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転職エージェントの裏側1
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金城との2回目の面談の当日、予約の時間の30分前から桜井は緊張の面持ちで面談室に待機をしていた。
石原は前回の面談の件で自分を怒ることはなかった。前の会社の上司なら間違いなく怒られていたので、身構えて石原からの連絡を待っていたが、特段何も言われなかった。それが余計にプレッシャーとなっているのを感じた。
金城は約束の10分前にやってきた。今日は土曜日ということもあり、金城は私服で来ていた。服装のせいか、ナチュラルな化粧のせいかはわからなかったが前回よりも更に美しく見えた。
金城の出迎えをし、いつも通りドリンクメニューから希望を聞いた。金城は2回目ということもあり、メニュー見ずにハーブティーのリラックスブレンドを頼んだ。
GEARでは転職エージェントとは思えないほど、ドリンクメニューが充実し、内装も隠れ家カフェのような設えになっている。石原のこだわりで、とても居心地が良い。アロマも独自のブレンドで嫌味でない程度の匂いが部屋を満たしている。石原曰く、来客される方の気持ちや相談内容などによって、アロマのブレンドも変えているらしい。今日はローズマリーとグレープフルーツのブレンドだった。
ドリンクを用意し、お茶菓子も用意したところで石原にも声をかけて一緒に面談室に入ろうとすると、お茶菓子とドリンクの配膳を石原が買って出てくれた。上司にさせるのは気が引けたが、これがGEARの文化なのかと思い任せることにした。
石原は慣れた手つきで飲み物を机に並べていく。コップも温かみのある木製のこだわりのもので、お茶菓子も無添加やオーガニック原料のものにこだわっていた。
「ご遠慮なさらず、ぜひお召し上がりください」
石原はそういうとお盆の片づけのため一旦部屋を出た。桜井と金城、面談室で二人きりの時間になり、桜井は沈黙の中にも幸せを感じていた。
面談室に戻って来た石原が何も会話が始まっていない状況に少し戸惑う顔を見せたが、桜井は気にならないほど金城のことで頭がいっぱいになっていた。
「本日もご足労頂いてありがとうございます。」
石原がそう言ったのをきっかけに桜井は面談中ということを思い出して我に返った。
「いえいえ、こちらこそ連日お時間を頂いて申し訳ございません。」
確かに、昨日の今日でまた金城に会えると思っていなかったので桜井は幸せだった。
「たまたまご予約のキャンセルがあったので、ちょうど良かったです。それでは昨日の続きからのお話しでよろしいでしょうか?それとも他にお悩みがあればそちらからお話をさせて頂きますが?」
「昨日の続きも気になるんですが、その前に一つ聞いていいですか?」
「もちろんです。どうされましたか?」
「どうしてここまで親身になって頂けるんですか?」
金城は昨日の面談後、とても気になることがあった。明らかに石原は他の転職エージェントとは一線を画すことを話していたし、何より対応の一つ一つから誠実にこちらと向き合おうとしている姿勢を感じられた。それは他の3社の転職エージェントでは感じられなかったことだったからだ。
「そうおっしゃって頂けると嬉しいです。私としてはただ当たり前のことをしているだけなのですが、この業界では珍しいことなのかもしれないですね。」
「そうなんです。他の3社でもお話は聞いて頂けたんですが、何と表現して良いか、、、
事務的にインタビューされている感覚と言うか。」
「金城様はとても感性が鋭くいらっしゃるんですね。」
そうほほ笑む石原が金城にはまぶしく感じられた。その目線を感じ取った桜井が嫉妬を込めた目で石原を見ていたが、石原はそれを気にも留める様子もなく話をつづけた。
「金城様がお感じになられた点、とても大切なことですので、今日はそのあたりからご説明させて頂きますね。」
「ありがとうございます。」
「まず金城様はご転職活動をされる中で、エージェントをご利用になられる際や、求人サイトをご覧になられる際にお金を支払われることはありますか?」
