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内弟子物語 第Ⅴ話 ガン9
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指定された日、御岳は病院を訪れた。受付で手続きを済ませ、病室へと案内された。そこは4人部屋で、すでに3人入院している。御岳が入ることで、この部屋は定員となった。
「御岳といいます。みなさん、よろしくお願いします」
眠っている人もいるので、小声で自己紹介と挨拶をした。他の入院患者はすべて年配の人ばかりで、御岳は一番若い。
一番年配と思われる人が声をかけた。
「楠田と言います。まだ若いのに、どこが悪いの?」
御岳は病名を言っていいかどうか一瞬、躊躇した。もし、同じ病気の人がいたら、その人の様子が分からないだけに、どう対応したらいいのか分からなかったからだ。
しかし、これから一緒に過ごす人たちだ。変に隠してもすぐに分かってしまうことでもあるし、本当のことを話すことにした。
「…はい、ガンです」
楠田のほうをしっかり見て、はっきり答えた。
「…ガン。…若いのに大変な病気になって…。ここにいる人はガンのように重い病気じゃない。一番若い人が、一番大変な病気だとは…。ここは良い先生が多いから、あんた、頑張りなさい」
楠田は驚きながらも、暖かく励ました。
「ありがとうございます。僕も早く退院できるよう、病気と闘います」
御岳は力強く答えた。
「あんた、若いのに心が座っているね。大したもんだ」
もう一人の入院患者、東が言った。
「そう言われると恥ずかしいのですが、最初に病名を聞いた時は自殺も考えたんです。でも、周りの人に励まされて、正面から戦うことにしました」
「若いのにしっかりしている」
「我々も見習わなくちゃ」
楠田と東は互いに顔を見合わせ、口々に言った。
御岳は挨拶代わりにと、持参してきたお菓子をみんなに配った。寝ている人の枕元に置いておくことも忘れなかった。
その間、看護師がベッドを整えていた。準備が済むと御岳は、持参したパジャマに着替え、横になった。
「ここがしばらく俺の場所か。今頃、みんなはどうしているだろうか」
ベットの上ではそういうことを考えていた。
入院後、数日間は検査が続いた。
検査の結果が出そろい、治療方針についての説明の日が来た。この日は御岳の両親も呼ばれており、3人で話を聞くことになった。
結果は東京で聞いた内容と同じで、ここでもよくこの段階で、しかも本人自身で見つけたということに驚かれた。極めて初期の段階であったということはそこでも分かったが、それだけにきちんと良い結果につながる期待が持てた。
御岳の両親の場合、医者から正式に話を聞くため、かなり緊張していたが、御岳自身は同じ内容だったので、確認といった感じだった。
「先生、信平は治りますか?」
母親が医者に尋ねた。こういう心配は、やはり母親のほうが強い。はっきり医者の口から、「大丈夫」という言葉を聞きたかったのだ。
医者のほうも、先ほどの検査結果を踏まえ、改めてそれを確認しつつ、この段階のものであれば心配はないと説明し、母親も安堵した。
結果に基づき、治療方針が説明された。
ガンの治療法としては大きく分けて外科的治療、放射線、化学療法といった3つがある。いわゆる「切る、焼く、殺す」といった方法だ。現場では単独よりも組み合わせて行なわれることが多く、ここでも放射線と化学療法の組み合わせになった。今回の場合、患部が切除しにくい位置にあるため、手術という方法は外された。また、将来の転移を防止する意味で、放射線だけでなく化学療法を併用することになった。
いずれも副作用がどれくらい身体に出てくるか分からないが、詳しい治療計画の説明を受け、まず治すことが大切という意識で治療を受ける心が固まった。
「御岳といいます。みなさん、よろしくお願いします」
眠っている人もいるので、小声で自己紹介と挨拶をした。他の入院患者はすべて年配の人ばかりで、御岳は一番若い。
一番年配と思われる人が声をかけた。
「楠田と言います。まだ若いのに、どこが悪いの?」
御岳は病名を言っていいかどうか一瞬、躊躇した。もし、同じ病気の人がいたら、その人の様子が分からないだけに、どう対応したらいいのか分からなかったからだ。
しかし、これから一緒に過ごす人たちだ。変に隠してもすぐに分かってしまうことでもあるし、本当のことを話すことにした。
「…はい、ガンです」
楠田のほうをしっかり見て、はっきり答えた。
「…ガン。…若いのに大変な病気になって…。ここにいる人はガンのように重い病気じゃない。一番若い人が、一番大変な病気だとは…。ここは良い先生が多いから、あんた、頑張りなさい」
楠田は驚きながらも、暖かく励ました。
「ありがとうございます。僕も早く退院できるよう、病気と闘います」
御岳は力強く答えた。
「あんた、若いのに心が座っているね。大したもんだ」
もう一人の入院患者、東が言った。
「そう言われると恥ずかしいのですが、最初に病名を聞いた時は自殺も考えたんです。でも、周りの人に励まされて、正面から戦うことにしました」
「若いのにしっかりしている」
「我々も見習わなくちゃ」
楠田と東は互いに顔を見合わせ、口々に言った。
御岳は挨拶代わりにと、持参してきたお菓子をみんなに配った。寝ている人の枕元に置いておくことも忘れなかった。
その間、看護師がベッドを整えていた。準備が済むと御岳は、持参したパジャマに着替え、横になった。
「ここがしばらく俺の場所か。今頃、みんなはどうしているだろうか」
ベットの上ではそういうことを考えていた。
入院後、数日間は検査が続いた。
検査の結果が出そろい、治療方針についての説明の日が来た。この日は御岳の両親も呼ばれており、3人で話を聞くことになった。
結果は東京で聞いた内容と同じで、ここでもよくこの段階で、しかも本人自身で見つけたということに驚かれた。極めて初期の段階であったということはそこでも分かったが、それだけにきちんと良い結果につながる期待が持てた。
御岳の両親の場合、医者から正式に話を聞くため、かなり緊張していたが、御岳自身は同じ内容だったので、確認といった感じだった。
「先生、信平は治りますか?」
母親が医者に尋ねた。こういう心配は、やはり母親のほうが強い。はっきり医者の口から、「大丈夫」という言葉を聞きたかったのだ。
医者のほうも、先ほどの検査結果を踏まえ、改めてそれを確認しつつ、この段階のものであれば心配はないと説明し、母親も安堵した。
結果に基づき、治療方針が説明された。
ガンの治療法としては大きく分けて外科的治療、放射線、化学療法といった3つがある。いわゆる「切る、焼く、殺す」といった方法だ。現場では単独よりも組み合わせて行なわれることが多く、ここでも放射線と化学療法の組み合わせになった。今回の場合、患部が切除しにくい位置にあるため、手術という方法は外された。また、将来の転移を防止する意味で、放射線だけでなく化学療法を併用することになった。
いずれも副作用がどれくらい身体に出てくるか分からないが、詳しい治療計画の説明を受け、まず治すことが大切という意識で治療を受ける心が固まった。
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