声通話
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私は混沌とした感情を抱きながら何者からか逃げ惑い、とある病院の中を彷徨っていた。
この場所は安全です。
焦燥しきった私に看護師の女性が声を掛けた。
私は案内された病院の今まで見たことのない
区域に入り、ずっと我慢していたお手洗いへと向かった。
お手洗いの個室の扉には、こんな言葉が書かれていた。
願いは持ち続ければ、たとえどんなに離れていても叶います。
お手洗いの中には沢山のお花が籠に綺麗に飾られていた。
お手洗いを済ませて看護師さんと逢った場所に戻ろうとしたが、道がわからなくなってしまった。さっきまで院内を彷徨っていたのに
また迷うことになった。
しかし、そこには不安や焦りなどという感情はなく、何かに導かれるように私は歩き進み、
目の前の大きな茶色い扉を開けた。
そこには、10人くらいの大人数が囲んで座れる丸テーブルがあり、
年恰好がバラバラの人々が
ヘッドセットをして目の前のパソコンに向かって会話をしている。
でも、何かが普通と違う。
表現できない違和感が、その部屋を包んでいた。
真由、ごめんね。気づいてあげられなくて。
お母さん本当に後悔してる。
もっと真由のそばにいてあげれば、こんなことにならなかったのに。真由がいじめに悩まされて、苦しんで、どんなに苦しかったか、
思うだけでお母さんは涙が止まらないの。
母親らしき女性がヘッドセットで娘に向かって話しかけている。
母親は、呼吸が乱れるほど肩を震わせて涙を流している。
お母さん、泣かないで。
もう私は苦しくないから。
こっちの世界には、おじいちゃんもおじいちゃんの家族もいるし、毎日楽しいよ。
私、お母さんの娘で幸せだった。
だから、私のことは気にしないで。
もう泣かないで。
こっちの世界。
それはどういう意味だろう。
もしかしてあの世のことか。
きっとそうだ。
ご気分は大丈夫ですか?
安心したせいかボーッとしていた私に先程の
看護師さんが声を掛けてきた。
はい。ところで、この部屋は。。。?
私は独り呟くように尋ねた。
看護師さんの全身が突然黄金の光に包まれた。そして、ゆっくりと話し出した。
この部屋に設置してあるパソコンは、
もうこの世にはいない最愛の方々と
お話ができるソフトウェアがインストールされていて、ご遺族の皆様の心のケアのために
当院では活用しております。
もし貴方様もお話したい方がいらっしゃったら、またこの場所に来てください。
私も話したい人がいます。
大好きな祖父です。
私は急に思い出したように看護師さんに答えた。
すると、看護師さんはにっこりと笑みを浮かべ私をパソコンの前へと導いた。
ゆっくり深呼吸して、目を閉じてください。
そしてお祖父様のことを思い浮かべてください。逢いたいと強く願うことで、それは現実のものになります。
私は看護師さんの言う通りに、目を閉じて深呼吸した。そして、大好きな祖父の声が聴きたいとまぶたに力を入れて強く願った。
くぅちゃん、聞こえるか?
じいちゃんや。
ヘッドセットからもう十数年耳にしていなかった祖父の声が聞こえた。
じいちゃんか?
本当にじいちゃんか?
オリエンタル商会社長の上田豊一さん?
関西事務機連合会初代会長の上田豊一さん?
私は本当に祖父なのかを確認する様に、
本物の祖父でないとわからないことを
尋ねた。
もう潰れました。
祖父の優しい声がヘッドセットを通して響いた。
本当だ。本物のじいちゃんだ。
くぅちゃん、体大事にせなあかんで。
また話そな。
幸せな気分に包まれていたとき、音声通話が途切れた。
祖父にありがとうの一言が言えなかった。
すると私の元に看護師さんがやってきた。
この音声通話はお互いの心が満たされたとき、接続が切れるように設定されています。
また心がへこんだときや、辛いとき、
ぜひいらしてください。
あなたを遠くから見守っている最愛の人が
音声通話を通じてあなたに幸せを届けてくれます。それでは、また。
看護師さんは、さっき私が開けた大きな茶色い扉を開けて私をお見送りしてくれた。
扉の外の世界は、病院ではなく、沢山の車が行き交う忙しい街角だった。
私は驚きながらも、家に帰らなくてはと思い、路線バスに乗ることにした。
路線バスで座席に腰掛け、今日起こったことを忘れないように、スマートフォンのメモアプリを立ち上げた。
タイトルは、何にしようかな。
私は心の中で呟いた。
そうだ。こんなのどうかな?
