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帰還編
勇者の婚礼 (4)
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ライナスを封印から解放して封印水晶を拾ったときに称号がついたのだろうか。お姫さまの称号は今はどうなっているのだろうかと、ふと思った。
「フィー、今度は反対の手をかざしてみて」
「はい」
相変わらず意図がわからない。けど、言われたとおりに手をかざす。そして驚いた。
「あれ?」
「やっぱりそうか。でも、これじゃないなあ」
逆の手をかざしたときと、表示が変わった。変わったというか、増えた。
私自身の情報の後ろに、祝福された指輪が「神聖具」として表示されたのだ。指輪による転移は、神聖スキルだったらしい。私の指輪には、スキルの欄に括弧書きで「使用済み」と記載されている。さらにその後ろに小さな文字で「ただし新しく祝福用タペストリーを奉納するか、指輪に対して上級回復魔法を使用することにより再度使用可」と書かれていた。
「え。何これ」
転移は一回限りじゃなかったのか。いぶかしく思いながらも、試しに指輪に上級回復魔法をかけてみてから鑑定板にもう一度手をかざしてみると、指輪のスキルの説明内にあった括弧書きが消えていた。
「一回限りどころか、使い放題じゃないの……」
「まあ、普通は上級回復魔法なんて使えないから」
ライナスはそう言って笑い、「さすがフィー」と言いながらなぜか得意そうな顔をする。
そしてライナスは持参した革袋の中から、入れてあったものを次々に取り出しては鑑定板にかざし始めた。ライナスの着ていた神官服、私の着ていた神官服、父の字で王さまの罪が書かれた例の本。
ここまできてやっと、私にもライナスが何を確かめようとしているのかがわかった。私たちが伯父さまのもとに転移したのは、私かライナス自身、あるいはあのとき身につけていた品物のどれかのスキルではないかと彼は考えたのだ。
鑑定板は神官服には反応を示さなかったが、本は「神聖具:裁きの書」として情報が表示された。果たしてそこには、転移のスキルが記されていたというわけだ。
「これだな」
「うん。ライ、すごい」
しかしこの転移スキルは、用途が限定されすぎているというか、使用者と発動の条件が厳しすぎて非常に使い勝手が悪そうだった。何しろ「ローデン家の後継者がこの書を最初から最後まで読み上げたとき、ローデン家当主のもとに転移する」というスキルなのだ。いくら転移が便利そうでも、この量を何度も読み上げたくはない。
でもこれでこの本がただの本ではないことがわかったし、あのときの転移は本のスキルだったこともわかった。他にも使い道のあるスキルならよかったのに、と残念に思った私は、ついこぼしてしまった。
「これ、全部読まなくても転移できるなら使い道ありそうなのにね」
「できるかもよ」
「無理でしょ。はっきりと『最初から最後まで』って書いてあるもの」
ライナスは鑑定板にある説明文を指で示しながら、にやりと笑って「でも『全部』とは書いてない」と言った。確かに書かれてはいない。だからと言って、そんな姑息な手が通用するものだろうか。そうは思ったけれども、ダメでもともとだ。
「試してみましょうか。どれどれ」
試しに最初のページと最後のページだけ小さい声で読み上げたところ、案の定、何も起きない。やっぱり、と思いつつも少々がっかりしながら本を閉じると、ふわりと自分の身体が浮き上がったのを感じて焦った。姑息この上ない手が通用してる! しかもライナスと手をつないでいないから、ひとりで転移してしまいそうだ。
あわてた私がライナスに「すぐ戻るから、待ってて」と早口に声をかけた次の瞬間、視界が暗転し、また明るくなったと思ったら、目を丸くしている伯父さまの前に立っていた。
「ちょっと神聖具の実験中です。後でちゃんとご説明しますけど、今はライのところに戻りますね」
「え? 神聖具の実験とは何のことだね?」
「ごめんなさい、また後で!」
まともに何も説明しないまま、結婚指輪に願ってライナスのもとに転移してしまった。
ライナスのところに戻ると、彼はすでに荷物をすべて革袋に詰め込み終わって私を待ち構えていた。私が姿を現すと同時に手をとって、出口に向かって早足で歩き始める。鑑定板は大神殿の奥まった場所にあるから、周囲にあまり人目はない。でも見ていた人がいないとも言い切れないので、私も黙って小走りに彼について行った。
「焦った……」
「うん。私も」
ぽつりとこぼしたライナスに、私も同意する。転移するところを誰かに見られていたらどうしようかと緊張していたのに、馬のところまで無事たどり着くと何だかおかしくなって笑いがこぼれてきた。つられたようにライナスも笑い出す。
