上 下
49 / 174

内弟子物語 第Ⅲ話 選挙という戦い16

しおりを挟む
 堀田か誰かが警察に電話をしただろうということは想像がついた。
「警察が到着するまで待つか。でも、この状況で見逃せば捕まらないかもしれない」
 この思いが高山に退く行動を取らせなかった。
 不審者はナイフで威嚇してきた。遠間なので切られたり刺されたりする恐れはない。そんな時、高山の脳裏にあることが浮かんだ。
「昔だったら、こんな場合どうだろうな。何とかしたいという気持ちはあっても、実際には手足が震えて動かないんじゃないのか」
 学生時代、粋がっていた頃の自分を思い出した。
 しかし、今は不思議と落ち着いている。昔のことを思い出して比較していることも、よく考えてみれば気持ちに余裕があるからだ。
 そう思うと、相手の動きがとてもスローモーに見えてきた。
「動きが分かる。ナイフも恐くない。ここに一発入れれば、相手はダウンする」
 そんなことが頭の中でしっかり映像となって現れる。
 だが、周囲はざわめいている。やはり周りはナイフに対する恐怖で一杯なのだ。
「今、この男は俺しか見ていないが、もし他の人に危害を加えるようであったらまずい」
 高山はそう思い、行動に出た。
 徐々に間合を詰める高山。その気迫に押されて不審者は少しずつ後退する。
 不審者の緊張の糸が切れ、ナイフを振り上げた。その瞬間、高山は一気に飛び込んだ。そして、動きを押さえるため、左手で相手の右手首を掴んだ。
 ナイフが振り下ろせない。その時、高山の下段回し蹴りが、不審者の右足の膝の内側にヒットした。
 ただ、この時の間合いは大変近いので、下段回し蹴りといっても、実際には膝蹴りに近く、その分威力も強烈なものになった。不審者は足元から崩れるというよりも、膝を両手で押さえ、痛みのためにわめきながら転げまわっている。もちろん、ナイフも手放しているので、もう危害を加えられる心配はなかった。
 下段蹴りがヒットした場所には「血海(ケッカイ)」というツボがあり、そこは急所でもある。だからここにうまく当たった場合、まず一発で足が動かなくなる。しかも今回は回し蹴りというより、ほぼ膝蹴りだ。鋭く急所に膝が食い込むような状態になったため、これを鍛練していない普通の人がもろに受ければ、尋常ではない威力となる。痛みのために転げまわるのも当然な状態だっのだ。
 高山が不審者を取り押さえようとした時、警察が到着した。到着した警官は、不審者があまりにも痛がっているため、大怪我をしているのではと逆に心配するほどの状態だった。
 だが、その様子を一部始終見ていた周囲の人から、高山は膝に一回蹴りを入れただけと聞かされ、警官の緊張も解けた様子だった。
 不審者はそのまま現行犯で逮捕され、痛めた足を引きずりながらパトカーに連行された。高山も事情聴取のため警察に行くことになったが、周囲の人の証言もあり、また、若林の関係者ということで午後の予定が一通り終了してからとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...