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舌先三寸の制裁措置 (2)

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 夫人に勧められるがまま全員が着席し、そこからはシモンの独擅場だった。
 彼は控えめで遠慮がちな態度を崩すことはなかったが、前日からこの日にかけての、商会長がリンダを連れて来ざるを得なくなったいきさつを余すことなく夫人に語って聞かせたのだ。

 しかし話を夫人に聞かせたくない男爵は、たびたび口をはさんで邪魔をする。
 その都度、夫人が「まずはお話を伺いたいから、あなたは少し黙っていらして」とたしなめるのだが、一向に男爵は大人しくしていない。やがてしびれを切らしたらしい夫人は、にこやかながら有無を言わせない声音で夫に告げた。

「あなた、この大事なお客さまがたにお出しするりんご酒を、今のうちに選んでおいてくださらないかしら。とっておきのものをお願いしますね」

 いかにもとってつけたような、この場から追い払うための口実でしかないのだが、男爵は妻の威圧に屈して不承不承ながらも部屋を出て行った。
 邪魔が入らなくなれば、話が進むのは早い。

 最終的に、シモンは夫人に洗いざらいすべて暴露した。
 身分を笠に着て理不尽な要求をされたために、自分も身分を持ち出し、相手の言葉尻を捉えて無理やり屋敷に招待させてしまったことまで、一部始終をすべて語って聞かせたのだ。シモンは夫人に対して、大人数で強引に押し掛けた無礼を謝罪した。

 シモンがすべて話し終わると、夫人は沈痛な面もちで目を閉じ、少しの間沈黙した。そしてゆっくりと目を開けると、夫人は副会長とリンダに向かって深々と頭を下げた。

「そちらのお嬢さんにおそろしい思いをさせてしまったこと、本当に申し訳なく思います。もう何と言ってよいのか、言葉にできないほど情けないわ……」

 あの男爵とは違い、この夫人はとても良識的で話のわかる人物だった。
 彼女の倫理観に従えば、本人の意思に反して未来ある若い女性を無理やり召し上げるようなことは、あってはならない恥ずべき行為だ。
 夫人は、このようなことが二度とないよう、夫婦で十分な話し合いを持つことを約束した。

「お詫びにもならないけれど、せめて今日はゆっくりと楽しんで滞在していただけるよう心を尽くします」

 この後、十四歳を頭に四人の男爵家の子どもたちを紹介され、夕食まで賑やかに過ごした。
 下の子どもたちは、珍しく年若い客人のあることに大興奮だ。夫人に「このかたがたは、あなたたちと遊ぶためにいらしたのではなくってよ」とたしなめられてもなかなか離れようとせず、最終的に夕食前に乳母に連れて行かれるまでアンジーやミリーにまとわりついていた。

 夕食の席は、終始なごやかだった。ただし男爵だけは、ひとり静かだったが。
 ひとりずつ立派な客室に通されて、夜はゆっくり休み、翌日は朝食をとってから男爵邸を後にした。

 帰りの馬車の中で、アンジーはシモンを絶賛した。

「シモンさん、すごい。かっこよかった!」
「え、あんなことで?」
「だって、シモンさんのお陰でリンダは助かったんだもの。その上、今後はもうこんなことが起きないようにもしてくれたでしょう? 最高!」

 アンジーからの賞賛の言葉に、シモンもまんざらではなさそうだ。
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