上 下
20 / 174

内弟子物語 第Ⅱ話 稽古6

しおりを挟む
 続いてもう1組の組手が始まったが、最初の組手に劣らず、迫力十分な内容だった。
 だが、両者の技は雑にならない。
 当てることをルールとした空手では、喧嘩のような試合になることも少なくない。だがここで行なわれている組手では、思いっきり当てていながら空手道の技としてコントロールされている。
 残心もきちんとあるし、肘が開くといったこともない。その部分だけを見ていると、学生時代の空手を思い出すが、技の威力、迫力から言えばその比ではない。もし防具がなければ、と思うと背筋がゾッとするほどのものなのだ。
「実際に当てる、というのはこれだけ深く踏み込むのか」
 高山は2つの組手を見てそう思った。
「今まで『当てている』と思っていたのは、ちょっと触れている、といった程度だったんだ」
 改めて学生時代の空手との違いを実感していた。
 同時に、こんな激しい稽古をして身体は大丈夫か心配になった。先ほど組手を終了した2人を見ると、怪我らしい怪我はなかった。高山は龍田に尋ねた。
「怪我はありませんか?」
「ありがとう。全然問題ないよ。『当てる』ということを前提にやっているから、良い意味で緊張して、無意識のうちに怪我しないような身体の動きになるんだよ」
 高山はここではじめて当てる空手の意味が分かった。そして学生時代、当てる空手と粋がって後輩に話していた自分を恥じるのだった。

 
 一通り組手が終わり、稽古は終了した。
 道場の清掃の後、一般の稽古生たちは帰っていった。道場内には藤堂をはじめ、内弟子たちが残っていた。
「高山君。今日は君の歓迎会を内弟子たちと行なうことになっているので出席しなさい」
 これまでと一変し、最初に会った時の表情で藤堂が言った。
「はい」
 藤堂の誘いに高山は嬉しそうに答えた。
 道場に近い居酒屋の店内。
 稽古を終えた藤堂、高山、その他4名の計6名がテーブルを囲んでいた。
「お疲れ様。さて、今日からみんなの仲間が一人増える。高山誠君だ。よろしく頼む」
 藤堂の挨拶から会が始まった。先ほど、みんなの稽古を見学し、まだ興奮が冷めない高山は立ち上がって、少しうわずった声で自己紹介を行なった。
「今、先生からご紹介いただいた高山誠です。今日から内弟子の一人として、一緒に稽古させていただきます。よろしくお願いします」
 深々と一礼した。
「高山さんって、何やってたんですか?」
 稽古の時に高山とちょっと話した龍田が質問した。高山は藤堂の本を読んだ時のことから空手に関する考え、あるいはここに来るまでの紆余曲折を話した。他の内弟子も大なり小なり似たような経緯でここにいるため、その流れはしっかり理解してもらうことができた。
「俺と似ている」
「僕も何度も断られましたよ」
 口々に同じような体験をしたことが出てきた。
「入門できるのなら、もっと早く言って欲しかったですよ、先生」
 龍田が言った。
「お前は素行に問題があるんじゃないかと先生は心配されたんだよ。最初からOKになるわけないよ」
 御岳が苦笑しながら言った。
「そりゃそうですよね」
 今度は龍田が苦笑いをした。他のメンバーも、同調するかのように爆笑した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ
青春
発展しすぎた科学技術が猛威を振るった世界規模の大戦によって、惑星アースは衰退の一途を辿り、争いはなくなったものの誰もが未来に希望を持てずにいた。そんな世界で、ユースケは底抜けに明るく、誰よりも能天気だった。 大切な人を失い後悔している人、家庭に縛られどこにも行けない友人、身体が極端に弱い妹、貧しさに苦しみ続けた外国の人、これから先を生きていく自信のない学生たち、そして幼馴染み……。 ユースケの人柄は、そんな不安や苦しみを抱えた人たちの心や人生をそっと明るく照らす。そしてそんな人たちの抱えるものに触れていく中で、そんなもの吹き飛ばしてやろうと、ユースケは移住先として注目される希望の惑星ラスタージアへと手を伸ばしてもがく。 「俺が皆の希望を作ってやる。皆が暗い顔している理由が、夢も希望も見られないからだってんなら、俺が作ってやるよ」 ※この作品は【NOVEL DAYS】というサイトにおいても公開しております。内容に違いはありません。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

