105 / 174
内弟子物語 第Ⅴ話 ガン19
しおりを挟む
松池と龍田が帰った2日後、今度は堀田と高山が御岳の見舞いに行った。藤堂たちの情報から、御岳の様子だけでなくM市の楽しみ方も聞いていた2人は、もっと観光気分が強かった。
内弟子の性格の分布を見てみると、おとなしく冷静に行動するタイプが御岳と松池で、陽気ですぐはしゃぐのが龍田と堀田だ。高山はその中間くらいに位置する。
前回の組み合わせはバランスが良かったが、今回はちょっと気を許すと本来の目的である見舞いを忘れ、観光がメインになる可能性がある。だから、藤堂からしっかりと言い含められている。
もっとも、東京から離れたM市でのことだ。最終的には当人たちの意識に任せるしかないが、御岳の調子が良いだけに、変なはしゃぎ方にならないよう注意を受けていたのだ。
案の定、駅から降り立った堀田が最初に口にした言葉は、御岳の容体ではなく蕎麦屋のことだった。
「高山さん。お蕎麦屋さんに行きません?」
だが、高山は堀田を制した。
「堀田君、とりあえず蕎麦屋さんのことは後にしよう。一番の目的は御岳さんの見舞いだから、まずそっちへ行こう」
高山も蕎麦屋が気にはなっていたが、今回の目的はあくまでも見舞いだ。それが済まないことには先はない。内弟子としては堀田が先輩になるが、年齢は高山が上だ。大人としての意識がしっかり働いていた。
先発組と同様、まずホテルの確認をした。そこから病院まで徒歩で行くことにしたが、例の蕎麦屋は途中にあるので、その場所も確認した。寄り道というわけではないので、それは高山も同意してのことだ。
初めての街なので、いろいろ捜しながら歩き、ホテルから20分くらいで病院に着いた。
今回も御岳は待合室で待っていたが、前回のように遅くはならなかったので、御岳が病室に戻るようなことにはならなかった。
お互いにすぐに見つけ、挨拶した。
「元気そうですね」
「ありがとう。わざわざ遠いところまで、よく来てくれたね」
嬉しそうな顔で2人を迎えた御岳。頭髪の様子を除いては、東京にいた頃の感じになっていた。話として状況は聞いていても、実際に会うとその様子が実感できる。高山と堀田にわずかに残っていた心配も、一気に払拭された。
ここでは他の患者さんもいるからと、御岳は2人を談話室のほうに案内した。着いたらまず、高山が様子を尋ねた。
「どうですか、身体の調子は?」
「入院中はほとんど横になっているばかりだったからね。以前より体力はずいぶん落ちたよ。薬の副作用のせいだろうけれど、ふらつきがあったり、足に力が入らない感じかな。でも、内弟子として身体を鍛えていたおかげで、回復は他の人と比べて順調だと先生は言っていた。やっぱり、これまでのことがプラスに作用しているね」
その言葉にはしっかりとした力強さがあった。話を聞いた2人は、御岳の様子から内弟子復帰を信じて疑わなかった。
「ところで、慎吾や進から話は聞いた?」
「えっ? 何ですか?」
堀田が尋ねた。
「蕎麦屋さんのことだよ。この前2人が来た時、そのお店の話をしたら、病院から帰る時に探して食べてきたと言っていた。東京に帰る前にも見舞いに来てくれたけど、その時に聞いたんだ。2人も行くんでしょう?」
「はい」
堀田が明るく答えた。その表情は病気の見舞いに来た人のものではなく、単なる観光客の顔だった。
「賢は正直だね。前の2人もとても満足していたので、チャレンジしてみるといいよ。龍田君は50杯いかなかったというから、それを超えるつもりで行ったら?」
「はい、そうします」
堀田が答えた。傍らでは高山が顔をしかめた。
「堀田君、ちょっとは控えないと」
高山がたしなめた。やはり大人としての意識が働いている。
「ところで、退院はいつ頃ですか?」
高山が尋ねた。
「まだ正式に聞いたわけではないけど、そう遠くないと思う。でも、体力のことがあるのですぐに内弟子復帰は無理だけど、医者から普通の日常生活が送れる状態と言われたら、また東京に行くよ。その時はよろしく。たぶん、空手のほうはしばらく一緒にできないと思うけど、整体の勉強はできるからね」
その後、龍田たちがやってきた時の話や、東京でのことなどをいろいろ話し、1時間ほど経過した。
