11 / 92
稽古再開 6
しおりを挟む
座学といっても、学校のような黒板があるわけではない。いつも祖父が一人でくつろいでいる部屋でのことだ。また、まさか学校のような時間になるとは思っていなかったので、筆記具も持っていない。
となると、聞いた話は頭の中に入れなければならない。
ただ、颯玄は学校の勉強でも優秀なほうだ。勉強が嫌いという性格ではない。だから座学と聞いて拒否反応を示したのは、意外な話に戸惑ってのことと、自分の期待と異なった展開になったことへの不満が理由だった。
だから、さっき祖父に対して自分の思いを言えたことで、すでに心の大部分は落ち着いている。
となると、祖父がどんな話をしてくれるかに興味は移っていた。
祖父と颯玄の間には机もない。その雰囲気からは座学という感じにもならないが、颯玄にとっては興味深い空手に関係する話だけに、ただの雑談といった状態ではない。祖父、颯玄ともにいつもここで話している時とは空気感も違っていた。
「颯玄、昨日わしが見せた形だが、名前は言っていなかったな。四方拝という」
「どういう字になるの」
「うむ、そこから気になるか? 良い良い。そういう意識が学びには大切だ。前後左右という意味の四方に、拝むといった意味で使われる拝という漢字が使われる」
「あっ、だから形の動きが4つの方向になったのか」
颯玄は早速昨日見せてもらった形とのつながりを見つけた。
「そういう意識で話を聞くことができれば、わしが座学の必要性を意識することも自然に分かるだろう」
祖父は颯玄の学ぶ姿勢に対して誉めたが、こういうことは物事に対して集中させるには効果的だ。颯玄の学び心をうまく刺激している。
それが功を奏したのか、颯玄から質問が出た。
「それなら拝にはどういう意味があるの?」
だんだん颯玄が聞く姿勢になっていることに、祖父は心の中で喜んでいた。座学というのは、身体を動かすことが好きな人間にとって退屈さを感じることが多くなるが、それでは武術家として大成しない。先ほど文武両道の意識を説いた祖父だが、さっそくその話が効いているのかもと思い、内心喜んでいた。
「良い質問だ。そのことを理解するには、四方拝のことをもう少し理解しなければならない。実はこの形は武術としての性格だけでなく、儀礼形という性格も持っている。この形は琉球王朝の祝い事の席上で演じられていたと言われ、四方拝には天の四神に対して拝する、という意味があるんだ。天の四神というのは東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武を言い、その神々に対して感謝や祈りを込めて行なうのだ」
「そうか、でも、神様に対して突くという攻撃のための技を出しても良いの。神様、怒らないのかな」
とても純粋な質問だ。良い感性を持っていると感じた祖父は、座学ということで一方的自分から話すのではなく、この様に颯玄の疑問を引き出し、それに対して答える形式を取ることにした。その時の颯玄の目の色が先ほどとは違っていたからだ。
となると、聞いた話は頭の中に入れなければならない。
ただ、颯玄は学校の勉強でも優秀なほうだ。勉強が嫌いという性格ではない。だから座学と聞いて拒否反応を示したのは、意外な話に戸惑ってのことと、自分の期待と異なった展開になったことへの不満が理由だった。
だから、さっき祖父に対して自分の思いを言えたことで、すでに心の大部分は落ち着いている。
となると、祖父がどんな話をしてくれるかに興味は移っていた。
祖父と颯玄の間には机もない。その雰囲気からは座学という感じにもならないが、颯玄にとっては興味深い空手に関係する話だけに、ただの雑談といった状態ではない。祖父、颯玄ともにいつもここで話している時とは空気感も違っていた。
「颯玄、昨日わしが見せた形だが、名前は言っていなかったな。四方拝という」
「どういう字になるの」
「うむ、そこから気になるか? 良い良い。そういう意識が学びには大切だ。前後左右という意味の四方に、拝むといった意味で使われる拝という漢字が使われる」
「あっ、だから形の動きが4つの方向になったのか」
颯玄は早速昨日見せてもらった形とのつながりを見つけた。
「そういう意識で話を聞くことができれば、わしが座学の必要性を意識することも自然に分かるだろう」
祖父は颯玄の学ぶ姿勢に対して誉めたが、こういうことは物事に対して集中させるには効果的だ。颯玄の学び心をうまく刺激している。
それが功を奏したのか、颯玄から質問が出た。
「それなら拝にはどういう意味があるの?」
だんだん颯玄が聞く姿勢になっていることに、祖父は心の中で喜んでいた。座学というのは、身体を動かすことが好きな人間にとって退屈さを感じることが多くなるが、それでは武術家として大成しない。先ほど文武両道の意識を説いた祖父だが、さっそくその話が効いているのかもと思い、内心喜んでいた。
「良い質問だ。そのことを理解するには、四方拝のことをもう少し理解しなければならない。実はこの形は武術としての性格だけでなく、儀礼形という性格も持っている。この形は琉球王朝の祝い事の席上で演じられていたと言われ、四方拝には天の四神に対して拝する、という意味があるんだ。天の四神というのは東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武を言い、その神々に対して感謝や祈りを込めて行なうのだ」
「そうか、でも、神様に対して突くという攻撃のための技を出しても良いの。神様、怒らないのかな」
とても純粋な質問だ。良い感性を持っていると感じた祖父は、座学ということで一方的自分から話すのではなく、この様に颯玄の疑問を引き出し、それに対して答える形式を取ることにした。その時の颯玄の目の色が先ほどとは違っていたからだ。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。
BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。
だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。
女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね?
けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
婚約したがっていると両親に聞かされ大事にされること間違いなしのはずが、彼はずっととある令嬢を見続けていて話が違いませんか?
珠宮さくら
恋愛
レイチェルは、婚約したがっていると両親に聞かされて大事にされること間違いなしだと婚約した。
だが、その子息はレイチェルのことより、別の令嬢をずっと見続けていて……。
※全4話。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。
ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる