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魔王城編

魔王城、中庭 (4)

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 魔王とは、そもそもこの世界に産み落とされた存在ではないらしい。
 何かの拍子に異世界から紛れ込んできた、異物だった。

 異物であっても、共存できる存在ならば問題なかった。
 しかし魔王は違った。直接的に人間たちに害をなすことこそしなかったが、魔獣を生み出した。その魔獣は、既存の生態系を破壊して全世界にはびこっていく。しかもひとつ、またひとつと魔獣の種類を増やしていき、種類が増えるたびに人間たちの受ける被害は大きくなっていった。

 魔獣の被害により、とある小さな農業国が滅んだ頃、聖剣が現れた。
 これを抜いたのが初代勇者というわけだ。

 勇者たちには神聖スキルが与えられるが、これは魔王の持つスキルと同等のものを同じ数だけ与えられる。それに加えて、勇者には魔王のスキルを封じることのできる「スキル封じ」というスキルが与えられる。ただし「スキル封じ」が封じるのは、魔王のスキルだけではない。必ず対になる勇者のスキルも同時に封じられる。ある意味、自爆的なスキルではある。

 魔王戦ではスキルを使って戦いつつ、魔王のスキルをひとつずつ封じて弱体化していくのが勇者の役割だ。最後はどちらもスキルをすべて失ってただの肉弾戦になるのだとか。
 ただしスキルさえなければ、勇者にとってさほど強い敵ではないから抑え込むことができる。
 不死である魔王に対して勇者ができるのは、そこまでだ。抑え込まれた魔王を封印水晶を使って封じるのは、封印役の仕事となる。

 初代勇者が封印されたのは、裏切りが原因ではなかった。
 純然たる事故だった。

 事故というか、封印役が最後の最後でどうしても魔王と勇者を見分けられなかったのだ。それでイチかバチかの勝負に出て、間違った。たぶん間違ったことに気づいたのは、当の勇者と魔王だけだったことだだろう。あるいは他の人間も、いくばくかの疑念を抱いてはいたかもしれない。でも確証は持てなかった。だから間違いはなかったと、自分たちに言い聞かせるしかなかったのだろう。

 ただ討伐メンバーが間違ったとしても、家族や恋人など親しい人なら気づいてもよさそうなものだ。そして気づく人がいれば、封印解除だってできたのではないか。

「初代勇者のとき、封印解除のスキルは誰が持っていたの?」
「封印解除のスキルは、誰の記憶の中にもなかったよ。誰にも授けられていなかったのかもしれない。でももしかしたら勇者が知らなかっただけかもしれないし、どっちかはわからないな」

 初代勇者との戦いで、勇者に擬態したことで封印をまぬがれた魔王は、これに味を占めたらしい。それ以降の勇者との戦いでは、積極的に封印役を騙す方向に舵を切った。魔王の手口は回数を重ねるごとにどんどん洗練され、ついには封印役を抱き込んで裏切らせるまでになる。それが今回だ。

 勇者たちの記憶を重ね合わせると、時代が下るにつれて魔王と魔獣が進化していることが読みとれた、とライナスは言う。初代勇者の時代には、魔王の持つスキルは五個程度に過ぎなかった。魔獣もほんの数種類しかいなかった。現在のように魔法を使う魔獣や、仲間意識を持って集団行動するような魔獣は存在しなかったのだそうだ。

 当代の勇者であるライナスは、歴代勇者の中で最多のスキルを得た。
 しかしライナスが得たスキルは、魔王のスキルをすべて封じきったときに一度すべて失われた。本当であればそこで魔王を封印して、その後ライナスは勇者としての役割を終えて、身体能力がちょっと高いだけの普通の人間として生きていくことになっていた。
 たぶんそれが、天が用意した本来の筋書きだった。

 けれどもライナスは魔王の代わりに封印されてしまった。それを私が封印解除したことで、解除の副次的な効果である全回復によりすべてのスキルを取り戻してしまった。スキルを失った魔王と、スキルを取り戻したライナス。もう勝敗は明らかだ。
 ただし今回は魔王とのスキルの封じ合いがないから、魔王を封印した後もライナスのスキルは残ることになる。

 天にとって、おそらくそれは不都合なことだったのだろう。
 この世界に魔王のスキルなど不要だ。
 だから今までは何度封印に失敗しようとも、封印を解除する方法はとられなかった。

 だけどその不都合に目をつぶってでも、今回はもう封印の失敗が許されないということなのかもしれない。
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