72 / 104
出稽古 11
しおりを挟む
次の月、颯玄とサキは紹介された知念のところに赴いた。
こちらも青空道場だが、地面の上には畳が敷いてある。祖父の道場でたまに見る光景だが、どういう技を主体に教えているかがよく分かる状態だ。
2人は少し稽古の様子を見学していたが、弟子の1人が家の中に入るように言った。2人の来訪を知念に伝えた人だった。
緊張の面持ちで部屋に入ったが、知念の表情は大変柔和で、とても武術の達人といった雰囲気ではない。
「よく来たね。まあ、お茶でも飲みなさい」
知念はそう言って奥さんにお茶を運ばせた。2人はすぐに教えてもらえると思っていただけに少し拍子抜けした表情だったが、歓待されて悪い気はしない。この道場の流儀と考え、運ばれたお茶に口を付けた。その前に自己紹介をしたが、知念は2人のことは知っていた。
「颯玄君、君は掛け試しで活躍しているね。わしの耳にも聞こえていたよ。サキさんも並み居る男性空手家を次々に破り、颯玄君に負けたため久米先生の道場に押し掛けたそうだね。2人とも若いだけあって行動力がある。将来が楽しみだ。実はわしと久米先生にも因縁があってね。今では2人とも好々爺といったところもあるが、昔は君たち同様、血の気が多かった。強い人がいると聞くと、矢も楯もたまらず、試合を申し込んだ。その内の一人が久米先生だった。そこからの縁で今に至っている」
颯玄とサキは2人にそういう過去があったということを初めて聞いたが、その分、その話に興味津々という顔になっていた。
実は昔、外間がここに訪れた時も同じ話を聞いており、出稽古の前日、意味深なことを言っていたことを思い出した。その時の2人には何のことか分からなかったが、このことだったのか、ということで腑に落ちた。
となると、ある意味、稽古以上に興味が湧いた。
「どうだったのですか?」
2人はほぼ同時に尋ねた。
「おぉ、気が合うねえ。良いことだ」
ちょっとはぐらかされたような感じがしたが、2人は知念の目を見て真剣な顔になっていた。
「2人とも20歳を少し過ぎた頃だった。わしも久米先生もそれなりに実戦経験を積んでいるつもりだったが、なかなか掛け試しの場で顔を合わせることが無かった。もし、そこで会っていたら掛け試しということでやっていただろうな。しかし偶然、守礼の門のところで会った。その時、互いの顔は知らなかったが、共に武術家だ。相手の気は感じる。ただならぬ実力者ということは雰囲気や眼光で分かったが、いきなり戦いを始めれば単なる喧嘩だ。それは互いの信条に反する。そこで自分の名前を名乗った。久米先生もそうした。2人とも互いの名前は耳にしていたので、一気に意識が高まった。だが、ここは駆け試しが行なわれるような場所ではないし、自分たちは了解済みでも外から見れば別だ。改めて辻で会う約束をして別れても良かったのだろうが、そこが若さだ。今、ここで戦いたいという気持ちが勝っていた。おそらく、久米先生も同じだったと思う。近くを歩いている人に声をかけ、立会人をお願いした。するとその人は快く引き受けてくれたが、証人は多いほうが良いということで他の人にも声をかけてくれ、10人くらいが集まった。これで場が整ったと思った」
そこまで言うと、知念も喉が渇いたので、お茶を一口すすった。
こちらも青空道場だが、地面の上には畳が敷いてある。祖父の道場でたまに見る光景だが、どういう技を主体に教えているかがよく分かる状態だ。
2人は少し稽古の様子を見学していたが、弟子の1人が家の中に入るように言った。2人の来訪を知念に伝えた人だった。
緊張の面持ちで部屋に入ったが、知念の表情は大変柔和で、とても武術の達人といった雰囲気ではない。
「よく来たね。まあ、お茶でも飲みなさい」
知念はそう言って奥さんにお茶を運ばせた。2人はすぐに教えてもらえると思っていただけに少し拍子抜けした表情だったが、歓待されて悪い気はしない。この道場の流儀と考え、運ばれたお茶に口を付けた。その前に自己紹介をしたが、知念は2人のことは知っていた。
「颯玄君、君は掛け試しで活躍しているね。わしの耳にも聞こえていたよ。サキさんも並み居る男性空手家を次々に破り、颯玄君に負けたため久米先生の道場に押し掛けたそうだね。2人とも若いだけあって行動力がある。将来が楽しみだ。実はわしと久米先生にも因縁があってね。今では2人とも好々爺といったところもあるが、昔は君たち同様、血の気が多かった。強い人がいると聞くと、矢も楯もたまらず、試合を申し込んだ。その内の一人が久米先生だった。そこからの縁で今に至っている」
颯玄とサキは2人にそういう過去があったということを初めて聞いたが、その分、その話に興味津々という顔になっていた。
実は昔、外間がここに訪れた時も同じ話を聞いており、出稽古の前日、意味深なことを言っていたことを思い出した。その時の2人には何のことか分からなかったが、このことだったのか、ということで腑に落ちた。
となると、ある意味、稽古以上に興味が湧いた。
「どうだったのですか?」
2人はほぼ同時に尋ねた。
「おぉ、気が合うねえ。良いことだ」
ちょっとはぐらかされたような感じがしたが、2人は知念の目を見て真剣な顔になっていた。
「2人とも20歳を少し過ぎた頃だった。わしも久米先生もそれなりに実戦経験を積んでいるつもりだったが、なかなか掛け試しの場で顔を合わせることが無かった。もし、そこで会っていたら掛け試しということでやっていただろうな。しかし偶然、守礼の門のところで会った。その時、互いの顔は知らなかったが、共に武術家だ。相手の気は感じる。ただならぬ実力者ということは雰囲気や眼光で分かったが、いきなり戦いを始めれば単なる喧嘩だ。それは互いの信条に反する。そこで自分の名前を名乗った。久米先生もそうした。2人とも互いの名前は耳にしていたので、一気に意識が高まった。だが、ここは駆け試しが行なわれるような場所ではないし、自分たちは了解済みでも外から見れば別だ。改めて辻で会う約束をして別れても良かったのだろうが、そこが若さだ。今、ここで戦いたいという気持ちが勝っていた。おそらく、久米先生も同じだったと思う。近くを歩いている人に声をかけ、立会人をお願いした。するとその人は快く引き受けてくれたが、証人は多いほうが良いということで他の人にも声をかけてくれ、10人くらいが集まった。これで場が整ったと思った」
そこまで言うと、知念も喉が渇いたので、お茶を一口すすった。
10
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約破棄を訴える夫候補が国賊だと知っているのは私だけ~不義の妹も一緒におさらば~
岡暁舟
恋愛
「シャルロッテ、君とは婚約破棄だ!」
公爵令嬢のシャルロッテは夫候補の公爵:ゲーベンから婚約破棄を突きつけられた。その背後にはまさかの妹:エミリーもいて・・・でも大丈夫。シャルロッテは冷静だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる