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ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

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 唯一の肉親を失って呆然としていた私の前へ現れたのが、その後養父となった男爵だ。私の父の知り合いだと言う。
 母からは父の話を一度も聞いたことがなかったので、本当の話なのか正直まったく判断がつかなかった。でも引き取ってもらわなければ、きっと身売りするよりほかないだろう。それに男爵は見るからに誠実そうだった。それで素直に男爵について行き、養女となった。

 この辺りまでは、まさに王道ヒロインという感じの人生だった。
 片親の幼少期を過ごした後に貴族の養女になるなんて、これぞお決まりの展開ってものじゃない?

 男爵家での暮らしは、決して悪くはなかった。
 いきなり私のような境遇の娘を引き取ったら、浮気の末の婚外子と疑われても不思議ないと思うのに、夫人から冷遇されるようなことは一切なかった。きちんと教育も受けさせ、五人いる実子とほぼ変わらない扱いだったと思う。
 ただし男爵の知り合いだという実父について尋ねたときだけは、男爵も夫人もはぐらかすばかりで何も教えてはもらえなかった。

 とてもよくしてもらったとは思うけれども、本当の親子のようだったかというと、それはない。やはりどこか一線を引かれているというか、「預かっている子」という感じの接し方だった。

 でも男爵の実子たちとは、そこそこ仲良くなれたと思う。
 男爵家は子だくさんで、私より上に三人、下に二人の子がいた。真面目な長兄、面倒見のよい姉、快活な次兄、物静かで賢い上の妹、おしゃまでちゃっかりしている下の妹、という構成だ。みんな実の兄弟と変わりなく接してくれた。特に妹たちとは歳がほとんど変わらず、姉妹というより仲のよい友人のような関係だったと思う。全員そろうとそれは賑やかで、母との二人暮らししか知らない私には新鮮だった。


 王太子だったジョルジュと知り合ったのは、社交界にお披露目をした十六歳のときだ。
 三歳上のジョルジュは、そのとき十九歳。

 養父母に夜会に連れて行かれると、私はテラスに出るのを楽しみにしていた。
 夜会ホールを外から眺めるのが好きなのだ。テラスは恋人たちの語らいの場となっていることもしばしばあるけど、そうでなければ養父母の許可を得てから外に出る。養父か兄たちのどちらかが、必ず付き添ってくれた。

 テラスから夜会のホールを眺めると、ガラス窓からこぼれる夜会の灯りがきらきらと輝く。特にシャンデリアが見える角度から見ると、夜空の星をすべて集めて飾りつけたかのようで、いつまで見ていても見飽きないほど美しいのだ。本物の劇場にはまだ行ったことがなかったけれども、母の言う「一流の女優」の立つ舞台はきっとこんな場所だろうと思った。
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