例え愛される事などないと分かっていても私は─

その日はまだ春になったばかりの涼しい風が、酷く懐かしい風が吹いていました──

気が付けば私は婚約者と婚約した日に婚約者の家を訪ねていました。私は春が嫌いでした。何故ならお母様の命日ですから。今日はお母様の命日。私が一番嫌いな日。お母様の命日の日になると何時も思う事がありました。お母様は命日の日に何を思っていたのかと。私を産んで、自らの命をも捨てて本当に良かったのでしょうか?、と自問自答していた日々。ですがその日々が私の幼き頃の悩みをあの方はいとも簡単にまるで大丈夫だよ、と私を暖かく包んむように私の心の悩みを取り省いてくださった。

あの方は私を、誰にも頼れなかった幼い私を救って下さった。初めて、

『大丈夫だよ。君は悪くないよ。寂しかったね。辛かったね。もう我慢しなくても良いんだよ。独りで抱え込まなくても、君の周りには頼れる人がいるから。だから、独りで抱え込まないで、独りで抱え込む方が何倍も悲しいから。独りは、ね。とっても寂しいんだよ。』

使用人の咲空以外から、それも出会って間もない私と幾つかしか変わらない少年が言った言葉でした。私はいとも簡単にその少年に恋をしました。お父様に必死でお願いしてやっと叶った婚約。ですが私はこの後、無理を言ったのがいけなかったのかそもそもあの方を好きになってしまったこと自体が罪なのかと後悔することになることをその時は全く考えていませんでした。
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