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ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯
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その夜も少し踊った後に養父にねだり、テラスに出ていた。
うっとり夢心地で夜会ホールを眺めていると、突然背後から足音が聞こえ、闇の中から人影が現れた。それがジョルジュだった。
「おお、これが妖精か」
私のほうを見てこんなことを言うもので、思い切りうろんげな眼差しを向けてしまった。だってふざけているなら失礼だし、本気で言っているなら頭が心配だ。なのに養父から「王太子殿下だ」と耳打ちされたものだから、あわててお辞儀をした。
後で聞いた話では、「王宮の夜会には、妖精が出る」とうわさが流れていたそうだ。どうやら私がテラスに出ていたところを窓越しに目撃した人たちが「あれは妖精じゃないのか」と言い出したのが発端らしい。うわさの真相を確かめようと彼がときどき外を見回っていたところ、私に行き当たったというわけだった。王太子殿下みずから何をしておいでなのやら。
そんなきっかけで知り合った後、ジョルジュは私を見かけるたびに声をかけてくるようになった。
最初は「ずいぶん気さくな王子さまだな」としか思っていなかった私も、回数を重ねるうちにはジョルジュの目に宿る好意に気づくようになる。見目のよい王子さまに好意を示されれば、私だって悪い気はしない。読む本の話をしたりして、話題が合えばなおさらだ。
ただしジョルジュは好意を態度で示すものの、具体的に言葉にするわけではなかった。だから私は困惑しつつ、相手の好意には気づいていないふりをしていた。
とはいえ、十六歳の小娘でも気づくほどのあからさまな好意だ。周囲が気づかないわけがない。
当然の結果として、王太子の妃の座を狙っているお嬢さまがたからの嫌がらせが始まった。
中でも婚約者候補の筆頭だという侯爵家のお嬢さまは、なかなかに苛烈だった。
いちいち突っかかってきては嫌みを浴びせていく。でもまあ、言葉で済ませるのは、まだおとなしいほうだ。
しつけのなってない子どもみたいな、直接的な行動に出てくることまであった。やることの程度が低すぎて、びっくりだ。きっと爵位が下の者には何をしてもいいと思っているんだろう。
後ろを通り過ぎる振りをしながらドレスのすそを踏みつけて転ばせようとしたり、軽食用の部屋からわざわざワイングラスを持ち出してよろけた振りをしてドレスにかけようとしたり。あなた、本当にお嬢さまなの?
気の毒なことに、彼女の仕掛ける意地悪はとても成功率が低かった。
すそを踏まれたときには歩みをとめて、周囲に気を遣ってすそをさばくような仕草で優雅に、でも実際には力いっぱいに踏まれたすそを引いてやる。一流の女優を目指す私には、これくらいは造作もない。こうすると、踏みつけたほうが足をとられてしりもちをつくことになるのだ。夜会ホールの真ん中で、はしたない姿をさらす羽目になっていたけど、同情はしない。
ワインなんて、彼女は挙動が不審すぎるから余裕で避けられる。私が避ければ絨毯にしみをつくるか、誰か別の人が犠牲になるわけだ。あの見るからに値段の高そうな絨毯にワインをかけるだなんて、考えるだけでおそろしい。彼女、弁償したのかしら。
そんなふうに彼女に絡まれている私を見て、ジョルジュは夜会の間ずっと私に付き添うようになった。
それがさらなるやっかみを生むのだけど、とりあえず夜会の間の直接的な攻撃はなりを潜めた。
夜会で王子さまに一目惚れされるなんて、まったくヒロインみたいよね。
だけど、私が王道ヒロインだったのはここまで。
この後に起きたある出来事から急転直下、凋落の一途をたどることになる。
うっとり夢心地で夜会ホールを眺めていると、突然背後から足音が聞こえ、闇の中から人影が現れた。それがジョルジュだった。
「おお、これが妖精か」
私のほうを見てこんなことを言うもので、思い切りうろんげな眼差しを向けてしまった。だってふざけているなら失礼だし、本気で言っているなら頭が心配だ。なのに養父から「王太子殿下だ」と耳打ちされたものだから、あわててお辞儀をした。
後で聞いた話では、「王宮の夜会には、妖精が出る」とうわさが流れていたそうだ。どうやら私がテラスに出ていたところを窓越しに目撃した人たちが「あれは妖精じゃないのか」と言い出したのが発端らしい。うわさの真相を確かめようと彼がときどき外を見回っていたところ、私に行き当たったというわけだった。王太子殿下みずから何をしておいでなのやら。
そんなきっかけで知り合った後、ジョルジュは私を見かけるたびに声をかけてくるようになった。
最初は「ずいぶん気さくな王子さまだな」としか思っていなかった私も、回数を重ねるうちにはジョルジュの目に宿る好意に気づくようになる。見目のよい王子さまに好意を示されれば、私だって悪い気はしない。読む本の話をしたりして、話題が合えばなおさらだ。
ただしジョルジュは好意を態度で示すものの、具体的に言葉にするわけではなかった。だから私は困惑しつつ、相手の好意には気づいていないふりをしていた。
とはいえ、十六歳の小娘でも気づくほどのあからさまな好意だ。周囲が気づかないわけがない。
当然の結果として、王太子の妃の座を狙っているお嬢さまがたからの嫌がらせが始まった。
中でも婚約者候補の筆頭だという侯爵家のお嬢さまは、なかなかに苛烈だった。
いちいち突っかかってきては嫌みを浴びせていく。でもまあ、言葉で済ませるのは、まだおとなしいほうだ。
しつけのなってない子どもみたいな、直接的な行動に出てくることまであった。やることの程度が低すぎて、びっくりだ。きっと爵位が下の者には何をしてもいいと思っているんだろう。
後ろを通り過ぎる振りをしながらドレスのすそを踏みつけて転ばせようとしたり、軽食用の部屋からわざわざワイングラスを持ち出してよろけた振りをしてドレスにかけようとしたり。あなた、本当にお嬢さまなの?
気の毒なことに、彼女の仕掛ける意地悪はとても成功率が低かった。
すそを踏まれたときには歩みをとめて、周囲に気を遣ってすそをさばくような仕草で優雅に、でも実際には力いっぱいに踏まれたすそを引いてやる。一流の女優を目指す私には、これくらいは造作もない。こうすると、踏みつけたほうが足をとられてしりもちをつくことになるのだ。夜会ホールの真ん中で、はしたない姿をさらす羽目になっていたけど、同情はしない。
ワインなんて、彼女は挙動が不審すぎるから余裕で避けられる。私が避ければ絨毯にしみをつくるか、誰か別の人が犠牲になるわけだ。あの見るからに値段の高そうな絨毯にワインをかけるだなんて、考えるだけでおそろしい。彼女、弁償したのかしら。
そんなふうに彼女に絡まれている私を見て、ジョルジュは夜会の間ずっと私に付き添うようになった。
それがさらなるやっかみを生むのだけど、とりあえず夜会の間の直接的な攻撃はなりを潜めた。
夜会で王子さまに一目惚れされるなんて、まったくヒロインみたいよね。
だけど、私が王道ヒロインだったのはここまで。
この後に起きたある出来事から急転直下、凋落の一途をたどることになる。
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