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安井の場合9
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石原は安井の理解度を感じながら話を続けた。
「2つ目は前職よりもステップダウンの会社に転職しているケースです。わかりやすいのは同業他社で今より規模感の小さい会社に転職するケースです。」
「なるほど、それは確かにわかりやすいですね。」
「えぇ、このケースも履歴書を見れば同業他社にいたことがわかるのと、職務経歴書を細かく見なくても、だいたいどのような仕事をしていたかが、採用担当者にもわかる、というのがポイントですね。」
「採用担当者にわかるのがポイント、ですか、、、?」
「はい。採用担当者の本音として、他業界などから転職してこられる方に関しては、何をしてきたか、何がすごいのか、ということを具体的には想像できない、というものがあります。」
安井は言われてみてハッとした。確かに採用担当者と言えど、自分の会社以外のことまで具体的に知っている訳ではないのだ。石原は更に、職務経歴書などに業界専門用語や社内だけで使われているような表現をしているだけで、視野が狭い、仕事のレベル感が低い、と落とす採用担当者の方もいることを教えてくれた。言われて気づくことばかりだが、言われないと想像できないことばかりだと安井は感じた。
「そして3つ目は採用する側の人材に対する意識が低いケース、いわゆる人を駒扱いするような、社員を大切にしない会社の人事担当の場合はここまで細かく人を見極めようとしません。来てくれさえすれば誰でも良いので。」
そう言うと石原はペンを強く握りしめながら付け加えた。
「私自身の信念として、社員を大切にしない会社には落ちた方が良いと思うくらいですので、その前提としてのアドバイスとお受け取りください。」
「なるほど、良くわかりました。僕の場合、1つ目のケースは該当しない、、、2つ目も3つ目も自分としては望まないケースです。」
「そうおっしゃって頂けて良かったです。補足としてはもう1つのケースとして、採用のノウハウがない企業でも僕が伝えるほどシビアな目では採用をしていないケースもありますね。ただこの場合でも採用ノウハウがない企業なので、良くも悪くも先輩社員の方々の価値観もバラバラで一体感がないリスクがありますね。」
「それもあんまり良い環境ではないですよね。」
「えぇ、ですので私は内定獲得を成功、とは捉えずに、入社後に満足して働き続けてもらえることを成功と捉えて、アドバイスをさせて頂いているので、どの転職サイトにも載っていないようなことや、過剰に感じられるようなアドバイスもあるかと思います。」
「その方がありがたいです。変な質問をしてすみませんでした。」
「いえいえ、私の方も言葉足らずで申し訳ございませんでした。」
そう言う石原は社交辞令ではなく、本気でそう思っているように思えて、安井は更に好感を持った。そして石原は言葉足らずついでに、と続けた。
「営業活動に例えると、どうしても売れれば良い、と思われてしまいますよね。だから内定さえ獲得できれば良い、と誤解を与えてしまったかと思います。正確には営業活動と言っても売る相手を選ぶような営業活動、ですね。」
「えっ、そんな営業ってあるんですか?」
安井は全く想像がつかなかった。
「最近の企業ではブランディング、という価値観も広まりつつあるので、徐々に広がっている考え方ではあるかと思います。例えば私自身も、依頼さえあればどの求人でも扱うのではなく、社員を大切にする地元の中小企業しか扱わない、と決めています。そうすることで万人受けはしないですが、特定の方には深く心に響くサービスになるからです。」
「確かに、それはわかりやすいですね。」
「はい、転職活動も同じで、ご自身の人生をブランディングすることで、どこでも受かる、のではなく、本当にマッチングする会社にだけ受かる、ということを目標に、手段を検討して頂くことが大切です。」
「なんだか難しそうですね、、、」
「そのために私のような人間がいるので、お気兼ねなくお使いくださいませ。」
そう言った石原は安井にはとてもまぶしく見えたが、桜井は更にまぶしく感じているようだった。
「ついつい脱線してしまいましたね。会社案内のような履歴書と職務経歴書ではダメ、というお話でしたね。」
「いえいえ、興味深い話でしたので、どんどん脱線もお願いします。」
「そう言って頂けると嬉しいです。では履歴書と職務経歴書のお話に戻して、会社案内ではなく、どう考えれば良いか、をお伝えしますね。」
「お願いします!」
「はい、実はその答えはシンプルです。職務経歴書ではなく、“プレゼン資料”と捉えて作り直してください。」
「プレゼン資料、ですか?」
「そうですね、お仕事では作られたことはありますか?」
「実は全くないんです、、、」
「でしたら、大切な方へのお手紙と思ってください、、、あっ、少し古い例えですかね?今の方はメールで済ませますよね。」
石原は恥ずかしそうにしていた。恥ずかしそうにはにかむ石原を初めて見た桜井は得をした気分になった。
「いえいえ、わかりやすいんで大丈夫です。確かに手紙と思ったら、10人いても10人共に同じ内容は渡さないですよね。」
「ええ、お一人お一人に伝えたいことを考えられますよね。しかも伝える前にどう伝えようとか、何が喜ぶかな、とか考えた上で内容を変えられますよね。」
「はい、あまり経験がないので、ただの想像の話ですが、、、」
そういう安井も照れた様子だった。1人冷静な桜井は何とも言えない空気を変えるべく話し出した。
「僕もまだ童貞ですよ。」
その場の時は完全に止まった。そして安井が、僕は違います、と言ったことで更に場の空気は得も言われぬものになった。石原は空気を変えるべく、桜井に飲み物のおかわりを持ってこさせることにした。3人はおかわりの冷たいお茶を一気に飲み干した。春の温かい日差しが面談室を包み込んだ。
