11 / 46
花の女王 (1)
しおりを挟む
これでは埒があかないので、アンジーは質問のしかたを変えてみることにした。
「シモンさんは、そのヒルデさんとどこでお知り合いになったんですか?」
「せめて知り合えてればよかったんですけど」
まだ知り合えてさえいないらしい。
軽くめまいを感じつつ、アンジーは気を取り直して質問を重ねた。
「ええっと、じゃあ、ヒルデさんを見初めたのはいつ、どこでだったんですか?」
「春祭りで、花の女王選びがあったでしょう? あのときです」
「なんだ。そういう重要なことは、最初に教えてくださいよ」
花の女王選びとは、要するに美人コンテストのことだ。
自薦または他薦により未婚女性の候補を募り、春祭りに先立って行われる予選にて最終選考に残す五名が選出される。そして春祭りの初日に一般公開した最終選考会が開かれ、この五名の中から一名が花の女王として選出されるのだ。
選出された者は春祭りの期間中、いくつかの催し物で花の女王役を務めることになる。
これらの催し物は、国内の大手である四つの商会が後援して開催している。アンジーの家もその商会のひとつであり、アンジー自身が主催者側の人間のため、花の女王の候補者たちの情報なら簡単に手に入れられる。
つまり、シモンの尋ね人が花の女王であるならもうわかったも同然だし、たとえ落選した候補のうちのひとりだとしても、少なくとも四人にまでは絞れるというわけだ。
「お探しの人は、花の女王ですか?」
「いや、違います」
「ということは、候補者か」
「いえ、候補者でもありません」
アンジーの思考が、一瞬停止した。
どういうことだ。花の女王選びで誰かを見初めたという話じゃなかったのか。
アンジーの眉間に深いしわが寄ったのを見て、シモンはあわてて言葉を続けた。
「花の女王選びの運営側にいたかたなんです」
「え、そっち⁉」
まあ、アンジーにとって運営側なら半分は身内みたいなものである。しかし運営に関わっている女性となると、末端まで含めれば一気に数がふくれ上がる。
アンジーはため息をついた。
「むう。振り出しに戻っちゃいましたね」
「すみません……」
「でも運営側の人なのが確かなら、四つの商会のうちのどれかの関係者で間違いないから、探しようはありますよ」
「そうなんですか?」
アンジーの言葉に、シモンは地獄で天使に手を差し伸べられたかのように目に希望の光を宿し、必死にすがるような形相で身を乗り出した。その勢いに、逆にアンジーは腰が引ける。
「きみは運営側の事情に詳しいのかな?」
「ええ。まあ」
事情に詳しいどころか、運営側の一員である。
アンジーは、花の女王選びの運営に携わった四つの商会の名を挙げた。いずれも国内大手で、まとめて四大商会などとも呼ばれる。そのうち二つの商会は、アンジーの家と、アンジーの元婚約者ローマンの家だから、除外してよい。いずれの家でも、運営に関わっている者の中にヒルデという名の年頃の女性はいないことを、アンジーは知っている。
「シモンさんは、そのヒルデさんとどこでお知り合いになったんですか?」
「せめて知り合えてればよかったんですけど」
まだ知り合えてさえいないらしい。
軽くめまいを感じつつ、アンジーは気を取り直して質問を重ねた。
「ええっと、じゃあ、ヒルデさんを見初めたのはいつ、どこでだったんですか?」
「春祭りで、花の女王選びがあったでしょう? あのときです」
「なんだ。そういう重要なことは、最初に教えてくださいよ」
花の女王選びとは、要するに美人コンテストのことだ。
自薦または他薦により未婚女性の候補を募り、春祭りに先立って行われる予選にて最終選考に残す五名が選出される。そして春祭りの初日に一般公開した最終選考会が開かれ、この五名の中から一名が花の女王として選出されるのだ。
選出された者は春祭りの期間中、いくつかの催し物で花の女王役を務めることになる。
これらの催し物は、国内の大手である四つの商会が後援して開催している。アンジーの家もその商会のひとつであり、アンジー自身が主催者側の人間のため、花の女王の候補者たちの情報なら簡単に手に入れられる。
つまり、シモンの尋ね人が花の女王であるならもうわかったも同然だし、たとえ落選した候補のうちのひとりだとしても、少なくとも四人にまでは絞れるというわけだ。
「お探しの人は、花の女王ですか?」
「いや、違います」
「ということは、候補者か」
「いえ、候補者でもありません」
アンジーの思考が、一瞬停止した。
どういうことだ。花の女王選びで誰かを見初めたという話じゃなかったのか。
アンジーの眉間に深いしわが寄ったのを見て、シモンはあわてて言葉を続けた。
「花の女王選びの運営側にいたかたなんです」
「え、そっち⁉」
まあ、アンジーにとって運営側なら半分は身内みたいなものである。しかし運営に関わっている女性となると、末端まで含めれば一気に数がふくれ上がる。
アンジーはため息をついた。
「むう。振り出しに戻っちゃいましたね」
「すみません……」
「でも運営側の人なのが確かなら、四つの商会のうちのどれかの関係者で間違いないから、探しようはありますよ」
「そうなんですか?」
アンジーの言葉に、シモンは地獄で天使に手を差し伸べられたかのように目に希望の光を宿し、必死にすがるような形相で身を乗り出した。その勢いに、逆にアンジーは腰が引ける。
「きみは運営側の事情に詳しいのかな?」
「ええ。まあ」
事情に詳しいどころか、運営側の一員である。
アンジーは、花の女王選びの運営に携わった四つの商会の名を挙げた。いずれも国内大手で、まとめて四大商会などとも呼ばれる。そのうち二つの商会は、アンジーの家と、アンジーの元婚約者ローマンの家だから、除外してよい。いずれの家でも、運営に関わっている者の中にヒルデという名の年頃の女性はいないことを、アンジーは知っている。
17
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる