101 / 174
内弟子物語 第Ⅴ話 ガン15
しおりを挟む
藤堂は御岳の目が生きていることで、このような言葉を発した。つまり、病人によく言う決まり文句としての挨拶ではなく、目の輝きが藤堂をして元気、と言わしめたのだ。
「先生。入院中、頭のほうがちょっと寂しくなりました」
抜けた頭髪のことを御岳自身の口から言ったが、藤堂はとっくに知っている。
「薬の副作用で抜けているだけだから、治療が終わればまた生えてくる。気にするな。それよりも今は病気を治すことが第一だ。…その後、担当の先生から何か聞いたかい?」
「はい。経過は良好だそうです。この調子だと予定通りか、場合によっては少し退院が早まるかもしれない、ということでした」
御岳は嬉しそうに話した。その様子に両親も嬉しそうだった。
「そうか、それは良かった。がんばった甲斐があったな。内弟子として鍛えた精神力、少しは役に立ったかな」
「そうだと思います。先生のお顔を拝見し、また元気が出てきました。今からでもすぐに稽古をしたい気分です」
見た目と気力の良い意味のアンバランスが感じられた。この気力の向いている方向にどんどん引っ張られていけば、と藤堂は期待した。だが、実際にできるかどうかは別だ。しっかり順序を踏まえるよう諭した。
「おいおい、それは性急すぎるよ。気持ちは結構だが、退院しても体力の回復を図らなければならない。その辺りは癒しを学んだ者として、しっかり自重するように」
ここは癒し家の顔で言った。もちろん、御岳自身もそれは十分分かっていた。ただ、今の心境を藤堂にも分かってもらいたかったのだ。そして、それは藤堂にも分かっていた。だが、そこは師として今、一番大事なことを理解してほしかったのだ。
「ほら、先生もおっしゃったでしょう」
母親が言った。母親の言葉の裏には、藤堂が見舞いに来ることになって、御岳の精神状態は大きくプラス方向に転じ、退院したい、退院したらまた内弟子として頑張る、ということを盛んに言うようになっていたからだ。
「はい、分かりました。今回のことではいろいろ勉強になりました。今はそこで学んだことを、これからどう活かせるかを積極的に考えていこうと思っています」
御岳の力強い返事に藤堂は安心した。ガンの経過が良好なこともさることながら、御岳の精神力が強くなったことが嬉しかった。
「実はここに来るまで、もう少ししょげている御岳君を想像していたが、良かったよ。東京に帰ってみんなにしっかり話しておく。次の見舞いは龍田君と松池君を考えている。その次が堀田君と高山君という具合に、2人ずつで予定している。元気な顔を見せてもらったら、喜ぶと思うよ」
「みんなに『待っています』と伝えてください。また会えることを楽しみにしています」
御岳のこの言葉を聞き、その後30分ほど雑談を交わし、藤堂は病院を出た。
「先生。入院中、頭のほうがちょっと寂しくなりました」
抜けた頭髪のことを御岳自身の口から言ったが、藤堂はとっくに知っている。
「薬の副作用で抜けているだけだから、治療が終わればまた生えてくる。気にするな。それよりも今は病気を治すことが第一だ。…その後、担当の先生から何か聞いたかい?」
「はい。経過は良好だそうです。この調子だと予定通りか、場合によっては少し退院が早まるかもしれない、ということでした」
御岳は嬉しそうに話した。その様子に両親も嬉しそうだった。
「そうか、それは良かった。がんばった甲斐があったな。内弟子として鍛えた精神力、少しは役に立ったかな」
「そうだと思います。先生のお顔を拝見し、また元気が出てきました。今からでもすぐに稽古をしたい気分です」
見た目と気力の良い意味のアンバランスが感じられた。この気力の向いている方向にどんどん引っ張られていけば、と藤堂は期待した。だが、実際にできるかどうかは別だ。しっかり順序を踏まえるよう諭した。
「おいおい、それは性急すぎるよ。気持ちは結構だが、退院しても体力の回復を図らなければならない。その辺りは癒しを学んだ者として、しっかり自重するように」
ここは癒し家の顔で言った。もちろん、御岳自身もそれは十分分かっていた。ただ、今の心境を藤堂にも分かってもらいたかったのだ。そして、それは藤堂にも分かっていた。だが、そこは師として今、一番大事なことを理解してほしかったのだ。
「ほら、先生もおっしゃったでしょう」
母親が言った。母親の言葉の裏には、藤堂が見舞いに来ることになって、御岳の精神状態は大きくプラス方向に転じ、退院したい、退院したらまた内弟子として頑張る、ということを盛んに言うようになっていたからだ。
「はい、分かりました。今回のことではいろいろ勉強になりました。今はそこで学んだことを、これからどう活かせるかを積極的に考えていこうと思っています」
御岳の力強い返事に藤堂は安心した。ガンの経過が良好なこともさることながら、御岳の精神力が強くなったことが嬉しかった。
「実はここに来るまで、もう少ししょげている御岳君を想像していたが、良かったよ。東京に帰ってみんなにしっかり話しておく。次の見舞いは龍田君と松池君を考えている。その次が堀田君と高山君という具合に、2人ずつで予定している。元気な顔を見せてもらったら、喜ぶと思うよ」
「みんなに『待っています』と伝えてください。また会えることを楽しみにしています」
御岳のこの言葉を聞き、その後30分ほど雑談を交わし、藤堂は病院を出た。
30
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる