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本編
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私は両親の後を継いで、薬屋を続けた。
たったひとりになってしまった家と店は、がらんとして妙に広く静かで、寂しかった。
弟がいなくなってしまったからライナスが家に来ることもなくなるだろうと思っていたのに、彼は逆に以前にも増してうちに入り浸るようになった。
私は店の切り盛りや家事で忙しいから、相変わらずほったらかしだ。それでも家に誰かいる、というだけでどれほど心が慰められ、安心できただろう。ライナスがいてくれて、本当にありがたかった。
ライナスは長年入り浸っていただけのことはあり、よく勝手をわかっていて、何も言わなくてもいろいろ手伝ってくれた。私が薬を調合している横で帳簿をつけてくれたり、食事の支度をしていると店先の整理をしてくれたり。
冷静に考えたらご領主さまのご子息に何をやらせてるんだって感じなのだけど、まあ、ライナスだから。
ライナスがお兄さまに剣を教わり始めたことにも、驚かされた。前から教わってはいたらしいのだけど、真剣に取り組み始めたのだ。うちに来ているときでも、暇があればお兄さまに課された鍛錬をこなしていた。
何ごとも、真剣にやれば必ず成果はついてくるものだ。
背ばかり高くてひょろひょろと頼りない体型だったライナスは、お兄さまには及ばないものの、次第に筋肉がついて男らしくなってきた。一見それほど変わっていないのに、よく見ると腕も足も前とは全然違って太くなっている。
筋肉がついたら、足も多少は速くなった。今までは全力疾走で私と距離が二倍くらい違っていたのが、私よりちょっと遅い程度にはなった。そして何よりすばらしいことに、転ばなくなった。
大して足が速くならなかったのとは裏腹に、筋肉がついた分だけライナスの腕力は上がった。思えば、もともと小さい頃からひょろい割に力は強かったのだ。運動神経が鈍すぎるせいで腕力を発揮する機会がなかっただけで。
鍛錬のおかげで単純な腕力だけなら村一番にまでなったらしい。見るからに強そうなあのお兄さまにも腕相撲で勝てるというから、すごい。
泣かなくなったライナスは、何だか急に大人びて、かっこよくなってしまって戸惑う。
ライナスのくせに。
店の切り盛りと家事に慣れ、家にライナスと二人きりでいるのが日常になってきた頃、魔王が復活したとの知らせが国中を駆けめぐった。
私が十七歳、ライナスが十八歳のときのことだった。
たったひとりになってしまった家と店は、がらんとして妙に広く静かで、寂しかった。
弟がいなくなってしまったからライナスが家に来ることもなくなるだろうと思っていたのに、彼は逆に以前にも増してうちに入り浸るようになった。
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ライナスは長年入り浸っていただけのことはあり、よく勝手をわかっていて、何も言わなくてもいろいろ手伝ってくれた。私が薬を調合している横で帳簿をつけてくれたり、食事の支度をしていると店先の整理をしてくれたり。
冷静に考えたらご領主さまのご子息に何をやらせてるんだって感じなのだけど、まあ、ライナスだから。
ライナスがお兄さまに剣を教わり始めたことにも、驚かされた。前から教わってはいたらしいのだけど、真剣に取り組み始めたのだ。うちに来ているときでも、暇があればお兄さまに課された鍛錬をこなしていた。
何ごとも、真剣にやれば必ず成果はついてくるものだ。
背ばかり高くてひょろひょろと頼りない体型だったライナスは、お兄さまには及ばないものの、次第に筋肉がついて男らしくなってきた。一見それほど変わっていないのに、よく見ると腕も足も前とは全然違って太くなっている。
筋肉がついたら、足も多少は速くなった。今までは全力疾走で私と距離が二倍くらい違っていたのが、私よりちょっと遅い程度にはなった。そして何よりすばらしいことに、転ばなくなった。
大して足が速くならなかったのとは裏腹に、筋肉がついた分だけライナスの腕力は上がった。思えば、もともと小さい頃からひょろい割に力は強かったのだ。運動神経が鈍すぎるせいで腕力を発揮する機会がなかっただけで。
鍛錬のおかげで単純な腕力だけなら村一番にまでなったらしい。見るからに強そうなあのお兄さまにも腕相撲で勝てるというから、すごい。
泣かなくなったライナスは、何だか急に大人びて、かっこよくなってしまって戸惑う。
ライナスのくせに。
店の切り盛りと家事に慣れ、家にライナスと二人きりでいるのが日常になってきた頃、魔王が復活したとの知らせが国中を駆けめぐった。
私が十七歳、ライナスが十八歳のときのことだった。
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