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花の女王 (1)

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 これでは埒があかないので、アンジーは質問のしかたを変えてみることにした。

「シモンさんは、そのヒルデさんとどこでお知り合いになったんですか?」
「せめて知り合えてればよかったんですけど」

 まだ知り合えてさえいないらしい。
 軽くめまいを感じつつ、アンジーは気を取り直して質問を重ねた。

「ええっと、じゃあ、ヒルデさんを見初めたのはいつ、どこでだったんですか?」
「春祭りで、花の女王選びがあったでしょう? あのときです」
「なんだ。そういう重要なことは、最初に教えてくださいよ」

 花の女王選びとは、要するに美人コンテストのことだ。
 自薦または他薦により未婚女性の候補を募り、春祭りに先立って行われる予選にて最終選考に残す五名が選出される。そして春祭りの初日に一般公開した最終選考会が開かれ、この五名の中から一名が花の女王として選出されるのだ。
 選出された者は春祭りの期間中、いくつかの催し物で花の女王役を務めることになる。

 これらの催し物は、国内の大手である四つの商会が後援して開催している。アンジーの家もその商会のひとつであり、アンジー自身が主催者側の人間のため、花の女王の候補者たちの情報なら簡単に手に入れられる。

 つまり、シモンの尋ね人が花の女王であるならもうわかったも同然だし、たとえ落選した候補のうちのひとりだとしても、少なくとも四人にまでは絞れるというわけだ。

「お探しの人は、花の女王ですか?」
「いや、違います」
「ということは、候補者か」
「いえ、候補者でもありません」

 アンジーの思考が、一瞬停止した。
 どういうことだ。花の女王選びで誰かを見初めたという話じゃなかったのか。
 アンジーの眉間に深いしわが寄ったのを見て、シモンはあわてて言葉を続けた。

「花の女王選びの運営側にいたかたなんです」
「え、そっち⁉」

 まあ、アンジーにとって運営側なら半分は身内みたいなものである。しかし運営に関わっている女性となると、末端まで含めれば一気に数がふくれ上がる。
 アンジーはため息をついた。

「むう。振り出しに戻っちゃいましたね」
「すみません……」
「でも運営側の人なのが確かなら、四つの商会のうちのどれかの関係者で間違いないから、探しようはありますよ」
「そうなんですか?」

 アンジーの言葉に、シモンは地獄で天使に手を差し伸べられたかのように目に希望の光を宿し、必死にすがるような形相で身を乗り出した。その勢いに、逆にアンジーは腰が引ける。

「きみは運営側の事情に詳しいのかな?」
「ええ。まあ」

 事情に詳しいどころか、運営側の一員である。
 アンジーは、花の女王選びの運営に携わった四つの商会の名を挙げた。いずれも国内大手で、まとめて四大商会などとも呼ばれる。そのうち二つの商会は、アンジーの家と、アンジーの元婚約者ローマンの家だから、除外してよい。いずれの家でも、運営に関わっている者の中にヒルデという名の年頃の女性はいないことを、アンジーは知っている。
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