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帰還編

ローデン公爵家 (2)

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 そしてついに王都に到着し、私たちは真っ先にローデン家へ向かった。
 出迎えたのはやはり、以前王都で声をかけてきた初老の紳士だった。通された応接室で、ご領主さまが私をローデン公に紹介した。

「こちらがウィリアムとジュリアの娘、フィミアです」
「はじめまして。フィミアと申します」
「よく来てくれたね」

 はじめまして、と挨拶してよいのかちょっと自信がない。でも顔を見たことがあるというだけで、紹介されたのは初めてだからたぶんこれでいい、はず。
 ローデン公はあの日私が逃げたことには触れることなく、歓迎の言葉を口にした。

 王子さまは私たちを引き合わせただけで、すぐにあわただしく去って行った。
 ローデン公は王子さまを見送ってから、はやる気持ちを抑えきれない様子で私に尋ねた。

「それで、ウィリアムは今どこに……?」
「両親は五年前に亡くなりました」
「え? いや、でも────」

 私は何をどこまで話してよいやら見当がつかず、困惑してご領主さまのほうへ視線を向けた。ご領主さまはうなずいて見せると、話を引き取ってくださった。

「閣下は殿下から何とお聞きになっていますか」
「ウィリアムの娘とその連れを行かせるのでかくまってほしい、とだけ」
「なるほど」

 ご領主さまはしばし黙考したのち、「長くなりますが、最初からすべてお話ししましょう」とおっしゃり、父がローデン家から出奔したところから語り始めた。

 国を出ようとしていた父を引き留め、領地に招いたこと。
 村の外から訪れた者と顔を合わせる機会がなるべく少なくてすむよう、街道から離れた村外れに家を用意したこと。
 祝福された結婚指輪に願って、母が父のもとに逃れたこと。
 私と弟が生まれたこと。
 ライナスが私たちと親しくなり、半ばうちの子のように我が家に入り浸っていたこと。

 そして、前科持ちのハンターが引き連れ回した魔獣により両親と弟は命を落としたこと。
 私とライナスは間一髪で難を逃れたこと。

 ライナスが勇者に選ばれ、私にはひそかに封印解除のスキルが授けられていたこと。
 ライナスは出立前に私と神殿で婚姻の誓いを交わしたこと。
 そのとき結婚指輪を祝福してもらって身につけたこと。

 凱旋してきたライナスの指には指輪がなかったこと。
 指輪のおかげで、凱旋したライナスがニセモノだと気づいたこと。
 それで私が指輪に願って本物のライナスのもとに飛び、封印されていた彼を救い出したこと。
 魔王城からの帰り道でローデン公に声をかけられ、状況がわからず逃げ出したこと。
 一度領地に戻った後、偽ライナスを封印するため王都に戻ってきたこと。

「ウィリアムとジュリア、その子のティモシーは私がこの手で弔いました。これまでフィミアの身の安全を優先するあまり何もお知らせしなかったこと、お詫び申し上げます」

 話を締めくくってご領主さまが深々と頭を下げると、ローデン公は首を横に振りながら片手で制した。その目もとはうっすらと赤くなっていた。
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