上 下
60 / 98
帰還編

両親の過去 (4)

しおりを挟む
 やっぱり私たちは二人とも、世間知らずだ。聞かなければ知らないことが多すぎる。勇者となって王都へ出て行った分、ライナスのほうが私よりはずっとましだけど、でも十分ではない。
 そして、いろいろなことを聞けば聞くほど王家が嫌いになっていく。

「きみはジュリアの若い頃にそっくりだからなあ。もう王都には近寄らないほうがいい。王の目に触れたら、また何を言い出すかわからん」
「はい……?」
「ジュリアの二の舞になりかねない、ということだよ」
「え、やだ。絶対にいやです」

 聞いただけでもぞっとして、隣に座っていたライナスに思わずひしとすがりついてしまった。
 でも、待って。

 偽ライナスは王宮にいる。それを封印するためには、浄化魔法の使い手が必要だ。だからその役は、私が果たすつもりでいた。なのに今、私は王都に行かないほうがいいと言われてしまったのだ。それは困る。もう封印役を他の人にはまかせたくない。
 そのとき、思いついたことがあったのでライナスに尋ねてみた。

「ねえ、ライ。『姿写し』って、自分以外には使えない?」
「使えない」
「残念」

 私の姿が変えられたら、それが一番簡単なのに。
 王さまとお姫さまのせいで、いらない面倒ばかりが増えていく。

「でも私、もう他の誰にも封印水晶は預けたくない」
「本来、聖女はきみだったはずだしね」

 私の愚痴に、ご領主さまが不思議な言葉を返してきた。
 意味がわからず首をかしげていると、ご領主さまが説明してくださった。

 もし王さまが母に横恋慕したりしなければ、両親は駆け落ちなどすることもなく、ローデン家を継いでいたはずだ。そうすれば両親の子である私は能力を隠す必要もなく、順当に上級魔法まで覚え、当然聖女に選ばれていただろう、と言うのだ。なるほど。
 本当にあの王さまは、ろくでもない。

 私のその考えを読んだかのように、お兄さまが口を開いた。

「やっぱりあの国王は何とかしないとな」

 え、何とかって、どうするの?
 いつも朗らかなお兄さまの口から出たとはとても思えない不穏な言葉に、私とライナスは顔を見合わせてから、同時にお兄さまのほうを見た。お兄さまは、私たちの問いかけるような視線に言葉で答えることはなく、ただにっこりと微笑んでみせただけだった。不穏さが増した。

「数日内に王都から友人が来るから、そのときまた一緒に相談しよう」
「はい」

 その「ご友人」がとんでもない人であることは、このときはまだまったく想像もしていなかった。

 そして私はローデン家のことも、もうすっかり自分とは関係ないものとして頭の隅に追いやってしまっていた。伯父の探している父は、もうこの世にいない。だからもはや私には関係ない人だと、そう思っていた。ご領主さまに聞かされていた、ローデン家の当主となるための条件のことなど、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...