僕は君だけの神様

神原オホカミ【書籍発売中】
青春
屋上から天国へと行こうとした美空は、柵の先にいた先人に思わず「止めて」と声をかける。振り返ったその人は、学内でも人気の生徒会長だった。 すると生徒会長は、自分は神様だと言い「君の寿命は、あと三ヶ月。さあ、どうする?」と聞いてきて――。 生きることが不器用な少女の、青春をテーマにした物語です。 ※注意※ 2020年執筆作品 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。

#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき
青春
 2050年、地球の自転が止まってしまった。地球の半分は永遠の昼、もう半分は永遠の夜だ。  高校1年の蛍(ケイ)は、永遠の夜の街で暮らしている。不眠症に悩む蛍が密かに想いを寄せているのは、星のように輝く先輩のひかりだった。  ある日、ひかりに誘われて寝台列車に乗った蛍。二人で見た朝焼けは息をのむほど美しかった。そこで蛍は、ひかりの悩みを知る。卒業したら皆が行く「永遠の眠り」という星に、ひかりは行きたくないと言うのだ。  蛍は、ひかりを助けたいと思った。天文部の仲間と一緒に、文化祭でプラネタリウムを作ったり、星空の下でキャンプをしたり。ひかりには行ってほしいけれど、行ってほしくない。楽しい思い出が増えるたび、蛍の胸は揺れ動いた。  でも、卒業式の日はどんどん近づいてくる。蛍は、ひかりに想いを伝えられるだろうか。そして、ひかりは眠れるようになるだろうか。  永遠の夜空に輝くひとつの星が一番明るく光るとき。蛍は、ひかりの驚くべき秘密を知ることになる――。

オタクの我とあいつ

鴨乃マキヤ
青春
<我氏、ご報告させていただきます> <恋人が出来ました>      高1のオタクである優の唯一の友人、零に春と同時に『春』がきたご様子。  3年間、親友として隣にいた優はかなりショックを受けてしまい?! 「なんで、こんなに胸が痛いんだよ」  美形な恋人さんに嫉妬したり、幼馴染に慰められたり、そっぽ向いたり、現実逃避したりながら優は零に対する自分の気持ちに気づいていく。    オタクな優・天然真面目な零・麻雀中毒な幼馴染・吹奏楽部マッスル(?)な妹などの癖強めな変人がお送りする、涙も笑顔も怒りも笑いも詰め込みました(?)な物語です。 「なんか、うっさいわ!」っていう話も 「なんか、シリアスすぎだろ!」っていう話も 「グダつきすぎだわ!」って話も色々ありますが、 そういう奴もいるんかもな(白目)で構わないのでね 許してちょというカンジです。 *優も零も性別は特に決めてないので色々妄想してください(意味深)*  

fruit tarte

天ノ谷 霙
青春
退屈な毎日に抱える悩み。そんな悩みを吹き飛ばしませんか? それと一緒にご注文をどうぞ。 ああっ!ただしご注意、中にはとっても甘い物に紛れて「塩」や「ビターチョコレート」が隠れているかもしれません。 もしかすると、「薬」や「毒」までもを飲み込んでいるかもしれません。 でもご安心を。そんな時は味見をしてすぐにやめれば良いのです。 さぁ、いらっしゃいませ。本日はどのような味をお探しですか?

東京ケモミミ学園

楠乃小玉
青春
学校に遅刻しそうになった武は全速力で道を走っていた。 その前に突如現れたのは「遅刻!遅刻~!」 と叫びながら口にお腹にパンパンにイクラがつまった紅ジャケをくわえた モッフモフの尾をもった狐さんだった。 狐娘さんの豊満なオッパイが武の目の前に!

処理中です...