「2つ目は前職よりもステップダウンの会社に転職しているケースです。わかりやすいのは同業他社で今より規模感の小さい会社に転職するケースです。」
「なるほど、それは確かにわかりやすいですね。」
「えぇ、このケースも履歴書を見れば同業他社にいたことがわかるのと、職務経歴書を細かく見なくても、だいたいどのような仕事をしていたかが、採用担当者にもわかる、というのがポイントですね。」
「採用担当者にわかるのがポイント、ですか、、、?」
「はい。採用担当者の本音として、他業界などから転職してこられる方に関しては、何をしてきたか、何がすごいのか、ということを具体的には想像できない、というものがあります。」
安井は言われてみてハッとした。確かに採用担当者と言えど、自分の会社以外のことまで具体的に知っている訳ではないのだ。石原は更に、職務経歴書などに業界専門用語や社内だけで使われているような表現をしているだけで、視野が狭い、仕事のレベル感が低い、と落とす採用担当者の方もいることを教えてくれた。言われて気づくことばかりだが、言われないと想像できないことばかりだと安井は感じた。
「そして3つ目は採用する側の人材に対する意識が低いケース、いわゆる人を駒扱いするような、社員を大切にしない会社の人事担当の場合はここまで細かく人を見極めようとしません。来てくれさえすれば誰でも良いので。」
そう言うと石原はペンを強く握りしめながら付け加えた。
「私自身の信念として、社員を大切にしない会社には落ちた方が良いと思うくらいですので、その前提としてのアドバイスとお受け取りください。」
「なるほど、良くわかりました。僕の場合、1つ目のケースは該当しない、、、2つ目も3つ目も自分としては望まないケースです。」
「そうおっしゃって頂けて良かったです。補足としてはもう1つのケースとして、採用のノウハウがない企業でも僕が伝えるほどシビアな目では採用をしていないケースもありますね。ただこの場合でも採用ノウハウがない企業なので、良くも悪くも先輩社員の方々の価値観もバラバラで一体感がないリスクがありますね。」
「それもあんまり良い環境ではないですよね。」
「えぇ、ですので私は内定獲得を成功、とは捉えずに、入社後に満足して働き続けてもらえることを成功と捉えて、アドバイスをさせて頂いているので、どの転職サイトにも載っていないようなことや、過剰に感じられるようなアドバイスもあるかと思います。」
「その方がありがたいです。変な質問をしてすみませんでした。」
「いえいえ、私の方も言葉足らずで申し訳ございませんでした。」
そう言う石原は社交辞令ではなく、本気でそう思っているように思えて、安井は更に好感を持った。そして石原は言葉足らずついでに、と続けた。
「営業活動に例えると、どうしても売れれば良い、と思われてしまいますよね。だから内定さえ獲得できれば良い、と誤解を与えてしまったかと思います。正確には営業活動と言っても売る相手を選ぶような営業活動、ですね。」
「えっ、そんな営業ってあるんですか?」
安井は全く想像がつかなかった。
「最近の企業ではブランディング、という価値観も広まりつつあるので、徐々に広がっている考え方ではあるかと思います。例えば私自身も、依頼さえあればどの求人でも扱うのではなく、社員を大切にする地元の中小企業しか扱わない、と決めています。そうすることで万人受けはしないですが、特定の方には深く心に響くサービスになるからです。」
「確かに、それはわかりやすいですね。」
「はい、転職活動も同じで、ご自身の人生をブランディングすることで、どこでも受かる、のではなく、本当にマッチングする会社にだけ受かる、ということを目標に、手段を検討して頂くことが大切です。」
「なんだか難しそうですね、、、」
「そのために私のような人間がいるので、お気兼ねなくお使いくださいませ。」
そう言った石原は安井にはとてもまぶしく見えたが、桜井は更にまぶしく感じているようだった。
「ついつい脱線してしまいましたね。会社案内のような履歴書と職務経歴書ではダメ、というお話でしたね。」
「いえいえ、興味深い話でしたので、どんどん脱線もお願いします。」
「そう言って頂けると嬉しいです。では履歴書と職務経歴書のお話に戻して、会社案内ではなく、どう考えれば良いか、をお伝えしますね。」
「お願いします!」
「はい、実はその答えはシンプルです。職務経歴書ではなく、“プレゼン資料”と捉えて作り直してください。」
「プレゼン資料、ですか?」
「そうですね、お仕事では作られたことはありますか?」
「実は全くないんです、、、」
「でしたら、大切な方へのお手紙と思ってください、、、あっ、少し古い例えですかね?今の方はメールで済ませますよね。」
石原は恥ずかしそうにしていた。恥ずかしそうにはにかむ石原を初めて見た桜井は得をした気分になった。
「いえいえ、わかりやすいんで大丈夫です。確かに手紙と思ったら、10人いても10人共に同じ内容は渡さないですよね。」
「ええ、お一人お一人に伝えたいことを考えられますよね。しかも伝える前にどう伝えようとか、何が喜ぶかな、とか考えた上で内容を変えられますよね。」
「はい、あまり経験がないので、ただの想像の話ですが、、、」
そういう安井も照れた様子だった。1人冷静な桜井は何とも言えない空気を変えるべく話し出した。
「僕もまだ童貞ですよ。」
その場の時は完全に止まった。そして安井が、僕は違います、と言ったことで更に場の空気は得も言われぬものになった。石原は空気を変えるべく、桜井に飲み物のおかわりを持ってこさせることにした。3人はおかわりの冷たいお茶を一気に飲み干した。春の温かい日差しが面談室を包み込んだ。
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