「使えちゃったわね」
「うん」
屋敷に戻って伯父さまに報告し、その後ジムさんにも話し、何度か実験を重ねた末、封印決行日の移動に利用することになったのだった。
「フィー、今度は反対の手をかざしてみて」
「はい」
相変わらず意図がわからない。けど、言われたとおりに手をかざす。そして驚いた。
「あれ?」
「やっぱりそうか。でも、これじゃないなあ」
逆の手をかざしたときと、表示が変わった。変わったというか、増えた。
私自身の情報の後ろに、祝福された指輪が「神聖具」として表示されたのだ。指輪による転移は、神聖スキルだったらしい。私の指輪には、スキルの欄に括弧書きで「使用済み」と記載されている。さらにその後ろに小さな文字で「ただし新しく祝福用タペストリーを奉納するか、指輪に対して上級回復魔法を使用することにより再度使用可」と書かれていた。
「え。何これ」
転移は一回限りじゃなかったのか。いぶかしく思いながらも、試しに指輪に上級回復魔法をかけてみてから鑑定板にもう一度手をかざしてみると、指輪のスキルの説明内にあった括弧書きが消えていた。
「一回限りどころか、使い放題じゃないの……」
「まあ、普通は上級回復魔法なんて使えないから」
ライナスはそう言って笑い、「さすがフィー」と言いながらなぜか得意そうな顔をする。
そしてライナスは持参した革袋の中から、入れてあったものを次々に取り出しては鑑定板にかざし始めた。ライナスの着ていた神官服、私の着ていた神官服、父の字で王さまの罪が書かれた例の本。
ここまできてやっと、私にもライナスが何を確かめようとしているのかがわかった。私たちが伯父さまのもとに転移したのは、私かライナス自身、あるいはあのとき身につけていた品物のどれかのスキルではないかと彼は考えたのだ。
鑑定板は神官服には反応を示さなかったが、本は「神聖具:裁きの書」として情報が表示された。果たしてそこには、転移のスキルが記されていたというわけだ。
「これだな」
「うん。ライ、すごい」
しかしこの転移スキルは、用途が限定されすぎているというか、使用者と発動の条件が厳しすぎて非常に使い勝手が悪そうだった。何しろ「ローデン家の後継者がこの書を最初から最後まで読み上げたとき、ローデン家当主のもとに転移する」というスキルなのだ。いくら転移が便利そうでも、この量を何度も読み上げたくはない。
でもこれでこの本がただの本ではないことがわかったし、あのときの転移は本のスキルだったこともわかった。他にも使い道のあるスキルならよかったのに、と残念に思った私は、ついこぼしてしまった。
「これ、全部読まなくても転移できるなら使い道ありそうなのにね」
「できるかもよ」
「無理でしょ。はっきりと『最初から最後まで』って書いてあるもの」
ライナスは鑑定板にある説明文を指で示しながら、にやりと笑って「でも『全部』とは書いてない」と言った。確かに書かれてはいない。だからと言って、そんな姑息な手が通用するものだろうか。そうは思ったけれども、ダメでもともとだ。
「試してみましょうか。どれどれ」
試しに最初のページと最後のページだけ小さい声で読み上げたところ、案の定、何も起きない。やっぱり、と思いつつも少々がっかりしながら本を閉じると、ふわりと自分の身体が浮き上がったのを感じて焦った。姑息この上ない手が通用してる! しかもライナスと手をつないでいないから、ひとりで転移してしまいそうだ。
あわてた私がライナスに「すぐ戻るから、待ってて」と早口に声をかけた次の瞬間、視界が暗転し、また明るくなったと思ったら、目を丸くしている伯父さまの前に立っていた。
「ちょっと神聖具の実験中です。後でちゃんとご説明しますけど、今はライのところに戻りますね」
「え? 神聖具の実験とは何のことだね?」
「ごめんなさい、また後で!」
まともに何も説明しないまま、結婚指輪に願ってライナスのもとに転移してしまった。
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「焦った……」
「うん。私も」
ぽつりとこぼしたライナスに、私も同意する。転移するところを誰かに見られていたらどうしようかと緊張していたのに、馬のところまで無事たどり着くと何だかおかしくなって笑いがこぼれてきた。つられたようにライナスも笑い出す。
「使えちゃったわね」
「うん」
屋敷に戻って伯父さまに報告し、その後ジムさんにも話し、何度か実験を重ねた末、封印決行日の移動に利用することになったのだった。
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