24 / 46
舌先三寸の制裁措置 (2)
しおりを挟む
夫人に勧められるがまま全員が着席し、そこからはシモンの独擅場だった。
彼は控えめで遠慮がちな態度を崩すことはなかったが、前日からこの日にかけての、商会長がリンダを連れて来ざるを得なくなったいきさつを余すことなく夫人に語って聞かせたのだ。
しかし話を夫人に聞かせたくない男爵は、たびたび口をはさんで邪魔をする。
その都度、夫人が「まずはお話を伺いたいから、あなたは少し黙っていらして」とたしなめるのだが、一向に男爵は大人しくしていない。やがてしびれを切らしたらしい夫人は、にこやかながら有無を言わせない声音で夫に告げた。
「あなた、この大事なお客さまがたにお出しするりんご酒を、今のうちに選んでおいてくださらないかしら。とっておきのものをお願いしますね」
いかにもとってつけたような、この場から追い払うための口実でしかないのだが、男爵は妻の威圧に屈して不承不承ながらも部屋を出て行った。
邪魔が入らなくなれば、話が進むのは早い。
最終的に、シモンは夫人に洗いざらいすべて暴露した。
身分を笠に着て理不尽な要求をされたために、自分も身分を持ち出し、相手の言葉尻を捉えて無理やり屋敷に招待させてしまったことまで、一部始終をすべて語って聞かせたのだ。シモンは夫人に対して、大人数で強引に押し掛けた無礼を謝罪した。
シモンがすべて話し終わると、夫人は沈痛な面もちで目を閉じ、少しの間沈黙した。そしてゆっくりと目を開けると、夫人は副会長とリンダに向かって深々と頭を下げた。
「そちらのお嬢さんにおそろしい思いをさせてしまったこと、本当に申し訳なく思います。もう何と言ってよいのか、言葉にできないほど情けないわ……」
あの男爵とは違い、この夫人はとても良識的で話のわかる人物だった。
彼女の倫理観に従えば、本人の意思に反して未来ある若い女性を無理やり召し上げるようなことは、あってはならない恥ずべき行為だ。
夫人は、このようなことが二度とないよう、夫婦で十分な話し合いを持つことを約束した。
「お詫びにもならないけれど、せめて今日はゆっくりと楽しんで滞在していただけるよう心を尽くします」
この後、十四歳を頭に四人の男爵家の子どもたちを紹介され、夕食まで賑やかに過ごした。
下の子どもたちは、珍しく年若い客人のあることに大興奮だ。夫人に「このかたがたは、あなたたちと遊ぶためにいらしたのではなくってよ」とたしなめられてもなかなか離れようとせず、最終的に夕食前に乳母に連れて行かれるまでアンジーやミリーにまとわりついていた。
夕食の席は、終始なごやかだった。ただし男爵だけは、ひとり静かだったが。
ひとりずつ立派な客室に通されて、夜はゆっくり休み、翌日は朝食をとってから男爵邸を後にした。
帰りの馬車の中で、アンジーはシモンを絶賛した。
「シモンさん、すごい。かっこよかった!」
「え、あんなことで?」
「だって、シモンさんのお陰でリンダは助かったんだもの。その上、今後はもうこんなことが起きないようにもしてくれたでしょう? 最高!」
アンジーからの賞賛の言葉に、シモンもまんざらではなさそうだ。
彼は控えめで遠慮がちな態度を崩すことはなかったが、前日からこの日にかけての、商会長がリンダを連れて来ざるを得なくなったいきさつを余すことなく夫人に語って聞かせたのだ。
しかし話を夫人に聞かせたくない男爵は、たびたび口をはさんで邪魔をする。
その都度、夫人が「まずはお話を伺いたいから、あなたは少し黙っていらして」とたしなめるのだが、一向に男爵は大人しくしていない。やがてしびれを切らしたらしい夫人は、にこやかながら有無を言わせない声音で夫に告げた。
「あなた、この大事なお客さまがたにお出しするりんご酒を、今のうちに選んでおいてくださらないかしら。とっておきのものをお願いしますね」
いかにもとってつけたような、この場から追い払うための口実でしかないのだが、男爵は妻の威圧に屈して不承不承ながらも部屋を出て行った。
邪魔が入らなくなれば、話が進むのは早い。
最終的に、シモンは夫人に洗いざらいすべて暴露した。
身分を笠に着て理不尽な要求をされたために、自分も身分を持ち出し、相手の言葉尻を捉えて無理やり屋敷に招待させてしまったことまで、一部始終をすべて語って聞かせたのだ。シモンは夫人に対して、大人数で強引に押し掛けた無礼を謝罪した。
シモンがすべて話し終わると、夫人は沈痛な面もちで目を閉じ、少しの間沈黙した。そしてゆっくりと目を開けると、夫人は副会長とリンダに向かって深々と頭を下げた。
「そちらのお嬢さんにおそろしい思いをさせてしまったこと、本当に申し訳なく思います。もう何と言ってよいのか、言葉にできないほど情けないわ……」
あの男爵とは違い、この夫人はとても良識的で話のわかる人物だった。
彼女の倫理観に従えば、本人の意思に反して未来ある若い女性を無理やり召し上げるようなことは、あってはならない恥ずべき行為だ。
夫人は、このようなことが二度とないよう、夫婦で十分な話し合いを持つことを約束した。
「お詫びにもならないけれど、せめて今日はゆっくりと楽しんで滞在していただけるよう心を尽くします」
この後、十四歳を頭に四人の男爵家の子どもたちを紹介され、夕食まで賑やかに過ごした。
下の子どもたちは、珍しく年若い客人のあることに大興奮だ。夫人に「このかたがたは、あなたたちと遊ぶためにいらしたのではなくってよ」とたしなめられてもなかなか離れようとせず、最終的に夕食前に乳母に連れて行かれるまでアンジーやミリーにまとわりついていた。
夕食の席は、終始なごやかだった。ただし男爵だけは、ひとり静かだったが。
ひとりずつ立派な客室に通されて、夜はゆっくり休み、翌日は朝食をとってから男爵邸を後にした。
帰りの馬車の中で、アンジーはシモンを絶賛した。
「シモンさん、すごい。かっこよかった!」
「え、あんなことで?」
「だって、シモンさんのお陰でリンダは助かったんだもの。その上、今後はもうこんなことが起きないようにもしてくれたでしょう? 最高!」
アンジーからの賞賛の言葉に、シモンもまんざらではなさそうだ。
18
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?
三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。
そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる