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3章
23話:どなたでしょうか
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「つったってよジラジラ、もしそうならヤクルは俺たちにとってラッキーパーソンなのかもしれねぇが、仮にお前の言うことが本当なら、ヤクルはあの爆発の日をもっと悲観的に捉えてるもんじゃねぇのか? 見る限りめちゃくちゃポジティブ野郎な訳だが……」
『やっぱりアンタは頭が大筒なのか考えを爆発に寄せるのが好きだねぇ。とはいえ思考汚染を受けていてもそこまで意見できるのは、流石作家の分析力というべきかな?」
「はぁ……?」
ナナジマはヤクルを批判的に捉え意見したが、ルルカがヤクルを評価しているのは、ナナジマの意見に等しい。
『ま、ヤクルと思考を重ねたアタシが知る限り、少なからず本人はなにも思ってない訳ではないみたいだよ。爆発を受けてただ凹んでるだけじゃ新世界を担うことなんてできやしないしね。まぁ、いまアンタたちに悪影響を与えるパッチへの解決策を調べていて、もうそろそろでわかりそうなんだ。今度はもっと詳しいことも話すつもりだよ。楽しみにしててね』
ルルカは一方的に話を切り上げた。一同はそれぞれ自身の行動に照らし合わせて思考汚染について考えざるを得なかった。
そのようななか――ヤクルはこのとき、一年前にのゐるが話していた言葉について思い出していた。
世界滅亡の当日、王城ちかくの広場にて、のゐるはこのように発言していた。
『で……でも、今日が最期の日なんですよ……? なにかもっと楽しいことをしたほうがいいんじゃ……自宅でゆっくり過ごしたり、友人と楽しくお喋りしたりとか……』
のゐるはどうして人生最期の日を過ごす至福の方法として、自宅での待機を促したのか……気持ちを塞いでいたとはいえ、のゐるが放つ言葉にしては閉塞的である。ヤクルはその発言に、汚染された響きを帯びているのではないかと感じていた。
それはつまり、彼以外の人類は思考を汚染され、世界の滅亡を受け入れるよう促され、合理的な解釈をよしとしていた、あるいはさせられていた、ということなのだろうか……ヤクルは考えるが、まだどうにも真実味に欠けている。かといってそれを尋ねて確かめるほどの厚かましさにも乏しかった。
ヤクルは誰かを褒めたり勇気づけるためには猛進し、馬鹿になることができるが、いざというとき自分の主張に自信を持つことが苦手だった。
だからこそ、のゐるには生きてほしいという気持ちを熱心に伝えられたが、ルルカに人体改造を煽られたときは、自分が犠牲になることをいとわなかったくらいなのだ。
訳のわからない説明をしたばかりではあったが……ルルカが次に取り上げたのは全く異なる話題であった。
『……ところでヤクル、そろそろ小麦も場所によっては収穫時期だけど、わざとひと区画収穫してないよね。アレってどうなったか知ってる?』
「え、知らないけど……ってか思考汚染の話は!?」
『まぁまぁ。実は、あの区画の一キロ先には生命反応があるんだ。あのあたりはヘミュエル教団っていう国外移民が住んでる小さな集落なんだよ。山奥にいてあまり爆風の影響を受けなかったから生き延びられたんだね』
「ちょ、ちょっとルルカなんの話――?」
ヤクルはやはり付いていけなかったが、ルルカは構わず話し続けた。
『ヘミュエル教団は二百年前にできた隣国の新興宗教なんだけど、カリスマ教主が死んだのと同時に組織が解体され、一部が国を追われグジパン国で暮らしてたんだ。それでこの近くの空き屋や土地にテントを建てて暮らしていたんだけど』
――ガララッ!
掘っ立て小屋の横開きの扉が開くと、外には一同が見たことのない民族衣装を身にまとった人たちがいた。細く痩せ、悲壮感を漂わせる老若男女が百人ほど立ち尽している。
『一年経って、自分たちの収穫量だけじゃもたなくなったので、ここに訪ねて来たって訳』
「だから思考汚染の話の続きを……って誰なのこの人たち!?」
「わ、ワシらは旧ヘミュエル教団の者です……大爆発が起きたのち、この周辺で密かに暮らしていました。ですが爆発の影響か作物がうまく育たなくなり、自給自足の暮らしができなくなってしまい、つい教団の子どもがあなた方の小麦を盗んでしまったのです……」
教団のうちのひとり、神官と呼べるような衣装とヒゲが特徴的な男が申し訳なさそうに訪ねてきた理由を述べた。いまにも泣きだしそうな幼女が男の影に隠れ、その裾を引っ張っていた。
「幼女だああああああああああああああああああ!!! どわあああああああああああああああああああああああああッ!!?」
ヤクルが吠えた途端、彼の頭はルルカのまばたきによって爆発を起こし、部品が部屋中に飛び散った。食卓中の白い目がヤクルのもとに集まった。
神官と思える男性は構わず話し続ける。
「申し訳ございません。教団の戒律でいえば、この子がした盗みは自戒に値する大罪です……どうかあなた方にこの子の生殺与奪をお委ねしたく、謝罪とお願いを申し上げに来た次第なのです……」
「なにぃ……?」
怒りを覚えたのはナナジマであった。
「小麦を盗んだからどうにかしろだとぉ? 反省してるとか口ばっかりなんじゃねぇか? お前たちがちゃんと見てねぇからだろうが。到底許されることじゃねぇなぁ、その子も! お前たちも!」
ナナジマの言葉に涙を浮かべる教団一同だが、その処遇は農地代表であるヤクルに委ねられた。
ヤクルの頭部は爆発してしまったので、代わりに彼の胴体が声を発した。
「イテテテテ……あぁ、田植えしているときにガサガサ物音が聞こえたのはそれかぁ。えっと……じゃあ畑の野菜分けるんで一緒に暮らさないかな? 土地も食糧も余ってるし、農作業もできる範囲で手伝って貰えればなんだって食べ放題でいいよ」
「な! なんと寛大なお心! ありがたき幸せ! 我々にとって貴方たちが領主さまです! なんなりと我々にお申し付けくださいませぇ……!」
思考汚染の話は翌日以降に持ち越され、ヘミュエル教の一団およそ二百名がヤクルたちの配下に加わった。
『よし! じゃあヘミュエル教団員もみんなで一緒に耕せええええええええええええええええええ!!!』
およそ和久井姉妹の心配していた人員不足に応じるようにルルカが吠えた。ヤクルはこの日から領主と呼ばれることとなった。
『やっぱりアンタは頭が大筒なのか考えを爆発に寄せるのが好きだねぇ。とはいえ思考汚染を受けていてもそこまで意見できるのは、流石作家の分析力というべきかな?」
「はぁ……?」
ナナジマはヤクルを批判的に捉え意見したが、ルルカがヤクルを評価しているのは、ナナジマの意見に等しい。
『ま、ヤクルと思考を重ねたアタシが知る限り、少なからず本人はなにも思ってない訳ではないみたいだよ。爆発を受けてただ凹んでるだけじゃ新世界を担うことなんてできやしないしね。まぁ、いまアンタたちに悪影響を与えるパッチへの解決策を調べていて、もうそろそろでわかりそうなんだ。今度はもっと詳しいことも話すつもりだよ。楽しみにしててね』
ルルカは一方的に話を切り上げた。一同はそれぞれ自身の行動に照らし合わせて思考汚染について考えざるを得なかった。
そのようななか――ヤクルはこのとき、一年前にのゐるが話していた言葉について思い出していた。
世界滅亡の当日、王城ちかくの広場にて、のゐるはこのように発言していた。
『で……でも、今日が最期の日なんですよ……? なにかもっと楽しいことをしたほうがいいんじゃ……自宅でゆっくり過ごしたり、友人と楽しくお喋りしたりとか……』
のゐるはどうして人生最期の日を過ごす至福の方法として、自宅での待機を促したのか……気持ちを塞いでいたとはいえ、のゐるが放つ言葉にしては閉塞的である。ヤクルはその発言に、汚染された響きを帯びているのではないかと感じていた。
