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帰還編
裁きの天使 (4)
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この本は、ジムさんと伯父さまがまとめ上げたものだ。王さまの犯してきた間違いとそれが引き起こした結果が、時系列に書かれている。なかなかすごい量だ。その中ほどには、両親の死に関わった例の魔獣ハンターの件も含まれている。
これを全部読むのかと思うと気が遠くなりそうだ。でもこのために今日という機会を設けてもらったのだから、頑張らなくては。
少々げんなりしながら最初のページを開いて、私は目をまたたいた。
そこには集計値が書かれていた。とりあえず、素直に読み上げる。
「殺された者の数、五百十三人。人生を破壊された者の数、のべ二万九千三百十四人」
具体的すぎる数字に、ちょっと引く。どうやって算出したのか知らないけど、執念がすごい。
ちらりと視界の端に王さまの姿を確認すると、見るからに物言いたげで、食ってかかって来そうな気配がびしばしする。読み上げる間くらい暴れず静かに聞いてほしいので、補助魔法の「沈黙」と「麻痺」をかけておいた。上級の補助魔法には、使いようによっては凶悪なものが結構ある。
「『殺された者の数』には、違法な行為により直接的または間接的に命を奪われた人間の数を計上した。法にのっとって処罰することにより命を奪われた人間の数は含まれない」
注意書きまで、妙に厳格だ。
でも今は、そんなことを気にしている場合じゃない。とにかく読み上げる。
王さまの最初の罪は、一番目のお妃さまを冤罪で処刑したこと。
現在の王妃さまである大国の王女を迎えるため、当時のお妃さまを不義密通および、国王暗殺の反逆罪という冤罪をかぶせて処刑した。しかも実家の力をそぐために、不義密通の相手として彼女の実兄を挙げ、一緒に処刑した。
彼女との間には娘がひとりいたが、実際にはれっきとした嫡出子であったにもかかわらず、近親相姦による私生子として彼女の処刑後に実家に引き渡した。この後、彼女の実家の者たちは生活に困窮することとなる。
この件で王さまに殺された者の数は二人、人生を破壊された者の数は九人。
こんな調子で、罪の記録が延々と続く。
よくもこれで「悪いことなどひとつもしたことがない」なんて言えるものだ。
それをひたすら読み上げる。
母を無理やり召し上げた件も、もちろん出てくる。
ただしこの件に関しては殺された者はなし、人生を破壊された者が七名いるだけ。
やがて両親と弟の死にかかわる例の魔獣ハンターが登場した。
あのハンターが初犯でなかったことは聞いていたけれども、本の記述によれば私たちの村で起きたあの事件の前にも、別の村で同様の事件を起こしていた。そしてそちらの村では、私たちの村とは比較にならない規模で被害が出ていた。
このハンターを、王さまが法を曲げて見逃したことで被害に遭って亡くなった者の数は二十六人、人生が破壊された者の数は七十五人。
目は本の文字を追っていたのに、私の口は勝手に言葉をつむいでいた。
「この死者二十六名のうちには、私たち夫婦と十一才だった息子が含まれています」
「つまり私たちはお前に人生を破壊された末に、殺されたというわけだ」
私のあとに流れるようにライナスが言葉を続けた。
その言葉を聞いた王さまは、顔色を悪くして目を見開き、何かを言おうとして口を開いたけれども「沈黙」が効いているから声は出なかった。
これを全部読むのかと思うと気が遠くなりそうだ。でもこのために今日という機会を設けてもらったのだから、頑張らなくては。
少々げんなりしながら最初のページを開いて、私は目をまたたいた。
そこには集計値が書かれていた。とりあえず、素直に読み上げる。
「殺された者の数、五百十三人。人生を破壊された者の数、のべ二万九千三百十四人」
具体的すぎる数字に、ちょっと引く。どうやって算出したのか知らないけど、執念がすごい。
ちらりと視界の端に王さまの姿を確認すると、見るからに物言いたげで、食ってかかって来そうな気配がびしばしする。読み上げる間くらい暴れず静かに聞いてほしいので、補助魔法の「沈黙」と「麻痺」をかけておいた。上級の補助魔法には、使いようによっては凶悪なものが結構ある。
「『殺された者の数』には、違法な行為により直接的または間接的に命を奪われた人間の数を計上した。法にのっとって処罰することにより命を奪われた人間の数は含まれない」
注意書きまで、妙に厳格だ。
でも今は、そんなことを気にしている場合じゃない。とにかく読み上げる。
王さまの最初の罪は、一番目のお妃さまを冤罪で処刑したこと。
現在の王妃さまである大国の王女を迎えるため、当時のお妃さまを不義密通および、国王暗殺の反逆罪という冤罪をかぶせて処刑した。しかも実家の力をそぐために、不義密通の相手として彼女の実兄を挙げ、一緒に処刑した。
彼女との間には娘がひとりいたが、実際にはれっきとした嫡出子であったにもかかわらず、近親相姦による私生子として彼女の処刑後に実家に引き渡した。この後、彼女の実家の者たちは生活に困窮することとなる。
この件で王さまに殺された者の数は二人、人生を破壊された者の数は九人。
こんな調子で、罪の記録が延々と続く。
よくもこれで「悪いことなどひとつもしたことがない」なんて言えるものだ。
それをひたすら読み上げる。
母を無理やり召し上げた件も、もちろん出てくる。
ただしこの件に関しては殺された者はなし、人生を破壊された者が七名いるだけ。
やがて両親と弟の死にかかわる例の魔獣ハンターが登場した。
あのハンターが初犯でなかったことは聞いていたけれども、本の記述によれば私たちの村で起きたあの事件の前にも、別の村で同様の事件を起こしていた。そしてそちらの村では、私たちの村とは比較にならない規模で被害が出ていた。
このハンターを、王さまが法を曲げて見逃したことで被害に遭って亡くなった者の数は二十六人、人生が破壊された者の数は七十五人。
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「この死者二十六名のうちには、私たち夫婦と十一才だった息子が含まれています」
「つまり私たちはお前に人生を破壊された末に、殺されたというわけだ」
私のあとに流れるようにライナスが言葉を続けた。
その言葉を聞いた王さまは、顔色を悪くして目を見開き、何かを言おうとして口を開いたけれども「沈黙」が効いているから声は出なかった。
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