上 下
55 / 92

稽古停止、解除 7

しおりを挟む
 そこから1週間経った。サキもやっと道場の雰囲気に慣れてきて、最初の頃のぎこちなさは徐々に薄れていった。颯玄は最初の頃、変な雰囲気になって心配していたが、真栄城や城間とも空手についての話であれば気にしないようにしている。もちろん空手の話だけだが、それでもみんなと話すようになったというのは良いことだ。道場内の雰囲気も明るくなっている。

 そのことに祖父も嬉しそうで、新しく入ってきた、しかも初の女性ということもあるのか、これまでよりも丁寧に教えていると感じているのは颯玄だけではなかった。祖父も慣れない女性への指導ということで気を遣っているのかもしれない。

 この日は最初にみんな揃って基本稽古を一通り行なったが、いつもならこことでそれぞれが独自に稽古を行なう。形を稽古する者もいれば約束組手を行なう者、あるいは祖父から教わった形の解釈の復習など様々だ。中には、小屋から畳を出し、地面の上に敷き、投げ技の稽古も行なう。祖父はそれぞれの稽古を見て回り、必要な助言をするという進め具合だ。

 ところがこの日はいつもとは流れが異なった。

 自由組手をやろうということになったのだ。掛け試しと同じ感じで、ということだが、その話にみんなの顔が変わった。ただ、実力は一様ではないので、希望者を募った上で祖父が対戦相手を決める、というカタチで行なうことになり、他の者は見学となる。

 そういう話をした時、最初に組手を希望したのはサキだった。そしてそうなると、対戦を希望する者が次々に手を挙げた。

 サキについての話は全員が知っている。入門のきっかけが颯玄との戦いで負けたからとは知っていても、ここで勝てばもしかすると自分のほうにも振り向いてくれるかも、という期待も含んでいることは表情からも分かる。

 もちろんそういうことはサキも感じている。

 しかし、この1週間、一緒に稽古していて颯玄よりも強そうだと感じたのは外間や真栄田くらいだった。大人で既婚者の2人は他の者のような気持ちはない。ここは大人の対応ということで事の推移を見守っている。

 そんな中、強く戦いたいと訴える者がいた。一緒に帰っている真栄城だった。

 その一所懸命さと、真栄城の実力から祖父はサキとの組手を認めた。

 周囲は颯玄も含め、他の道場生の目が集中している中で始まった。

 両者はきちんと一礼し、構えた。颯玄の道場では変則的な構えをする者はいない。サキもそうなので、特別な違和感はない。

 ただ、真栄城の様子を見ていると、いつもの感じでなく、何となく浮付いているような様子が見える。

 そのことは他の道場生も感じていたようで、「まじめにやれ」といった声も聞こえた。真栄城は「分かっている」といった顔でその声の主のほうを見たが、これで少し心が吹っ切れたようで、顔が真剣になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。

BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。 だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。 女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね? けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

婚約したがっていると両親に聞かされ大事にされること間違いなしのはずが、彼はずっととある令嬢を見続けていて話が違いませんか?

珠宮さくら
恋愛
レイチェルは、婚約したがっていると両親に聞かされて大事にされること間違いなしだと婚約した。 だが、その子息はレイチェルのことより、別の令嬢をずっと見続けていて……。 ※全4話。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。

ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

処理中です...