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2話
しおりを挟む正直電話の内容は殆ど覚えていない。ただ私の頭の中には兄が疲れやストレスで死んだと言うことだけが木霊していた。兄の部屋にあった古くて分厚い日記を渡された。表には兄が小学生だった時から三日前までの日付が書かれていた。裏には、『星へ』と私の名前が書かいてあった。私に見て欲しかったんだ、兄は何も変わっていないなと一つの安心感と、もう私の悩みを聞いてくれていた大事な人は居ないのだと言う事実に胸が苦しかった。私はクラスメートに言われた言葉で泣いていた時よりも思いっきり泣き叫んだ。
「お兄ちゃんっ!どうして私に相談してくれなかったの……。私はそんなにも頼りなかったの?…お母さんが亡くなってすぐ、二人で約束したのにっ……。」
それから暫く家に私の泣き叫ぶ声が響いた。何時間泣いただろう、私が泣き止んだ頃には時間の感覚さえ分からなくなっていた。ただ兄の日記が気になって丁寧に開いた。1ページから読み進めて、お母さんが亡くなった日まできた。これまで書かれていた日記とは違い、お母さんが亡くなって悲しい出来事も頻繁に書くようになっていったことがわかった。兄は私の知らないところで本当に苦労していた。
毎日、毎日私達を養う為に兄が入れたのは所謂ブラック企業だった。兄はよく叩かれていたそうで、皆の笑いものにされていた。それでも、訴えることは出来なかった。兄を叩いたり暴力を振るっていた上司に脅しをかけられたのだという。曰くもし訴えたりそんなことをすると家族、私達を殺すと言ったそうだ。そして、このことを私達に言ったら全員殺すと言われ、兄は一人苦しんでいた。
暴力を振るわれながら、味方も居ない職場で日々働き、その事を私達に言うことも相談することも出来ない中、疲れているのに買い物をして家に帰り料理をし酒を勝手に買って飲もうとする父から酒を没収し私の話を聞く、とても私には耐えられないことを兄は私達の前で平気な顔でするしかなかった、と兄の日々が分かって私は胸が締め付けられる痛みを感じた。
兄は私が想像していたよりずっと一人で苦しんでいた。私がもっと手伝っていれば、お父さんを止めるのを兄一人に任せず私もしていたら、もっと兄を休ませてあげていたら、と後悔がふつふつと湧き上がってきた。兄が朝体調が悪いのを知っていたのに私は出勤しようとする兄を止めなかった。だから、兄は亡くなってしまったんだと、私は数え切れないほどの後悔といくら後悔しても湧き上がる感情に苦しくなった。
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