「いえ、ありませんね。」
「そうですね。それが日本での常識になっています。では弊社のような転職エージェントや求人サイトの運営会社はどのようにビジネスをしているのか、まぁ平たく言うとどこから収益を得ているのか、ご存じでしょうか?」
「求人している企業がお金を支払っているって聞いたことがあります。」
「おっしゃる通りです。多くの方がその事実はご存じかと思います。ではどれくらいの金額のお金が動いているかはご存じですか?」
「いえ、検討もつきません。」
「色々と料金に変動はあるものの、ざっくりとしたイメージをお持ち頂ければと思うのは、求人サイトに掲載する場合、無料と有料とありますが有料の場合、だいたい1ヶ月で数万円~数百万円となります。一方で弊社のような転職エージェントの場合、ご入社された方の年収の30%~40%ほどが手数料の相場となります。500万円のご年収の方だと150万円~200万円程度です。地域差や取り扱い職種によって前後しますが、下は数%~上は100%と言う事例もあります。」
「そんなに高いんですね。金額も結構差があるようですが、なんでそんなに差が出るんですか?」
「求人サイトの場合、掲載できる文章量や、検索された際に上位に表示されるなどのオプションによって大きく差が出ます。転職エージェントの場合、職種ごとの有効求人倍率に比例して手数料の差がでやすいです。例えば今はオリンピックや震災復興などの影響で建築系のお仕事が多い割に、成り手が極端に少ないという状況もあり、建築系の施工管理職で年収の100%、500万円の年収の場合、手数料が500万円という事案も出ています。」
桜井は石原の会話と会話の間がいつもよりも長いような気がしていたが、そんなことよりも毎度石原のこの手の話には引き込まれてしまう自分がいた。
「桜井は弊社に入る前も転職エージェントだったんですが、この辺りの事例で何か補足は?」
急にふられたものだから何も答えられなかった。
「いえ、特にないです。」
石原は顔色を僅かながら曇らせながらつづけた。
「まず金城様にご理解頂きたいこと、それはお金の流れでした。なぜかと言うと、転職エージェントの存在意義に関わることだからです。」
石原は前回の面談の件で自分を怒ることはなかった。前の会社の上司なら間違いなく怒られていたので、身構えて石原からの連絡を待っていたが、特段何も言われなかった。それが余計にプレッシャーとなっているのを感じた。
金城は約束の10分前にやってきた。今日は土曜日ということもあり、金城は私服で来ていた。服装のせいか、ナチュラルな化粧のせいかはわからなかったが前回よりも更に美しく見えた。
金城の出迎えをし、いつも通りドリンクメニューから希望を聞いた。金城は2回目ということもあり、メニュー見ずにハーブティーのリラックスブレンドを頼んだ。
GEARでは転職エージェントとは思えないほど、ドリンクメニューが充実し、内装も隠れ家カフェのような設えになっている。石原のこだわりで、とても居心地が良い。アロマも独自のブレンドで嫌味でない程度の匂いが部屋を満たしている。石原曰く、来客される方の気持ちや相談内容などによって、アロマのブレンドも変えているらしい。今日はローズマリーとグレープフルーツのブレンドだった。
ドリンクを用意し、お茶菓子も用意したところで石原にも声をかけて一緒に面談室に入ろうとすると、お茶菓子とドリンクの配膳を石原が買って出てくれた。上司にさせるのは気が引けたが、これがGEARの文化なのかと思い任せることにした。
石原は慣れた手つきで飲み物を机に並べていく。コップも温かみのある木製のこだわりのもので、お茶菓子も無添加やオーガニック原料のものにこだわっていた。
「ご遠慮なさらず、ぜひお召し上がりください」
石原はそういうとお盆の片づけのため一旦部屋を出た。桜井と金城、面談室で二人きりの時間になり、桜井は沈黙の中にも幸せを感じていた。
面談室に戻って来た石原が何も会話が始まっていない状況に少し戸惑う顔を見せたが、桜井は気にならないほど金城のことで頭がいっぱいになっていた。
「本日もご足労頂いてありがとうございます。」