天国に繋がる音声通話
終
この場所は安全です。
焦燥しきった私に看護師の女性が声を掛けた。
私は案内された病院の今まで見たことのない
区域に入り、ずっと我慢していたお手洗いへと向かった。
お手洗いの個室の扉には、こんな言葉が書かれていた。
願いは持ち続ければ、たとえどんなに離れていても叶います。
お手洗いの中には沢山のお花が籠に綺麗に飾られていた。
お手洗いを済ませて看護師さんと逢った場所に戻ろうとしたが、道がわからなくなってしまった。さっきまで院内を彷徨っていたのに
また迷うことになった。
しかし、そこには不安や焦りなどという感情はなく、何かに導かれるように私は歩き進み、
目の前の大きな茶色い扉を開けた。
そこには、10人くらいの大人数が囲んで座れる丸テーブルがあり、
年恰好がバラバラの人々が
ヘッドセットをして目の前のパソコンに向かって会話をしている。
でも、何かが普通と違う。
表現できない違和感が、その部屋を包んでいた。
真由、ごめんね。気づいてあげられなくて。
お母さん本当に後悔してる。
もっと真由のそばにいてあげれば、こんなことにならなかったのに。真由がいじめに悩まされて、苦しんで、どんなに苦しかったか、
思うだけでお母さんは涙が止まらないの。
母親らしき女性がヘッドセットで娘に向かって話しかけている。
母親は、呼吸が乱れるほど肩を震わせて涙を流している。
お母さん、泣かないで。
もう私は苦しくないから。
こっちの世界には、おじいちゃんもおじいちゃんの家族もいるし、毎日楽しいよ。
私、お母さんの娘で幸せだった。
だから、私のことは気にしないで。
もう泣かないで。
こっちの世界。
それはどういう意味だろう。
もしかしてあの世のことか。
きっとそうだ。
ご気分は大丈夫ですか?
安心したせいかボーッとしていた私に先程の
看護師さんが声を掛けてきた。
はい。ところで、この部屋は。。。?
私は独り呟くように尋ねた。
看護師さんの全身が突然黄金の光に包まれた。そして、ゆっくりと話し出した。
この部屋に設置してあるパソコンは、
もうこの世にはいない最愛の方々と
お話ができるソフトウェアがインストールされていて、ご遺族の皆様の心のケアのために
当院では活用しております。
もし貴方様もお話したい方がいらっしゃったら、またこの場所に来てください。
私も話したい人がいます。
大好きな祖父です。
私は急に思い出したように看護師さんに答えた。
すると、看護師さんはにっこりと笑みを浮かべ私をパソコンの前へと導いた。
ゆっくり深呼吸して、目を閉じてください。
そしてお祖父様のことを思い浮かべてください。逢いたいと強く願うことで、それは現実のものになります。
私は看護師さんの言う通りに、目を閉じて深呼吸した。そして、大好きな祖父の声が聴きたいとまぶたに力を入れて強く願った。
くぅちゃん、聞こえるか?
じいちゃんや。
ヘッドセットからもう十数年耳にしていなかった祖父の声が聞こえた。
じいちゃんか?
本当にじいちゃんか?
オリエンタル商会社長の上田豊一さん?
関西事務機連合会初代会長の上田豊一さん?
私は本当に祖父なのかを確認する様に、
本物の祖父でないとわからないことを
尋ねた。
もう潰れました。
祖父の優しい声がヘッドセットを通して響いた。
本当だ。本物のじいちゃんだ。
くぅちゃん、体大事にせなあかんで。
また話そな。
幸せな気分に包まれていたとき、音声通話が途切れた。
祖父にありがとうの一言が言えなかった。
すると私の元に看護師さんがやってきた。
この音声通話はお互いの心が満たされたとき、接続が切れるように設定されています。
また心がへこんだときや、辛いとき、
ぜひいらしてください。
あなたを遠くから見守っている最愛の人が
音声通話を通じてあなたに幸せを届けてくれます。それでは、また。
看護師さんは、さっき私が開けた大きな茶色い扉を開けて私をお見送りしてくれた。
扉の外の世界は、病院ではなく、沢山の車が行き交う忙しい街角だった。
私は驚きながらも、家に帰らなくてはと思い、路線バスに乗ることにした。
路線バスで座席に腰掛け、今日起こったことを忘れないように、スマートフォンのメモアプリを立ち上げた。
タイトルは、何にしようかな。
私は心の中で呟いた。
そうだ。こんなのどうかな?
天国に繋がる音声通話
終
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