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稽古停止、しかし・・・ 8
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そういう状態は実際には瞬間的なので今、感じている時間は絶対的なものではない。目に入った様子を頭の中で処理し、自分なりの分析をした結果だ。
そして颯玄は戦いの現場で見たことについて、自分にできるか、ということを自問自答していた。そう考えることができるのは今、客観的なところから見ているから可能なのではと考え、自分にとって未経験の技に対しては反応が遅れるかもしれないと思っていた。
しかし、戦いは颯玄の思いとは別に進んでいる。平が放った右回し蹴りに対して湖城は自身の奥足の膝をかい込み、いわゆる膝受けで対応した。
当たった瞬間、湖城はその膝をやや強引に押し広げるようにし、そのまま平の正面を開くようにした。そしてそのまま自身の足を前方に進め、平との間合いを詰めた。かい込んだ足が地面に着地した瞬間、湖城の中段突きが炸裂した。
見事に極まり、平はそのままうつぶせの状態で倒れた。
動かない平。その様子を見て湖城は平に近づき、仰向けにした。上半身を抱き起し、突いた個所の反対側に手を当て、そのままゆっくり普通の呼吸よりもゆっくり押した。平の身体は少し反るような状態になったが、それを数回繰り返した時、平は意識を取り戻した。湖城の突きによって失神していたのだ。
時間としては短かったが、十分緊迫した戦いであり、颯玄は鳥肌が立っている自分に気付いた。隣にいる上原のほうを見て、戦いの感想を言っている。もちろん、興奮した状態だ。本気で技を出し合い、勝負をするという場に颯玄はしっかり入り込んでいる。自分もこの場で立ち合うことができれば、という思いが頭をもたげている。それで上原に、掛け試しで戦うにはどうすれば良いかを尋ねた。
上原も詳しいことは知らない。だが、今回の雰囲気を読み、自分から名乗り出てみれば誰か相手になってくれるかもしれない、という話をした。
颯玄は少し考え、ならば湖城に挑戦することを決めた。その旨を上原に言ったが、止めるように忠告した。
「今の戦いを見て興奮したのだろうが、俺に勝ったくらいでは湖城さんには勝てないと思う。もう少し他の人と戦い、腕を磨いてから挑戦したら・・・」
もっともな話だ。実際、颯玄も今の戦いを見て湖城の無駄のない動きと実力を十分見た。
だが、颯玄の心の中では最初に戦った真栄田のような圧を感じていない。戦いを見ながら祖父の門下生の実力と比較していたわけだが、上原の忠告は当然としても何となく勝てそうな気がしていた。颯玄の頭の中では、身贔屓ということでなく真栄田のほうが強いと感じていたのだ。
そう思ったら自然に足が前に出ていて、この場で湖城に立ち合いを希望した。戦いを今終えたばかりの湖城は少々驚いたが、みんなの前で挑戦されれば逃げるわけにはいかない。
だが、湖城は今、戦いが終わったばかりだ。疲れが残っているかもしれない状態で今、戦って勝っても公平な条件とは言えない。そのことは颯玄にも分かっていたので2日後という約束をした。
勝ってもおごることにない湖城の言葉と雰囲気に冷静さを取り戻した颯玄は、少し勇み足になっていた自分を恥じていた。でも、初めての掛け試しの相手が決まり、そこでは祖父から稽古停止を言い渡されていることをすっかり忘れていた。
上原は颯玄の無茶ぶりについて忠告したが、湖城と約束した以上、それを止めることはできない。2人が別れ、颯玄が家に帰った時、やたら明るいので両親は不思議がっていたが、その理由を尋ねることは無かった。颯玄は心が満たされていたので、食事を済ませた後はすぐに横になった。
そして颯玄は戦いの現場で見たことについて、自分にできるか、ということを自問自答していた。そう考えることができるのは今、客観的なところから見ているから可能なのではと考え、自分にとって未経験の技に対しては反応が遅れるかもしれないと思っていた。
しかし、戦いは颯玄の思いとは別に進んでいる。平が放った右回し蹴りに対して湖城は自身の奥足の膝をかい込み、いわゆる膝受けで対応した。
当たった瞬間、湖城はその膝をやや強引に押し広げるようにし、そのまま平の正面を開くようにした。そしてそのまま自身の足を前方に進め、平との間合いを詰めた。かい込んだ足が地面に着地した瞬間、湖城の中段突きが炸裂した。
見事に極まり、平はそのままうつぶせの状態で倒れた。
動かない平。その様子を見て湖城は平に近づき、仰向けにした。上半身を抱き起し、突いた個所の反対側に手を当て、そのままゆっくり普通の呼吸よりもゆっくり押した。平の身体は少し反るような状態になったが、それを数回繰り返した時、平は意識を取り戻した。湖城の突きによって失神していたのだ。
時間としては短かったが、十分緊迫した戦いであり、颯玄は鳥肌が立っている自分に気付いた。隣にいる上原のほうを見て、戦いの感想を言っている。もちろん、興奮した状態だ。本気で技を出し合い、勝負をするという場に颯玄はしっかり入り込んでいる。自分もこの場で立ち合うことができれば、という思いが頭をもたげている。それで上原に、掛け試しで戦うにはどうすれば良いかを尋ねた。
上原も詳しいことは知らない。だが、今回の雰囲気を読み、自分から名乗り出てみれば誰か相手になってくれるかもしれない、という話をした。
颯玄は少し考え、ならば湖城に挑戦することを決めた。その旨を上原に言ったが、止めるように忠告した。
「今の戦いを見て興奮したのだろうが、俺に勝ったくらいでは湖城さんには勝てないと思う。もう少し他の人と戦い、腕を磨いてから挑戦したら・・・」
もっともな話だ。実際、颯玄も今の戦いを見て湖城の無駄のない動きと実力を十分見た。
だが、颯玄の心の中では最初に戦った真栄田のような圧を感じていない。戦いを見ながら祖父の門下生の実力と比較していたわけだが、上原の忠告は当然としても何となく勝てそうな気がしていた。颯玄の頭の中では、身贔屓ということでなく真栄田のほうが強いと感じていたのだ。
そう思ったら自然に足が前に出ていて、この場で湖城に立ち合いを希望した。戦いを今終えたばかりの湖城は少々驚いたが、みんなの前で挑戦されれば逃げるわけにはいかない。
だが、湖城は今、戦いが終わったばかりだ。疲れが残っているかもしれない状態で今、戦って勝っても公平な条件とは言えない。そのことは颯玄にも分かっていたので2日後という約束をした。
勝ってもおごることにない湖城の言葉と雰囲気に冷静さを取り戻した颯玄は、少し勇み足になっていた自分を恥じていた。でも、初めての掛け試しの相手が決まり、そこでは祖父から稽古停止を言い渡されていることをすっかり忘れていた。
上原は颯玄の無茶ぶりについて忠告したが、湖城と約束した以上、それを止めることはできない。2人が別れ、颯玄が家に帰った時、やたら明るいので両親は不思議がっていたが、その理由を尋ねることは無かった。颯玄は心が満たされていたので、食事を済ませた後はすぐに横になった。
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