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魔王城編

魔王城、下層探索 (3)

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 部屋の中央に置かれている大きな円卓に、持って来た小菓子を出して、木製のカップに水筒から水を注ぐ。
 魔王城に転移してくるときに持っていた荷物がすごい量になっていたのは、ご領主さまからこんなものまで持たされていたからだった。おそろしいことにワインの入った水筒まで詰め込まれている。

 小腹を満たしながら、ライナスと情報交換した。
 書棚の本は、どうやら分類別に仕分けられているようだった。ただし年代も言語も関係なく、分類が一緒であれば同じ棚に置かれている。もっとも私とライナスはどちらも外国語にはあまり堪能ではないから、外国語の本がすべて本当に同じ分類の本かどうかまでは確認できていない。ただ、まあ、外国語の本だけ分類無視で置くほうが不自然だから、たぶん合っているだろうと思う。

 情報交換も終わり、続きを再開しようと立ち上がろうとしたところ、ライナスにとめられた。
 ライナスは私を円卓の前に座らせたまま書棚に向かい、迷いのない手つきで数冊の本を取り出して、私のところに持って来た。

「フィーには、これを読んでみてほしいんだ」

 手にとってみると、それは上級魔法書だった。回復魔法、浄化魔法、補助魔法。
 中級魔法までは一冊にまとまっていたけど、上級魔法は分冊になっているらしい。

「今読むの?」
「うん。もし覚えられそうなら、覚えてほしい。書棚の調査は俺がやるから」

 上級魔法なんてさすがに覚えられる気がしないし、時間の無駄のように思われた。でもライナスは、試してみるべきだと言って譲らない。

「フィーは中級魔法だって、本を読んだだけで覚えてたよね。なら上級だって試す価値はある」
「いやいや。あれは読めばわかるように書いてあったからで────」
「上級の本だって、読めばわかるように書いてあるかもしれないよ?」

 今日のライナスは、妙に頑固だ。
 ライナスに仕事をやらせて自分だけ本を読んでいるだなんて、どうしても気が引けてしまう。でも当のライナスがそうしろと言い張るのだから、仕方がない。
 結局、私が折れた。

 まずは回復魔法の本を手に取る。
 回復魔法がどのように作用するかに始まり、初級や中級魔法との関連など、基本的な説明が詳しく書かれている。上級という名称に気圧されてしまったけど、説明のわかりやすさは意外なことに初級や中級と大差がなかった。薬師に必要な知識と重なる部分も多いから、それでわかりやすく感じるのかもしれない。

 いつの間にか時間が経つのも忘れ、すっかり本に没頭していた。
 洞窟の中の部屋だと陽光の変化がわからず、時間の感覚が失われる。

「フィー、そろそろ食事にしよう」

 ライナスに声をかけられて顔を上げ、お腹がすいていることに気づいた。
 彼は本をのぞき込むと、私の進み具合を尋ねた。

「上級魔法書はどう?」
「まだ理論の解説のところしか読めてないけど、意外とわかりやすかった」
「やっぱりな」

 やっぱりってどういう意味だろう。ライナスの言葉に首をかしげると、なぜか彼は得意そうな顔をする。

「フィーならきっと習得できると思ってたんだ」
「まだ読み始めただけだから。覚えられるかどうかまではわからないわよ」
「大丈夫。できるよ」

 ライナスはいかにも自信たっぷりに請け合うので、笑ってしまう。いったいその自信は、どこからわいてくるの。
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