それはつまり、彼以外の人類は思考を汚染され、世界の滅亡を受け入れるよう促され、合理的な解釈をよしとしていた、あるいはさせられていた、ということなのだろうか……ヤクルは考えるが、まだどうにも真実味に欠けている。かといってそれを尋ねて確かめるほどの厚かましさにも乏しかった。
ヤクルは誰かを褒めたり勇気づけるためには猛進し、馬鹿になることができるが、いざというとき自分の主張に自信を持つことが苦手だった。
だからこそ、のゐるには生きてほしいという気持ちを熱心に伝えられたが、ルルカに人体改造を煽られたときは、自分が犠牲になることをいとわなかったくらいなのだ。
訳のわからない説明をしたばかりではあったが……ルルカが次に取り上げたのは全く異なる話題であった。
『……ところでヤクル、そろそろ小麦も場所によっては収穫時期だけど、わざとひと区画収穫してないよね。アレってどうなったか知ってる?』
「え、知らないけど……ってか思考汚染の話は!?」
『まぁまぁ。実は、あの区画の一キロ先には生命反応があるんだ。あのあたりはヘミュエル教団っていう国外移民が住んでる小さな集落なんだよ。山奥にいてあまり爆風の影響を受けなかったから生き延びられたんだね』
「ちょ、ちょっとルルカなんの話――?」
ヤクルはやはり付いていけなかったが、ルルカは構わず話し続けた。
『ヘミュエル教団は二百年前にできた隣国の新興宗教なんだけど、カリスマ教主が死んだのと同時に組織が解体され、一部が国を追われグジパン国で暮らしてたんだ。それでこの近くの空き屋や土地にテントを建てて暮らしていたんだけど』
――ガララッ!
掘っ立て小屋の横開きの扉が開くと、外には一同が見たことのない民族衣装を身にまとった人たちがいた。細く痩せ、悲壮感を漂わせる老若男女が百人ほど立ち尽している。
『一年経って、自分たちの収穫量だけじゃもたなくなったので、ここに訪ねて来たって訳』
「だから思考汚染の話の続きを……って誰なのこの人たち!?」
「わ、ワシらは旧ヘミュエル教団の者です……大爆発が起きたのち、この周辺で密かに暮らしていました。ですが爆発の影響か作物がうまく育たなくなり、自給自足の暮らしができなくなってしまい、つい教団の子どもがあなた方の小麦を盗んでしまったのです……」
教団のうちのひとり、神官と呼べるような衣装とヒゲが特徴的な男が申し訳なさそうに訪ねてきた理由を述べた。いまにも泣きだしそうな幼女が男の影に隠れ、その裾を引っ張っていた。
「幼女だああああああああああああああああああ!!! どわあああああああああああああああああああああああああッ!!?」
ヤクルが吠えた途端、彼の頭はルルカのまばたきによって爆発を起こし、部品が部屋中に飛び散った。食卓中の白い目がヤクルのもとに集まった。
神官と思える男性は構わず話し続ける。
「申し訳ございません。教団の戒律でいえば、この子がした盗みは自戒に値する大罪です……どうかあなた方にこの子の生殺与奪をお委ねしたく、謝罪とお願いを申し上げに来た次第なのです……」
「なにぃ……?」
怒りを覚えたのはナナジマであった。
「小麦を盗んだからどうにかしろだとぉ? 反省してるとか口ばっかりなんじゃねぇか? お前たちがちゃんと見てねぇからだろうが。到底許されることじゃねぇなぁ、その子も! お前たちも!」
ナナジマの言葉に涙を浮かべる教団一同だが、その処遇は農地代表であるヤクルに委ねられた。
ヤクルの頭部は爆発してしまったので、代わりに彼の胴体が声を発した。
「イテテテテ……あぁ、田植えしているときにガサガサ物音が聞こえたのはそれかぁ。えっと……じゃあ畑の野菜分けるんで一緒に暮らさないかな? 土地も食糧も余ってるし、農作業もできる範囲で手伝って貰えればなんだって食べ放題でいいよ」
「な! なんと寛大なお心! ありがたき幸せ! 我々にとって貴方たちが領主さまです! なんなりと我々にお申し付けくださいませぇ……!」
思考汚染の話は翌日以降に持ち越され、ヘミュエル教の一団およそ二百名がヤクルたちの配下に加わった。
『よし! じゃあヘミュエル教団員もみんなで一緒に耕せええええええええええええええええええ!!!』
およそ和久井姉妹の心配していた人員不足に応じるようにルルカが吠えた。ヤクルはこの日から領主と呼ばれることとなった。
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