話が一区切りついたところで、2人は御岳の疲れを気遣って、病院を後にした。
内弟子の性格の分布を見てみると、おとなしく冷静に行動するタイプが御岳と松池で、陽気ですぐはしゃぐのが龍田と堀田だ。高山はその中間くらいに位置する。
前回の組み合わせはバランスが良かったが、今回はちょっと気を許すと本来の目的である見舞いを忘れ、観光がメインになる可能性がある。だから、藤堂からしっかりと言い含められている。
もっとも、東京から離れたM市でのことだ。最終的には当人たちの意識に任せるしかないが、御岳の調子が良いだけに、変なはしゃぎ方にならないよう注意を受けていたのだ。
案の定、駅から降り立った堀田が最初に口にした言葉は、御岳の容体ではなく蕎麦屋のことだった。
「高山さん。お蕎麦屋さんに行きません?」
だが、高山は堀田を制した。
「堀田君、とりあえず蕎麦屋さんのことは後にしよう。一番の目的は御岳さんの見舞いだから、まずそっちへ行こう」
高山も蕎麦屋が気にはなっていたが、今回の目的はあくまでも見舞いだ。それが済まないことには先はない。内弟子としては堀田が先輩になるが、年齢は高山が上だ。大人としての意識がしっかり働いていた。
先発組と同様、まずホテルの確認をした。そこから病院まで徒歩で行くことにしたが、例の蕎麦屋は途中にあるので、その場所も確認した。寄り道というわけではないので、それは高山も同意してのことだ。
初めての街なので、いろいろ捜しながら歩き、ホテルから20分くらいで病院に着いた。
今回も御岳は待合室で待っていたが、前回のように遅くはならなかったので、御岳が病室に戻るようなことにはならなかった。
お互いにすぐに見つけ、挨拶した。
「元気そうですね」
「ありがとう。わざわざ遠いところまで、よく来てくれたね」
嬉しそうな顔で2人を迎えた御岳。頭髪の様子を除いては、東京にいた頃の感じになっていた。話として状況は聞いていても、実際に会うとその様子が実感できる。高山と堀田にわずかに残っていた心配も、一気に払拭された。
ここでは他の患者さんもいるからと、御岳は2人を談話室のほうに案内した。着いたらまず、高山が様子を尋ねた。
「どうですか、身体の調子は?」
「入院中はほとんど横になっているばかりだったからね。以前より体力はずいぶん落ちたよ。薬の副作用のせいだろうけれど、ふらつきがあったり、足に力が入らない感じかな。でも、内弟子として身体を鍛えていたおかげで、回復は他の人と比べて順調だと先生は言っていた。やっぱり、これまでのことがプラスに作用しているね」
その言葉にはしっかりとした力強さがあった。話を聞いた2人は、御岳の様子から内弟子復帰を信じて疑わなかった。
「ところで、慎吾や進から話は聞いた?」
「えっ? 何ですか?」
堀田が尋ねた。
「蕎麦屋さんのことだよ。この前2人が来た時、そのお店の話をしたら、病院から帰る時に探して食べてきたと言っていた。東京に帰る前にも見舞いに来てくれたけど、その時に聞いたんだ。2人も行くんでしょう?」
「はい」
堀田が明るく答えた。その表情は病気の見舞いに来た人のものではなく、単なる観光客の顔だった。
「賢は正直だね。前の2人もとても満足していたので、チャレンジしてみるといいよ。龍田君は50杯いかなかったというから、それを超えるつもりで行ったら?」
「はい、そうします」
堀田が答えた。傍らでは高山が顔をしかめた。
「堀田君、ちょっとは控えないと」
高山がたしなめた。やはり大人としての意識が働いている。
「ところで、退院はいつ頃ですか?」
高山が尋ねた。
「まだ正式に聞いたわけではないけど、そう遠くないと思う。でも、体力のことがあるのですぐに内弟子復帰は無理だけど、医者から普通の日常生活が送れる状態と言われたら、また東京に行くよ。その時はよろしく。たぶん、空手のほうはしばらく一緒にできないと思うけど、整体の勉強はできるからね」
その後、龍田たちがやってきた時の話や、東京でのことなどをいろいろ話し、1時間ほど経過した。
話が一区切りついたところで、2人は御岳の疲れを気遣って、病院を後にした。
30
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる