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本編

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 ライナスが魔王討伐に出ている間の二年間、私は少しずつ旅支度を進めた。
 何もなければそれでよいけど、自分の持っているスキルを考えると、不測の事態に備えておくべきのような気がしたのだ。ライナスの覚醒と同時に授けられたスキルだというのも、気になる要因だった。

 そして討伐から帰ってきたライナスは、すっかり別人になっていたのだった。
 私のことを愛称でなく「フィミア」と呼び、結婚指輪を身につけていないあのライナスは、いったい何者なのか。

 私のライでないことだけは、間違いない。
 だって私の指輪は、ちゃんと私の指にまだはまっているのだから。あれは一度身につけたら、指輪が壊れて消える以外に外す方法がない。つまり一方の指輪だけが残っている状態というのは、ありえないのだ。

 私はライナスもどきと王女さまが帰って行った後、大急ぎで旅支度をした。
 ご領主さまにだけは、簡単に事情を説明する手紙をしたためた。
 支度が終わった頃には、とっぷりと日が沈んでしまっていた。

 自分にどれだけの荷物が運べるのか見当もつかないけど、よろよろするほど荷物を背負って馬にまたがり、もう一頭の馬の手綱を握りしめて、指輪に強く願った。

「ライナスのところへ連れて行って!」

 私の願いに応えるように、足もとに淡く光る白い魔法陣が現れた。魔法陣の光は徐々に増し、全身が真っ白い光に包まれた後、景色が暗転した。背負った荷物と馬は、無事に運べたようだった。

 暗がりに目が慣れてくると、すぐ目の前に大きな透明の球体があるのに気づいた。その中心に、傷だらけのライナスが目を閉じて宙に浮いている。左手の指を見ると、ビーズ細工の指輪がはまっていた。私のライだ。

 私は馬から降りて、球体に両手を当て、封印解除を強く願った。そうすると、手を当てた部分からじわじわと少しずつ半透明に白く光る部分が広がっていく。光る部分は、ゆっくり、ゆっくりと広がっていき、やがて球体全体を覆い尽くした。一時間以上もそうしていたように感じたけど、たぶん実際には五分かそこらだったと思う。

 球体を覆った光は、中にいるライナスも包み込み、見る間に彼の傷が消えていく。すべての傷が消えると、今度は光が弱まっていった。中にいるライナスは、瞬きをしてから目を開き、私のほうを見た。やっと本物のライナスに会えたことに安堵して、私は笑みを浮かべた。

「助けに来たわよ、お姫さま」
「そこはせめて、王子さまにしておいてよ」

 ライナスは笑いながら球体の中から飛び降りてきた。

「はいはい。助けに参りましたよ、封印されちゃった間抜けな王子さま」
「ひどい」

 ライナスが飛び降りると、球体は一気に手のひらに載る大きさにまで縮んでから地面に落ちて、光が消えた。私は地面に転がった封印水晶を拾い、荷物の中に大事にしまった。

「来てくれてありがとう。本当にフィーには救われてばっかりだ」

 そう言ってライナスが抱きついてきたので、私は「どういたしまして」と返してキスをした。
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