石原がそう言ったのをきっかけに桜井は面談中ということを思い出して我に返った。
「いえいえ、こちらこそ連日お時間を頂いて申し訳ございません。」
確かに、昨日の今日でまた金城に会えると思っていなかったので桜井は幸せだった。
「たまたまご予約のキャンセルがあったので、ちょうど良かったです。それでは昨日の続きからのお話しでよろしいでしょうか?それとも他にお悩みがあればそちらからお話をさせて頂きますが?」
「昨日の続きも気になるんですが、その前に一つ聞いていいですか?」
「もちろんです。どうされましたか?」
「どうしてここまで親身になって頂けるんですか?」
金城は昨日の面談後、とても気になることがあった。明らかに石原は他の転職エージェントとは一線を画すことを話していたし、何より対応の一つ一つから誠実にこちらと向き合おうとしている姿勢を感じられた。それは他の3社の転職エージェントでは感じられなかったことだったからだ。
「そうおっしゃって頂けると嬉しいです。私としてはただ当たり前のことをしているだけなのですが、この業界では珍しいことなのかもしれないですね。」
「そうなんです。他の3社でもお話は聞いて頂けたんですが、何と表現して良いか、、、
事務的にインタビューされている感覚と言うか。」
「金城様はとても感性が鋭くいらっしゃるんですね。」
そうほほ笑む石原が金城にはまぶしく感じられた。その目線を感じ取った桜井が嫉妬を込めた目で石原を見ていたが、石原はそれを気にも留める様子もなく話をつづけた。
「金城様がお感じになられた点、とても大切なことですので、今日はそのあたりからご説明させて頂きますね。」
「ありがとうございます。」
「まず金城様はご転職活動をされる中で、エージェントをご利用になられる際や、求人サイトをご覧になられる際にお金を支払われることはありますか?」
「いえ、ありませんね。」
「そうですね。それが日本での常識になっています。では弊社のような転職エージェントや求人サイトの運営会社はどのようにビジネスをしているのか、まぁ平たく言うとどこから収益を得ているのか、ご存じでしょうか?」
「求人している企業がお金を支払っているって聞いたことがあります。」
「おっしゃる通りです。多くの方がその事実はご存じかと思います。ではどれくらいの金額のお金が動いているかはご存じですか?」
「いえ、検討もつきません。」
「色々と料金に変動はあるものの、ざっくりとしたイメージをお持ち頂ければと思うのは、求人サイトに掲載する場合、無料と有料とありますが有料の場合、だいたい1ヶ月で数万円~数百万円となります。一方で弊社のような転職エージェントの場合、ご入社された方の年収の30%~40%ほどが手数料の相場となります。500万円のご年収の方だと150万円~200万円程度です。地域差や取り扱い職種によって前後しますが、下は数%~上は100%と言う事例もあります。」
「そんなに高いんですね。金額も結構差があるようですが、なんでそんなに差が出るんですか?」
「求人サイトの場合、掲載できる文章量や、検索された際に上位に表示されるなどのオプションによって大きく差が出ます。転職エージェントの場合、職種ごとの有効求人倍率に比例して手数料の差がでやすいです。例えば今はオリンピックや震災復興などの影響で建築系のお仕事が多い割に、成り手が極端に少ないという状況もあり、建築系の施工管理職で年収の100%、500万円の年収の場合、手数料が500万円という事案も出ています。」
桜井は石原の会話と会話の間がいつもよりも長いような気がしていたが、そんなことよりも毎度石原のこの手の話には引き込まれてしまう自分がいた。
「桜井は弊社に入る前も転職エージェントだったんですが、この辺りの事例で何か補足は?」
急にふられたものだから何も答えられなかった。
「いえ、特にないです。」
石原は顔色を僅かながら曇らせながらつづけた。
「まず金城様にご理解頂きたいこと、それはお金の流れでした。なぜかと言うと、転職エージェントの存在意義に関わることだからです。」
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