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番外

勇者のまどろみ (10)

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 こうして俺は、無駄に大所帯な討伐隊とともに出発することとなった。
 王女さまはなんと、四頭立ての豪華な馬車での移動だった。お陰で移動速度も大幅に落ちる。さっさと討伐して、とっととフィミアのもとに帰りたいのに、こののんびり具合にはげんなりした。

 ところが、のんびりしているのなんて、問題としてはまだかわいいほうだった。出発して間もなく、最初の宿泊地でとんでもない事態に遭遇する。基本的にはテントで夜を過ごすことになるのだが、王女さまはベッドをご所望になった。
 王女さまのご所望とあらば、村で一番上等のベッドを利用していただくほかない。村で一番上等のベッドと言えば、村長宅のベッドである。かくして村長夫妻は自宅を追い出され、王女さまとそのお付きの者たちが村長宅に我が物顔で滞在することになった。

 その話を聞いて何だかいやな予感がした俺は、追い出されて知人宅に身を寄せていた村長夫妻を探し出して、事情を聞いた。問答無用で追い出されたそうだ。家に置いてあった酒などの嗜好品は、好き勝手に飲み食いされている。にもかかわらず、補償の話は何もないと言う。
 話を聞いて、俺はめまいがした。両親の言っていた「腐っている」とは、こういうことか。

 手持ちの中から、被害の穴埋めができる程度の金を渡し、迷惑をかけたことを謝罪した。けれども、この先もこの連中は同じことを繰り返すだろう。そのたびに被害者に渡せるほどの潤沢な資金は、俺にはない。
 そこで村長に少し金を渡して、次の宿泊予定地に早馬を出すよう頼んだ。少しでも被害を減らすためにできるだけ自衛するよう、先に知らせておくのだ。村長宅を占拠すること自体は、俺にはとめられない。だから家になるべく嗜好品を置かないよう、家具はなるべく汚されてもかまわないものと入れ替えておくよう、警告してもらおう。村長は快く引き受けてくれた。

 こんなことしかできない自分が情けなかったけど、これが俺にできる精一杯だった。
 次の村でも、追い出された村長を探し出して話をした。村長は深々と頭を下げて、俺に礼を言った。

「先触れをいただいたおかげで、準備ができました。ありがとうございます」
「これぐらいしかできなくて……。迷惑をかけて申し訳ない」
「とんでもない。ご自分だって討伐で大変な身でいらっしゃるでしょう。十分ですよ」

 村長はすでに自主的に次の村に早馬を出してくれていた。
 早馬の費用を払おうと財布を取り出したら、村長に押しとどめられた。

「お気持ちだけで結構です。そこまでしていただくわけにはまいりませんよ」

 正直、道中ずっと費用を出し続けられるか懐具合が不安だったので、この申し出には非常に助かった。
 この先は、村長たちがそれぞれ次の村に先触れを出してくれた。お陰で、王女さまが占拠する家の設備は先に進むにつれてどんどん質が下がっていったらしい。ついにはベッドさえなくなり、「麦わらの山しかないなんて!」とぷりぷり怒りながら、馬車の簡易ベッドを使っていた。
 最初からそうしていれば、誰にも迷惑をかけずに済んだのに。
 ベッドの代わりに麦わらを用意した村長に、俺は心の中で拍手喝采を送った。
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